同じ特性の人同士の話しやすさと、分断への問い
働く場への移行を考えるうえでは、コミュニケーションも重要になる。村中氏は、インターンシップや説明会などで、同じような特性をもつ学生たちが1〜2週間一緒に過ごしたとき、「大学で話しているときのストレスがゼロでした」と話す学生が複数いたと振り返る。ある学生は、「ASD同士で話すのが一番楽なんです」と語ったという。似た特性をもつ人同士では、説明しなくても伝わることがあり、会話の負担が少なくなる。
一方で、村中氏は、それだけで関係が閉じ、分断が起きてよいのかという問いも投げかける
ニューロダイバーシティとは、特性のある人だけを集めることではない。必要なのは、発達障害のある人だけがコミュニケーションを頑張ることでもない。異なる特性をもつ人同士が、どうすれば伝わりやすくなるのかを双方で考えることである。
たとえば、「小さい声で話しましょう」と言われても、その「小さい」がどの程度なのかわかりにくい人がいる。実際の声量を示せば伝わる場合もある。職場では、報告、相談、依頼、断り方、注意の受け止め方など、大学とは異なるコミュニケーションも求められる。本人だけに適応を求めるのではなく、伝え方そのものを調整する視点が必要になる。
AIも、本人が使える手段の一つに
AIや文字起こしのようなツールも、苦手さを補う手段になり得る。会議や説明の内容を後から文字で確認できれば、聞き逃しを減らせる。教員へのメールに悩み続ける学生が、AIに相談しながら文面を整えることで連絡できるようになることもある。
もちろん、企業情報の扱いや倫理的な問題には注意が必要だ。それでも、支援者がすべてを補うのではなく、本人が自分で使える手段を増やしていくことも、働く場への移行に向けた準備の一つになると村中氏はみている。
企業側にも必要な「調整」の視点
働く場への移行は、学生側だけの課題ではない。企業側にも、何をどこまで配慮すればよいのかという戸惑いがある。過剰に配慮して本人の経験の機会を奪ってしまうこともあれば、困りごとを十分に聞き取れず、「ずれた」配慮になることもある。
村中氏は、障害だけを特別視しすぎないことも大切だと語る。妊娠、育児、介護、持病、体調の波など、働き方に調整が必要になる場面はさまざまにある。
ただし、障害を理由とする合理的配慮は権利保障として位置づけられるものであり、一般的な働き方の調整と同じものではない。その点を押さえたうえで、現場では「何をどう調整するのか」を具体的にしていく。指示を文字で確認する、感覚刺激を減らす、勤務時間を調整する、相談できる人を置く。さらに、上司一人に負担を集中させず、チームや部署として考える仕組みも必要になる。
働き続けられる場所を考える
働くうえでは、本人の努力だけでなく、仕事の内容や企業風土との相性が大きく影響する。定時を重視する企業もあれば、コアタイムさえ守ればよい企業もある。実直にコツコツ取り組む人を評価する企業もあれば、発信力を重視する企業もある。
本人の特性と、仕事内容や評価のされ方、職場の風土が合っていれば、学校よりも働く場の方が楽だと感じる人もいる。村中氏も、卒業後の学生から「学校より楽です」「思っていた以上にうまくいきました」という声を聞くことがあるという。
一方で、本人の譲れない部分が職務の中心とぶつかる場合には、環境を変えることも選択肢になる。職務内容や部署を変える、働く時間や場所を調整する、あるいは組織に入る以外の働き方を考える。働くことは、一つの形だけではない。
「チャレンジする機会」を支える

大きな挑戦だけを意味しない。説明会に参加する、インターンシップに行く、やったことのないことを少し試してみる。それも一つのチャレンジである。
一方で、何でも挑戦すればよいわけではない。できないことや負担が大きすぎることは、回避してよい。大切なのは、本人が何を求めているのかを一緒に整理することだ。
村中氏は、「山を登りたい人もいれば、山道を歩きたい人もいるし、景色を見たい人もいる」と表現する。同じ山を前にしていても、求めているものは一人ひとり違う。支援者が行き先を決めるのではなく、本人が自分なりの選択をできるように、試せる機会と選択肢をつくる。
最後に、若者へのメッセージとして村中氏が語ったのは、「敢えていうと、失敗をしてほしい」という言葉だった。もちろん、傷つくために失敗するという意味ではない。うまくいかなかったときに隠さず、誰かに相談し、次にどうすればよいかを考える。その経験を次の選択につなげていくということだ。
大学から働く場への移行で大切なのは、最初から「正解」を見つけることではない。必要な配慮を受けながら、自分で使える工夫を知る。実際の環境を経験し、自分に合うものと合わないものを確かめる。その積み重ねのなかで、自分なりの「働く」を形にしていく。
修学支援のその先にある「働く」を見据えるとは、学生を早く就職へ向かわせることではない。一人ひとりが自分に合った働き方を探し、選んでいく。そのプロセスに大学がどう関わるのかが問われている。
編集後記
2016年、障害者差別解消法が施行され、国立大学では障害学生支援の体制整備が進められました。当時、私も国立大学で障害学生支援に携わっており、村中さんも神戸大学で体制づくりを進めていました。新たな支援の仕組みをつくり、学内に根づかせていくまでには、さまざまな試行錯誤がありました。その頃から、学生一人ひとりを見立て、必要な支援を学内で調整していく村中さんの実践が印象に残っていました。
今回のインタビューでは、修学支援の先にある「働く」をどう捉えるのか、その具体的な実践が語られました。一人ひとりに合った働き方を、大学はどのようにともに考えていけるのか。障害学生支援に関わる私たちにとって、これからも考え続けたい問いです。
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