クラフトリリース
2026.7.22

障害のある学生の増加が大学に問いかけるもの ―個別対応をこえて、学ぶ環境を整える―

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大学で学ぶ障害のある学生は、近年、大きく増加している。障害学生支援において問われているのは、困ったときに個別に対応することだけではない。障害のある学生が学ぶことを前提に、大学の学ぶ環境をどのように整えていくのかである。本稿では、日本学生支援機構(JASSO)の調査を手がかりに、これからの大学に求められる支援のあり方を考える。

大学における障害のある学生の在籍数

JASSOの2024年度調査(2025年8月公表)によれば、障害のある学生は55,510人、全学生の1.71%にあたる。2006年には約5,000人規模だったことを踏まえると、この約20年でおよそ10倍に増えたことになる。しかも、障害のある学生が在籍している学校は1,042校、全体の89.1%にのぼる。障害のある学生の在籍は、もはや一部の大学に限られた出来事ではなく、日本の高等教育のほとんどの場に関わる現実になっている。

法の整備が変えたもの

2016年4月の障害者差別解消法の施行により、大学では不当な差別的取扱いの禁止が求められるようになり、合理的配慮については国公立大学で法的義務、私立大学では努力義務とされた。その後の法改正を経て、2024年4月からは私立を含むすべての大学等で合理的配慮の提供が義務化されている。

文部科学省の説明では、合理的配慮とは、障害のある人が他の人と平等に権利を享有・行使できるようにするため、個別に必要とされる変更や調整であり、均衡を失した、または過度の負担を課さない範囲のものとされる。つまり、善意でできることをするという話ではなく、権利保障として環境を整える必要がある。

修学のなかで生じる困難

障害の内訳を見ると、その変化の中身はさらに鮮明になる。JASSOの2024年度調査では、精神障害35%と発達障害21.5%と大きな割合を占めている。ここで重要なのは、これらの障壁大学生活のどこに現れるかである。

例えば、発達障害は、講義を受ける、ノートを取る、課題を整理する、締切に向けて行動を組み立てる、グループワークで役割を調整する、といった日常の修学の行動に影響する。講義内容は理解できていても、聞きながらノートを取ることが難しい。締切は把握していても、複数課題が重なると着手や優先順位づけがうまくいかない。

対人緊張や不安が強いと、演習や実習、発表の場面で本来の力を出しにくい。大学が向き合っているのは、そうした学びの過程の細部で起きる困難もある。

自室でオンラインの講義を受けている男子大学生の画像

合理的配慮はどう行われているか

大学で実施される合理的配慮は、単に「困っている学生を助ける」ものではない。学びの環境を整えるのだ。JASSOの障害のある学生への支援・配慮事例、および紹介事例を見ると、講義・演習、試験・評価、環境整備・生活支援などの各場面で、具体的な配慮項目が整理されている。

講義・演習では、ノートテイク・パソコンテイク、講義の録音や板書撮影の許可、読み上げソフトや音声認識ソフトの利用、パソコンの持込・使用、ビデオ教材の字幕付けや文字起こし、教材のテキストデータ化、オンライン授業における情報保障などが挙げられている。

試験・評価では、試験時間の延長、別室受験、解答方法の配慮、注意事項等の文書による伝達が示されている。環境整備や生活面では、要望に応じた座席の配慮、専用机・椅子・スペースの確保、休憩室・治療室の確保、定期的な面談や相談対応、履修登録の支援、レポート作成等の学修指導、提出期限の延長、グループワークや実技・実習・フィールドワークにおける配慮なども含まれている。

合理的配慮を支える実践

これに対して、履修の進め方を一緒に整理する、学修の見通しを立てるための面談を重ねる、教職員間の情報共有を行う、日常的に相談を受けるといった対応は、合理的配慮そのものというより、その実施を支える「支援の実践」として位置づけられる。現場ではこの二つが分かちがたく重なっているが、制度としての合理的配慮は、あくまで「権利保障として必要な変更・調整」である。ここが曖昧になると、合理的配慮が「親切な対応」に見えてしまう。そうではなく、大学教育の環境を調整する制度的な営みだと捉えることが重要である。

大学で異なる支援体制

では、その配慮や支援を担う体制はどうなっているのか。2024年度のJASSO調査では、大学の97.2%に障害学生支援を所掌する部署や機関が設置されている。体制の存在自体は、ほとんどの大学で確認できる。

しかし、担い方は一様ではない。他の部署が対応している大学が66.9%と最も多く、専門部署を設置している大学は30.3%、部署や機関がない大学は2.8%である。さらに設置者別にみると、専門部署の設置割合は国立大学59.1%、私立大学27.9%、公立大学15.3%であり、他部署対応は公立大学82.2%、私立大学68.8%、国立大学40.9%となっている。

つまり、多くの大学に「窓口」はあるが、その窓口が専門部署として独立しているか、あるいは教務・学生支援・保健管理など他の部門の中で担われているかは大学によってかなり異なる。大学の規模や組織構造、人的資源の配置によって、支援のあり方は多様なのが現状である。

言い換えれば、大学は「障害のある学生がいること」を前提に動き始めている。ただし、それをどのような体制や運用として具体化するかには、なお大学ごとの差がある。文部科学省の「第三次まとめ」が示すように、障害のない学生を前提としてきた仕組みや構造自体が社会的障壁となりうる以上、個別対応だけでなく、事前的改善措置を通じた環境整備が求められている。

研究室で教員を囲んで少人数で学んでいる大学生たちの画像

学ぶ権利を保障する大学へ

ここまでのデータは三つに整理できる。第一に、障害のある学生が大きく増えていること。第二に、発達障害や精神障害への対応が課題のひとつであり、合理的配慮と日常的支援が、制度と実践の両面から組み立てられていること。第三に、大学の支援体制にはなお差があり、その担われ方が一様ではないことである。また、大学には、障害のある学生が学ぶことを前提とした環境整備が求められていることである。

障害があることを理由に、大学で学ぶ機会そのものが閉ざされたり、学びたい分野や進学先を選ぶことが妨げられたりしてはならない。どの学生も、学びたいことを学ぶ場を選び、その機会が保障されるべきである。

学ぶ環境から、働く環境へ

大学で積み重ねられてきた合理的配慮や支援は、学ぶ場における環境の整え方を具体的に示してきた。こうした調整や関わりが、社会においてどのように扱われていくのかが、いま問われている。学ぶ場で整えられてきた環境が、そのまま同じ形で適用されるわけではないが、卒業後の働く場においても、能力を個人の側だけに帰すのではなく、環境との相互作用として捉える視点につながっていく。

人がどのような環境で力を発揮できるのかという問いは、働く場とも無関係ではない。

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もっと知りたいあなたへ

障害のある学生の修学支援に関する実態調査 | JASSO
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/index.html
障害のある学生の修学支援に関する検討会報告(第三次まとめ)について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/123/mext_01732.html

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