冬の海が動き始める。早春の漁港に立つ 午前4時30分。能登半島の小さな漁港はまだ暗い。 空気は冷たく、防波堤に立つと頬が痛い。だが、冬の鋭さとは違う。どこか湿り気を帯びた風が、日本海から吹いてくる。漁師たちは黙々と網を積み込み、エンジンをかける音が静かな港に響く。 「そろそろだな」 年配の漁師が海を見ながら、誰にともなく呟いた。 能登では昔から、ある魚たちが春の訪れを教えてくれる。ニシン、イワシ、サヨリ。これらは「春告魚(はるつげうお)」と呼ばれ、海水温の変化とともにこの沖へやってくる。山に咲く梅や福寿草が春を告げるように、海にも季節の使者がいる。 都会で暮らしていると、春はカレンダーや天気予...