半年近く待ってようやく飲めたビールがある。
2025年の初夏に、東京大学の学生が行っている「飯舘村・ホッププロジェクト」を取材した。時期が少しずれていたため、第1弾で2024年の秋に完成したその商品「IITATE ReCRAFT(イイタテ リクラフト)」を、私は実際に飲むことができなかったのだ。
もちろん、そのプロジェクトの発足したきっかけや、福島でのホップ栽培のトライアンドエラー、無事に収穫してビールにするまでのあれやこれやをインタビューして記事にすることが主な目的であった。しかし、ビールの取材をしておきながら、そのビールを飲むことは叶わず、翌年2025年の秋に醸造されるものを待つしかなかったということなのである。
そもそも「飯舘村・ホッププロジェクト」とは何か
実食(飲)レビューのその前に、そもそもなぜ東大生がビールを作っているのかというところをおさらいしておこう。
東京大学農学部国際専攻(当時)の溝口勝(みぞぐちまさる)教授は、2011年の東日本大震災の発生直後から福島県飯舘村に入り、村の復興に向けた総合的な農学というテーマで研究活動を続けてきた。2012年以降、学生も研究の一環で飯舘村に通いはじめることとなった。村の人々との交流のなかで、溝口研究室の学生(院生)、地方創生と営農支援を旨とするサークル「東大むら塾」に所属していた同じく学生(院生)が出会い、このプロジェクトが始まったのである。

ビールの独特の苦味と味わいを決めているのがホップ。このホップの近縁種が飯舘村に自生していることを知った学生たちは、飯舘村にはホップの育成可能な環境があると考え、このホップの栽培を地場の産業に繋げられないか、という思いに至った。2023年は野生ホップの管理をしようと試みたものの難しく、断念。しかし、2024年には村の協力を得て畑を借り、メジャーなホップ「カスケード」と「マグナム」という2種の栽培を決め、プロジェクトがスタートした。
このプロジェクトの詳細については、前述のように2025年7月に掲載した記事をご一読いただきたいが、簡単にまとめるならば、テクノロジーを使い育成状況を管理し、次の作業を検討するといったことが行われた。実際に学生たちも月に数回飯舘村に通って手入れを続け、どうしても現地に行けない時には、拠点とした地元のゲストハウスの方々に手伝ってもらうなどし、収穫に至ったホップである。
このホップを使ったビールの醸造は、県内のクラフトビール醸造所で行い、ラベルのデザインも飯舘村に拠点を構える会社に依頼。県や村の多くの人たちの協力を得て、晴れて完成したのが「IITATE ReCRAFT」なのである。名前には飯舘村の復興を願う「Re=再び」の文字が冠せられている、そんなビールなのだ。
やっと手に入れた2種のビール
「今年(2025年)の分は、取っておきますよ」と言ってくれた彼らの言葉を信じて、待っていた。大企業によって工場でたくさん生産されているものとは違い、栽培したホップを使い切ってしまえば、次の製造は翌年のホップが獲れるまでお預けなのである。本当に取っておいてくれるのかはわからぬまま秋を迎えたある日、編集部のスタッフOさんから、「ビールができたと連絡があったので来週買ってきます」と伝えられた。
忘れずに取っておいてくれたのだ。
大変な人気商品となり、決して安くはない金額のビールがあっという間に売れてしまった2024年。引く手あまたで、東大生協でも入荷が待たれているという「IITATE ReCRAFT」を確保してくれたのだ。しかも若者が買いに行ってくれる。その頃ちょいと多忙だった私は、Oさんにお願いして数本を買ってきてもらった。東大の学園祭でも人気であっという間に売り切れとなった2025年のビール、しっかり手に入れることができた。

まずびっくりしたのが、なんと昨年のピルスナータイプだけでなく、エールタイプが加わっていたこと。Oさんは2種のビールを手に編集部に戻ってきたのだった。ピルスナータイプのラベルは黄緑色、新登場のエールタイプは水色で、どちらもかわいらしく爽やか。早く飲みたいのは山々ではあったが、まだ午後の早い時間であり、編集部のキッチンに鎮座する冷蔵庫に格納し、夕方を待った。
待った甲斐があった〜うまさを満喫〜
午後5時少し前、ちょっと早いが、そこは良いこととして、Oさんとともに冷蔵庫からビールを取り出した。すぐに銀色のボディがうっすらと白くなる。冷え冷えである。しかし飲む前にすることがあった。商品画像の撮影である。一刻も早く撮影を終え飲みたいので、Oさんを急かして、角度などをディレクションし、数カットを撮り終えたことは伝えておきたい。仕事はきちんとするのだ。
さて、いよいよ飲める。実食(飲)レビューのため、メモを用意して臨む。
まずは昨年飲み損ねたピルスナータイプから。プルタブを引き、用意したグラスに注ぐ。よく冷えているので泡立ちも完璧、薄めの色合いのビールでグラスが満たされていくのを眺めているのはこの上ない幸せである。

Oさんと乾杯をして、ぐいっと一口喉へと流し込んだ。
「おいしい!」と月並みなセリフしか出てこない自分が恨めしいものの、香りが高くて爽やかな味わいのビールを口にした素直な感想がそれだ。実は取材時に、冷凍されていたわずかな量のホップの香りを嗅がせてもらったのだが、正直なところよくわからなかった。ところが、ビールになってからのこの香りはどうだろう。ホップはビールの味を決めているというのがよくわかった、気がした。
1缶を2人で分け合い、スンスンと香りを楽しみながら飲んだ。あっという間にグラスが空になった。Oさんもいけるくちなのだ。よろしい、それではエールタイプを開けることとしましょう、と水色の缶を手に取る。グラスは新しいものを用意して、その差をしっかりと味わうことにした。
エールタイプの第一印象は「甘みがある」だった。エールタイプというのは、発酵方法は上面発酵、色味も濃い琥珀色になる。味わいは一般的にコクがあり香りは華やかに感じられるものだ。香りと風味重視といってもよいかもしれない。甘みと感じたのはフルーティさとも表現できるものだった。こちらは後から飲んで正解。ピルスナーは冷え冷えで飲むのがおいしいが、エールはどちらかといえば少しマイルドな温度の方がよいといわれるからだ。
そもそも、この「IITATE ReCRAFT」はピルスナータイプも苦味が強くはないやさしくて爽やかな味なのだが、エールタイプはさらに芳醇さを追求し、甘みを持った華やかな香りの味わいが特徴だと感じた。

どちらが好きかは本当にその人の好みによるだろう。エールタイプが好きな私ではあるが、「IITATE ReCRAFT」はどちらも甲乙つけがたい。それは半年待ってやっと味わえたからなのかもしれないが、いずれにしても、ホップの香りがうまくいかされた、「ちゃんとしたビール」に仕上がっているのは間違いなかった。
今年の秋まで、しばし待とう
そんなわけで、半年待ったビールは、誕生までの話を詳細に知っていることに加え、売り切れてしまう人気商品とも知っているためか、非常においしく飲むことができた。小さな優越感といった感情も、おいしさをさらに増す効果があったかもしれない。とはいえ、本当に香りがよく、クラフトビールを愛する私のお気に入りとなった。
今年も飯舘村では植えられたホップが夏の収穫に向けてぐんぐんと成長しているはずだ。そのホップがこの秋に立派なビールとなって、私の手元にやって来るのをしばし待つとしよう。
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もっと知りたいあなたへ
飯舘村ホッププロジェクト情報リンクツリー
https://linktr.ee/iitatehop.ut
飯舘村ホッププロジェクト公式Instagram
https://www.instagram.com/iitatehop/
東京大学農学部(飯舘村ホッププロジェクト関連ページ)
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/news/news_20241108-1.html
本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。