岐阜県の山あいの地域でつくられている「明宝ハム」。オレンジ色のパッケージを見かけたことがある、という人も多いかもしれません。
スーパーに並ぶ薄切りのハムとは少し違う、どっしりとした円筒形の見た目。昭和28年から変わらぬ製法で作り続けられているというこのハム、今回初めてその存在を知り、さっそく食べてみることにしました。
どこか懐かしさを感じるパッケージ
手にしてまず目を引いたのは、鮮やかなオレンジ色のパッケージ。初めて見るはずなのに、どこかで見たことがあるような気がする——そんな不思議な既視感がありました。
黄色い半円の中に「明宝」の文字が大きく書かれ、その下には山の稜線のイラスト。上部には「めいほうハム なつかしの味」という文字と、MEIHOのロゴマーク。今どきのシンプルなデザインとも、トレンドを意識したポップな見た目とも違う、どこかほっとするような昭和の匂いを残したビジュアルです。
「なつかしの味」というコピーが添えられているのも印象的でした。懐かしさというのは、実際に食べたことがある人だけが感じるものではなくて、その時代の雰囲気や、どこかで刷り込まれた記憶のようなものまで含まれている気がします。このパッケージを見たときのじんわりとした感覚は、きっとそういうものなのかもしれません。おしゃれさや新しさとは一線を画しているけれど、それがかえって「本物感」を醸し出しています。
手に取ってみると、ずっしりとした重さ。360gという内容量からも、食べ応えが期待できます。
山の村が守った、ハムにまつわる熱いドラマ

明宝ハムの背景を知ると、この一本の重さがまた違って感じられます。
明宝がある郡上市は、岐阜県のほぼ中央に位置する山深い地域。奥美濃の小京都とも呼ばれる郡上八幡から車で北東へ約20分、吉田川沿いをのぼっていくと、山々に囲まれた明宝の集落が現れます。春は桜や花桃、夏は清流釣り、秋は紅葉、冬はスキーと、四季折々の自然が豊かな土地です。
そんな山あいの小さな村で、ハムづくりが始まったのは昭和28年のこと。当時の農協が「山間地の食生活を豊かにしたい」という思いから、畜産振興とともにスタートさせたものでした。
ところが昭和60年代、農協の事業拡大方針により、ハム工場を人口の多い八幡町へ移転させる計画が浮上します。これに猛反発したのが、当時の明方村長・高田三郎氏でした。「村の大切な特産品を手放すわけにはいかない」という強い信念のもと、村の消費組合や商工会、森林組合、畜産組合、そして村そのものが出資し、村民総参加の第3セクター方式によるハム製造販売会社を設立したのが1988年(昭和63年)のことです。
商品名は「明方村の宝」という願いを託した「明宝ハム」。
さらに村はスキー場や温泉にも「明宝」の名を冠し、1992年(平成4年)にはついに村名そのものを「明宝村」に改名するという大胆な決断まで下しました。ハムの名前が先で、村の名前があとからついてきたというのは、いかにもこの村の気概を感じさせるエピソードです。
過疎が進む小さな山村が、特産品を守るために全力を尽くしてきた。その歴史を知ると、このオレンジ色のパッケージにはただの「懐かしさ」だけでなく、村人たちの誇りと熱量が詰まっているのだと感じます。
贅沢に厚切りにして、バターでじっくり焼いてみました

今回は、せっかくなので少し贅沢な食べ方に挑戦してみました。
厚さ1〜1.5cmほどにざっくりと切り分け、フライパンにバターをひいてじっくり焼くだけ。調理はとてもシンプルですが、焼いている間からバターの香りとハムのうまみが重なり合い、キッチンいっぱいに豊かな香りが広がります。焼き上がりを待つ時間さえ楽しくなるような、うれしいひとときです。
焼き上がりは、表面がほんのり色づいてこんがり。切り口からじわっと脂がにじみ、見るからに食欲をそそります。薄切りのハムをさっと焼くのとはまったく違う、「肉を焼いた」という満足感があります。

そのままでも満足感のある、端正な味わい
一口いただいてまず感じたのは、「これは、このままで十分においしい」ということ。
塩加減がとても心地よく、濃すぎず、かといって物足りなさもありません。口に入れると肉のうまみがじんわりと広がり、後味はすっきり。豚のもも肉だけを使っているからか、肉そのものの風味がきちんと感じられます。噛むほどに肉のうまみがにじみ出てきて、ハムに対する印象が少し変わるかもしれません。
余計なものに頼らず、素材と丁寧な手仕事でつくられてきた積み重ねが、こうした味わいにつながっているのだろうと感じました。
ブラックペッパーとマヨネーズで、もうひとつの楽しみ方
シンプルに楽しんだあと、少しアレンジも試してみました。焼き上がった明宝ハムに、粗挽きのブラックペッパーをたっぷりかけて、マヨネーズをつけていただくと……これがまた最高なんです。
ブラックペッパーのぴりっとしたアクセントが肉のうまみを引き立てて、マヨネーズのコクがプラスされることで、よりこってりとした満足感のある味わいに。そのままでも十分おいしいのに、アレンジ次第でまた違う一面を見せてくれるところが、明宝ハムの懐の深さを感じさせます。シンプルな素材でできているからこそ、何を合わせても喧嘩しない。そんな懐の広さが、明宝ハムの魅力のひとつだと思います。

食べているうちに「これ、ぜったいビールに合う」とずっと思っていました。今回は仕事中だったのでグッと我慢しましたが、もし夕方や休日だったら間違いなく缶ビールを開けていたと思います。ほどよい塩加減、ジューシーな肉の旨み、バターの香ばしさ——これだけ揃っていれば、冷えたビールとの相性は言わずもがなのはずです。次に手に入れる機会があれば、今度こそ冷えたビールと一緒に楽しみたいと心に決めました。
昭和から続く味を、今も変えずに届けてくれること
食べ終わってしみじみ思ったのは、「これは愛されるはずだな」ということ。
派手さはないけれど、食べると必ず「また食べたい」と思わせてくれる。村ぐるみで守り抜いてきた製法と、素材へのこだわりが、そのまま味に出ているような誠実さがあります。「なつかしの味」というコピーは、食べた人の記憶だけでなく、この土地の人たちが特産品を守り続けてきた記憶でもあるのかもしれません。
少し立ち止まって考えてみると、「昔から変わらない味」を守ることは、実はとても難しいことだと思います。時代が変われば原材料の調達事情も変わるし、消費者の好みも移り変わる。効率を求めれば製法だって変えたくなる。そのなかで「変えない」という選択をし続けることには、相当の覚悟と手間がかかるはずです。それでも明宝ハムが昭和28年からの製法を守り続けているのは、単なる頑固さではなく、「この味でなければならない」という自信と、待ち続けてくれる人たちへの誠実さの表れなのだと感じます。
変わらないことを誇りにしている食べ物が、今の時代にこんなにも心強く感じられるとは思いませんでした。岐阜県を訪れる機会がある方はもちろん、オンラインでも購入できます。できれば惜しみなく厚切りにして、バターと一緒にじっくり焼いてみてほしいです。そしてできることなら、冷えたビールを片手に。
ーーー
もっと知りたいあなたへ
明宝特産物加工株式会社
https://www.meihoham.co.jp
本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。