「働く」を視野に入れる
障害のある大学生への支援を考えるとき、修学上の困りごとへの対応だけでなく、その先の「働く」までをどう見据えるかが問われる。とりわけニューロダイバージェントの学生にとって、就職活動は、一般枠か障害者雇用枠か、診断や手帳をどうするか、自分の特性をどう伝えるかなど、自分なりの働き方を考えていく機会でもある。
認知行動療法を基盤に、企業調査から病院臨床まで幅広い実践を重ね、現在は障害のある大学生の支援に携わる神戸大学インクルーシブキャンパス&ヘルスケアセンターの村中泰子氏に、ニューロダイバージェントの学生の「働く」を視野に入れた支援の実際を聞いた。
認知行動療法を基盤に――不安とモチベーションへの関心
村中氏の実践の背景には、認知行動療法と、「人がどうすれば自発的に動けるのか」というモチベーションへの関心がある。学生時代に学んだ認知行動療法では、行動、気分、認知に分けてアプローチし、セルフコントロールを高めることを重視していたという。大学院修了後はシンクタンクで企業のワークモチベーションを、大学附属病院では認知行動療法に基づくカウンセリングや心理検査を長く扱ってきた。診断名や検査結果だけで判断するのではなく、その人がどの場面で何に困り、どのような背景から行動に移しにくくなっているのかを、具体的な生活場面に即して見立てていく。
就職活動や働く場への移行でも、学生が「やらなければならない」とわかっていても動けないことがある。情報を得ても自分のこととして受け止められない。必要なのは、単に背中を押すことではない。何が不安で、何が行動を妨げ、どのような条件があれば動きやすくなるのかを具体的に見ていくことだ。
権利擁護と、本人ができる工夫
合理的配慮は、障害のある学生が学ぶ権利を保障するためのものであり、本人の努力や工夫に置き換えられるものではない。そのうえで、本人に何が起きているのかを具体的に捉え、自分で試せる方法があるのかを一緒に考えていく。
たとえば、授業に出られない学生がいたとする。出席に関する配慮が必要であれば、その必要性を検討する。それとは別に、なぜ授業に出られないのかを一緒に確認する。生活や行動の記録をつけてもらうと、寝る時間、朝の行動、朝食の有無など、困りごとの背景が見えてくることがある。実際に、記録を取ることで生活の流れが整理され、朝起きられるようになり、2限から授業に出られるようになった学生もいたという。
環境側が保障することと、本人が工夫できることは分けて考える。そのうえで、自分にはどのような調整が必要なのか、自分で使える方法には何があるのかを知っていく。こうした経験は、自分に必要なことを理解し、伝えていくという意味でも、働く場への準備につながっていく。
就職活動は、始める時期も進み方も一様ではない
ニューロダイバージェントの学生の就職活動は、個別性が高いという。1年生の段階では大学生活に慣れることで精一杯の場合も少なくない。多くは周囲がインターンシップや就職活動を始めたのを察知して、2年生の後半頃から少しずつ動き出す。
ただし、その動きを察知すること自体が難しい学生もいる。つながりが少ないと同級生の動きに気づきにくく、親に言われてようやく動き出す場合もある。しかし、自分事として捉えられないまま始める就職活動は、うまく進みにくいという。
キャリアセンターで進めたもののうまくいかず、内定式の直前になって相談につながる学生もいる。村中氏は、移行支援には、そうした「駆け込み」の側面もあると話す。一方で、すべての学生がつまずくわけではない。凸凹がありながらも学力や専門性が高く、クローズで就職が決まる学生もいる。ただし、就職した後に別の困難が見えてくることもある。
働いてみないとわからないことがある

学生時代には目立たなかった困りごとが、働く場で初めて表面化することがある。村中氏は、「自分のこだわっている部分や困難さが何であるのか、働いてみないと分からない場合がある」と話す。
たとえば、安定しているという理由で専門職を選んだものの、現場環境が本人の感覚特性に合わない。理系の土木職で土埃の多い現場に出る必要があるが、埃が強い苦痛になる。職務の中心にある要素と本人の苦手さが重なる場合、それは合理的配慮だけで解決できる問題ではなく、仕事そのものとの相性を考える必要がある。
チームで働く場面で初めて、本人のこだわりや考え方の癖が目立つこともある。本人にとってはまっすぐで誠実な態度でも、職場では柔軟性がないと受け止められる。企業の「当たり前」と本人の「当たり前」が交わらず、そのズレが問題になることもある。
実際の環境に身を置くことで初めて見えてくるものがある。だからこそ、インターンシップや職場体験には、自分と仕事や環境との相性を確かめる意味がある。
一般枠か障害者雇用枠か、という二択だけではない
就職活動では、一般枠か障害者雇用枠かという選択が大きなテーマになりやすい。しかし、最初から障害者雇用枠で進む学生は多くない。まず一般枠で進め、うまくいかないときに相談につながる場合もある。
エントリーシートを書くのが苦手で先延ばしにしてしまう。書類は通っても面接の対策が十分でない。苦手さに気づいていても、どこに相談すればよいかわからない。就職活動が進まない背景は一つではない。
一方で、障害者雇用枠や配慮のあるインターンシップが、本人の可能性を開くこともある。理系の学生に説明会への参加を勧めたところ、そのままインターンシップにつながり、現場とのマッチングがうまくいったケースもあるという。
大手企業の障害者雇用が安心感につながる学生もいれば、小規模な企業で本人の特性を個性として受け止めてもらい、のびのびと働き続けている人もいる。
重要なのは、一般枠か障害者雇用枠かを先に決めることではない。本人がどのような環境で力を出せるのか、何を伝える必要があるのか、どのような働き方なら続けられるのか。それを具体化しながら選択肢を考えていくことである。
「社会に出る不安」は、言葉にならないことが多い
学生の中には、社会に出る不安をはっきりと言葉にしない人も多い。「不安です」と言える場合は、支援者も一緒に考えやすい。しかし実際には、不安を見ないようにする、就職活動を先延ばしにする、進学する、こもる、といった形で現れることがある。
大学院進学の背景にも、学びたいという理由だけでなく、社会に出る不安が隠れている場合がある。もちろん進学そのものが問題なのではない。ただ、働くことへの不安を言葉にできないまま先延ばしを重ねると、後からより大きな困難につながることもある。
このとき有効になるのは、小さな体験だと村中氏はいう。説明会に出てみる。オンライン相談会に支援者と一緒に参加してみる。インターンシップに行ってみる。最初の一歩に伴走があることで、次は自分一人で参加してみようと思える学生もいる。
不安をなくしてから動くのではなく、不安を抱えたまま少しだけ試してみる。その体験から、自分に合うもの、合わないものが少しずつ見えてくる。
(後編へつづく)