香川・徳島が誇る至高の甘み「和三盆」~四国の風土と伝統が紡ぐ砂糖の魅力~
一口ふくむと、やさしく繊細な甘みが舌の上ですっと溶けていく――。和菓子をはじめ、近年の洋菓子シーンでも注目を集める「和三盆糖(わさんぼんとう)」は、四国東部の香川県と徳島県で受け継がれてきた伝統的な砂糖です。
現在では、工場で大量生産される白砂糖やグラニュー糖が広く流通しています。しかし、何百年も前から受け継がれる手仕事の製法を守り続け、職人の技術によって作られる和三盆には、一般的な精製糖とはひと味異なる奥深い風味と気品が宿っています。
なぜ香川県(旧・讃岐国)と徳島県(旧・阿波国)が和三盆の二大産地となったのか、その歴史的背景を紐解くとともに、一般的な白糖や黒糖との違い、製造工程、国内市場や海外での評価、そして地域独自の文化資源を次世代へとつなぐ未来の可能性について紹介します。
和三盆とは?上白糖・黒糖との違い

和三盆とは、主に四国東部の香川県や徳島県で生産されている砂糖です。細やかな粒子とまろやかな風味が特徴で、主に高級和菓子の原料や、そのまま型に押した「干菓子」として親しまれています。
砂糖の原料といえば一般的なサトウキビやテンサイ(砂糖大根)が知られていますが、和三盆の原料となるのは、「竹糖(ちくとう)」と呼ばれる在来系の細いサトウキビです。竹糖は一般的なサトウキビに比べて背が低く細いのが特徴で、栽培や収穫に手間がかかるものの、独特の風味と優雅な甘みを生み出します。ほかの砂糖との大きな違いは、製造工程や成分構成にあります。
■精製糖(上白糖・グラニュー糖)との違い
上白糖やグラニュー糖などの白糖は、現代の精製技術によってミネラルや微量成分を徹底的に取り除き、純粋な甘み成分(蔗糖)を取り出したものです。そのため使いやすい反面、風味が均一化されています。これに対して和三盆は適度に精製を抑えることで、原料由来の風味成分がほどよく残り、まろやかな甘みと独特の口どけを生み出しています。
■黒糖(黒砂糖)との違い
黒糖はサトウキビの搾り汁をそのまま煮詰めて固めたもので、ミネラル分が非常に豊富です。濃密なコクと強い風味が特徴ですが、独特のアクや雑味が感じられることもあります。
和三盆は、搾り汁を煮詰めた状態から「研ぎ(とぎ)」と「分蜜(ぶんみつ)」という作業を繰り返すことで、強いアクや雑味を丁寧に取り除いていきます。和三盆は、黒糖の持つ豊かな風味と、白糖の上品ですっきりとした甘さの双方を兼ね備えた、洗練された味わいが特徴です。
なぜ四国東部が産地なのか―香川と徳島の風土と歴史
和三盆の二大産地である香川県と徳島県。吉野川を挟んで隣り合うこの四国東部で高品質な砂糖づくりが発展した背景には、共通する気候風土と、江戸時代の産業振興策が深く関係しています。
瀬戸内と吉野川流域の気候風土
香川県から徳島県北部にかけての地域は、年間を通じて温暖で比較的雨が少なく、日照時間が長いという特徴があります。日照量が多く水はけが良い風土は、本来熱帯の植物であるサトウキビの栽培に適していました。沖縄や奄美とは異なる気候条件のもとで栽培されることが、和三盆づくりに適した竹糖の生産につながったと考えられています。
江戸時代の産業育成策
江戸時代中期、8代将軍・徳川吉宗による享保の改革において、砂糖の国産化が奨励されました。当時、砂糖は海外からの輸入に頼る高価な貴重品であり、国内自給率の向上は幕府や各藩にとって重要な課題でした。
高松藩(現在の香川県)では、藩主・松平頼恭(まつだいらよりたか)の命を受けた藩医・池田玄丈(いけだげんじょう)が砂糖の製造研究に着手し、その弟子・向山周慶(さきやましゅうけい)が製糖に成功したと伝えられています。こうして生まれた砂糖は、現在「讃岐三白」と呼ばれる塩・綿と並ぶ主要産物の1つとして成長しました。
一方で、隣接する徳島藩(現在の徳島県)でも吉野川流域を中心にサトウキビの栽培と製糖技術が広まり、「阿波和三盆糖」として藩の重要な特産品となっていきました。県境を接する両地域が互いに技術を高め合い、伝統を守ってきたことで、今日まで四国東部が日本を代表する砂糖の二大産地として定着することとなったのです。
熟練の技が光る長年受け継がれてきた製法―「盆の上で三度研ぐ」

和三盆の名称の由来には諸説ありますが、「盆の上で砂糖を三度研ぐ」という製法に由来するとする説が広く知られています。和三盆の製造は、機械化が進んだ現代においても職人の手作業に頼る部分が多く残されています。
- 収穫と搾汁:秋から冬にかけて収穫された竹糖を搾り、その汁を釜で煮詰めます。
- 白下糖(しろしたとう)の製造:煮詰めた汁を冷却・凝固させ、粗糖である白下糖を作ります。この段階ではまだ黒糖に近い状態です。
- 研ぎと分蜜:白下糖を盆の上にあけ、少量の水を加えながら手で丁寧に押し揉みます(研ぎ作業)。これにより、結晶から蜜分(糖蜜)が分離しやすくなります。
- 押し搾り:木製の器具に研いだ砂糖を入れ、重石をかけて蜜分を搾り出します。
「研ぎ」と「押し搾り」の工程を何度も繰り返すことで、褐色だった砂糖は徐々に白く、きめ細やかな粉末へと変化していきます。気温や湿度に応じて水の量や押し加減を微調整する作業は、長年の経験に基づいた職人技の賜物です。また、竹糖を原料とし、手間のかかる製法で生産量も限られるため、古くから高級品として重宝されてきました。
市場における現況と新たな可能性
農林水産省などの公的な統計データによると、日本国内で流通する砂糖の多くは、精製糖や輸入原料糖をもとに製造されたものであり、和三盆をはじめとする伝統的な手づくり砂糖の生産量は極めて少量です。生産現場では、原料となる竹糖の栽培農家の高齢化や後継者不足、製造工程の過酷さなどから、香川・徳島両県ともに生産者の減少が課題となっています。しかしその希少性と高い品質から、高級和菓子店や料亭、一流ホテルなどから一貫して高い評価を受け続けています。
また、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録や世界的な健康志向の高まりに伴い、海外でも日本の伝統食材に対する関心が高まっています。和三盆についても、欧米のパティシエやシェフからも注目される事例が見られます。輸出量自体はまだ限定的ですが、フランスをはじめとする海外市場へのプロモーションが進められています。
地域文化を未来へつなぐ取り組み

香川と徳島の特産品である和三盆は、単なる甘味料にとどまらず、四国の歴史や風土を象徴する貴重な文化資源です。歴史ある技術や産業を次世代へ継承する取り組みは、地域社会の活性化においても重要な役割を果たしています。
近年ではその魅力を広める新たな試みが進んでおり、従来の和菓子にとどまらず、クッキーやプリン、カフェシロップなど日常的な洋菓子やドリンクへの活用が定着しつつあります。特有のやさしい口どけは乳製品とも相性が良く、新しいおいしさを創出しています。
また、現代的なデザインを取り入れた干菓子の開発や、木型を用いた型抜き体験ワークショップといった体験型観光コンテンツも人気を集めています。竹糖の栽培から製糖・加工、販売、観光体験まで、地域内で連携した取り組みも進められており、地域の特色ある資源をいかした持続可能な地域づくりの好事例となっています。
香川と徳島の豊かな自然と、幾世代にもわたる人々の知恵によって育まれてきた和三盆。白糖のようなすっきりとした甘さとも、黒糖のような濃厚な風味とも異なる、上品で奥行きのある甘みは、日本の繊細なものづくりの精神を映し出しています。
効率性や大量生産が優先されがちな現代だからこそ、時間をかけて作られる製品の価値が見直されています。四国の地に息づく和三盆は、これからも人々の心を満たし、豊かな食文化を未来へと伝えていくでしょう。
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もっと知りたいあなたへ
東かがわ市ホームページ
https://www.higashikagawa.jp/kosodate_kyoiku/kyoikuiinkai/furusatokyouzai/1/7300.html
徳島県観光情報サイト
https://www.awanavi.jp/archives/spot/2861
本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。