横浜・鶴見で出会う、静かな時間〜曹洞宗大本山「總持寺」を訪ねて〜
「何する?」
川崎に住む友人との、そんな何気ない会話から始まった休日。
向かったのは、横浜市鶴見区にある曹洞宗大本山・總持寺。京急八丁畷駅近くからシェアサイクルを借りて、夏の風を受けながらのんびりと走ります。前日まで「みたままつり」が開かれていたとは思えないほど、午前中の境内は静かで穏やか。歴史ある禅寺でありながら、大学があり、資料館があり、人々の暮らしにも溶け込んでいる——そんな「今も歴史が紡がれている場所」でした。
「広っ!」と思わず声が出た。シェアサイクルで巡る總持寺
前日の飲み会の後、京急八丁畷(けいきゅうはっちょうなわて)駅近くに住む友人の家に1泊した翌朝。八丁畷って普通には読めない難読地名だな、などと考えながら、意外と早起きできたので、「今日は何する?」そんな会話から、「總持寺へ行ってみようか」ということになりました。
京急線やJRで向かう人も多いでしょうが、私たちはシェアサイクルを選択。夏の朝の街をゆっくり走っても、20分ほどで總持寺の総門に到着します。意外と近くなのでした。
門をくぐった瞬間、思わず口から出た言葉があります。
「広っ!」
都会の中の「お寺」と聞いて思い浮かべていた景色とは、まったく違っていました。
境内は驚くほど広く、真っすぐに伸びる参道の先には大きな伽藍が点在しています。少し歩くだけでも十分楽しめますが、これほど広い境内なら、時間をかけて巡るのも気持ちがいいはず。總持寺では境内は自由に参拝可能で、坂道や建物の配置を見ても、その広さがよく分かります。
總持寺の敷地は約15万坪ともいわれ、横浜市内でも有数の広さを誇る寺院です。堂宇がゆったりと配置されているため、開放感があり、お寺というより、一つの小さな町の中にいるような感覚になります。

訪れたのは7月中旬の午前中。
前日まで「みたままつり」が開かれていたそうですが、その賑わいが嘘のように、境内には静かな時間が流れていました。蝉の声が響き、木々の葉が風に揺れ、ときおり参拝者とすれ違う程度。暑さは厳しかったものの、その静けさが心地よく感じられます。
總持寺は観光名所として知られる華やかな鎌倉のお寺などとは少し違った雰囲気でした。
だからこそ、肩の力を抜いて歩ける。
急いで「見どころ」を巡るのではなく、木陰で立ち止まり、建物を見上げ、風の音に耳を澄ませる。そんな時間が自然と流れていきます。
「ここに来てよかったな」
そう思ったのは、門をくぐってまだほんの数十分しか経っていないころでした。
能登から横浜へ〜700年紡がれる禅の時間〜

總持寺は、曹洞宗の大本山だということをご存知でしょうか。
不肖私めは知りませんでした。
曹洞宗といえば福井県の永平寺が有名ですが、總持寺は永平寺と並ぶもう一つの大本山として、多くの僧侶が修行を積む禅の道場でもあるのだそうです。
その歴史は、現在の石川県輪島市門前町にまでさかのぼります。
1321年(元亨元年)、瑩山紹瑾禅師(けいざんじょうきんぜんじ)によって「諸嶽山總持寺(しょがくさんそうじじ)」と改められ、曹洞宗の発展に大きな役割を果たしました。その後、およそ570年にわたって能登の地で法灯を守り続けますが、1898(明治31)年の大火で伽藍の大半を焼失。これを機に寺基を現在の横浜・鶴見へ移し、能登の寺は「總持寺祖院」として受け継がれています。
こうした歴史を知ると、「なぜこんなに広いのだろう」という最初の疑問にも納得できます。
ここは単なる観光寺院ではありません。全国から修行僧が集まり、日々の修行が行われ、法要が営まれる、曹洞宗の根本道場なのです。
境内を歩いていると、鶴見大学や付属施設の建物が目に入ります。
学生たちが学び、修行僧が修行し、地域の人がお参りに訪れる。
歴史ある建物だけが静かに残されている場所ではなく、人が集い、学び、祈り、日々の時間が積み重ねられていく場所。
總持寺で印象的だったのは、まさにそのことでした。
歴史は過去のものではなく、この場所で今も静かに紡がれ続けている。
だからこそ、この境内には独特の落ち着きと温かさがあるのかもしれません。
禅寺で出会った「しっぺ返し」の語源

總持寺を訪れたら、ぜひ立ち寄ってほしい場所があります。
それが、境内にある宝蔵館「嫡々庵(てきてきあん)」です。
館内には、總持寺に伝わる仏像や書画、古文書、法具などが展示されており、国や県、市の指定文化財も数多く収蔵されています。禅宗の歴史を伝える貴重な資料を間近に見ることができる、知る人ぞ知る見どころです。
私が訪れたときも、静かな館内にはゆったりとした時間が流れていました。
展示を見ながら歩いていて、思わず足を止めたものがあります。
それが「竹蓖(しっぺい)」です。
細長い竹で作られた法具で、禅僧が修行の際に用いる道具の一つ。眠気や気の緩みを戒めたり、修行者を導いたりするために使われてきました。説明を読んで、思わず「へぇ!」と声が出そうになりました。
子どもの頃、友達同士で「しっぺ」をしたり、「しっぺ返し」という言葉を使ったりした記憶がある人も多いのではないでしょうか。
その「しっぺ返し」は「竹蓖返し(しっぺいがえし)」に由来するとされるのです。
何気なく使っていた言葉が、禅寺の修行道具につながっていたとは知りませんでした。
これからは厳かな気持ちでしっぺをしようっと。

閑話休題、こうした発見こそ、境内にある宝蔵館「嫡々庵」を訪れる楽しさなのだと思います。
仏像や文化財を「美しい」と眺めるだけではなく、普段の暮らしの中に残る言葉や文化とのつながりを知ることで、歴史がぐっと身近になります。
總持寺は、禅を学ぶ場所であると同時に、日本文化を知る入口でもあるのだと感じました。
展示は3カ月ごとに入れ替えがあるそうで、今回は能登ゆかりの前田家に関する展示があり、絹地に描かれた前田利家の正妻「まつ」の肖像画を見ることができました。
仏像のポストカードなどもいただくことができ(期間によって有無があります)、何だか得したような気持ちにもなります。
館内を出て再び境内へ戻ると、先ほどまでとは違った目で建物や石畳を見ている自分がいました。
歴史とは、展示ケースの中だけにあるものではありません。
ここでは、何百年も受け継がれてきた教えや文化が、今も静かに息づいているのです。
午前中の静けさを味わい、鶴見の街へ
總持寺には、見どころがまだまだあります。
大祖堂の堂々とした佇まい、長く続く百間廊下、季節ごとに表情を変える木々や庭園。そして、石原裕次郎さんをはじめ、多くの著名人が眠る墓所もあります。
境内を歩いていると、修行僧の姿や学生の姿を見かけることもあります。
ここは「保存された寺院」ではなく、「今も使われている寺院」。
法要が営まれ、学びがあり、人々がお参りをし、日々の営みが続いています。
だからこそ、總持寺には独特の空気があるのです。
過去を懐かしむだけではない。未来へ向かって、静かに時間が紡がれている場所なのだなと感じました。
私が訪れたのは午前中でしたが、この時間帯は本当におすすめです。
参拝客も比較的少なく、境内全体が落ち着いた雰囲気に包まれています。
中に入ることができる伽藍もあり、堂内のひんやりした空気と、解放された大きな扉から入って吹き抜ける風でとても涼しく、人気のない広い空間を独り占めする時間は特別でした。
蝉の声が響き、木陰を渡る風も心地よく感じられます。
広い境内を自由に巡り・参拝すれば、「お寺を巡る」というより、一つの大きなキャンパスや町を散策しているような感覚になります。
堂々たる伽藍、近代的な大学、資料館、修行の場。
それらが自然に共存している風景は、なかなか味わえません。

ゆっくり境内を巡ったあとは、JR鶴見駅・京急鶴見駅方面へとぶらり。
駅周辺には昔ながらの定食店や喫茶店、ベーカリーなども多く、ランチを楽しむのにちょうどいい時間になります。
半日という限られた時間でも楽しめる「近場の目的地」。
そんな過ごし方ができるのも、總持寺の魅力なのかもしれません。
横浜観光というと、みなとみらいや中華街が真っ先に思い浮かびます。
もちろん、それらは何度訪れても魅力的な場所です。
でも、もし「少し静かな時間を過ごしたい」と思ったら、鶴見・總持寺という選択肢を思い出してみてはいかがでしょうか。
友人との何気ない一言から始まった今回の小さな旅は、私にとって「歴史を見学する旅」ではありませんでした。
そこにあったのは、700年以上受け継がれてきた禅の教えや文化、人々の営みが、今この瞬間も静かに紡がれている時間。
次に訪れるときも、きっとまた、自転車に乗ってこの場所を目指そうという気持ちになりそうです。
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もっと知りたいあなたへ
曹洞宗大本山總持寺
https://www.sojiji.jp/
横浜観光情報YOKOHAMA「大本山總持寺」
https://www.welcome.city.yokohama.jp/spot/details.php?bbid=197&utm_source=chatgpt.com
本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。