夏バテ知らずの食卓へ!和のスパイス山椒・生姜・わさびに隠された知恵
日差しが強まり、本格的な夏の暑さが到来すると、私たちの身体は知らず知らずのうちに疲労をためてしまいます。日本の夏は高温多湿であり、体力を消耗しやすい過酷な環境です。そんな日本の厳しい夏を元気に、そしておいしく乗り切るためのカギが、実は私たちの身近な食卓に隠されています。それが、日本で古くから愛されてきた「和のスパイス(香辛料)」です。
スパイスと聞くと、インドカレーなどに使われるクミンやターメリック、あるいは西欧のハーブを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、日本にも独自の気候風土が育んだ素晴らしい香辛料文化が存在します。
実は、スパイスやハーブには興味深い記念日があります。
例えば、日本KFCホールディングスでは創業者のカーネル・サンダースが考案した「11種類のハーブ&スパイス」にちなんで、毎月11日を「11スパイスの日」として販促に活用しています。また、8月2日は「ハー(8)ブ(2)」の語呂合わせから、エスビー食品などにより「ハーブの日」と制定されています。
洋の東西を問わず、これほどまでに人々を魅了し、記念日として称えられるスパイスやハーブ。これらは単なる料理の「引き立て役」に留まらず、人類が過酷な環境を生き抜くための健康の知恵でもありました。今回は、日本の食文化を支えてきた代表的な和の香辛料を3つ紹介します。
ピリリと痺れる最古の香辛料「山椒」

代表的な和のスパイスとしてまず挙げられるのが、爽やかな香りと独特の痺れる辛みが特徴の「山椒(さんしょう)」です。
山椒は、日本原産の代表的な香辛料であり、その歴史は非常に古く、縄文時代の遺跡から山椒の種が発見された例もあります。まさに日本最古の香辛料と呼ぶにふさわしい存在です。
主要産地として知られるのが和歌山県です。農林水産省の特産果樹生産動態等調査によると、和歌山県は国内の山椒生産量の大部分を占めています。特に、有田川町周辺で栽培されている「ぶどう山椒」は、大粒で香りが非常に高い品種として全国的に知られています。
また、兵庫県養父(やぶ)市の「朝倉山椒」も有名で、棘(とげ)が少なくまろやかな風味を持つ品種として評価されています。
夏の健康管理において、山椒は非常に強力な味方となります。山椒の痺れるような辛み成分は「サンショール」と呼ばれる物質です。このサンショールには、感覚神経を刺激し、唾液や胃液の分泌を促す働きがあるとされており、食欲が落ちやすい夏場の食事をサポートしてくれます。爽やかな香りも相まって、暑さで重くなりがちな気分をリフレッシュさせてくれる存在です。
定番の食べ方は、やはり「うなぎの蒲焼き」に振りかける粉山椒でしょう。香がうなぎの風味を引き立てるだけではなく、食欲増進にも役立ちます。また、冷奴に薬味と一緒に粉山椒をひと振りしたり、ちりめん山椒を乗せたお茶漬けも、夏らしい爽快感を楽しむことができます。
身体を内側から支える万能薬味「生姜」

2つ目に紹介するのは、「生姜(しょうが)」です。
生姜の原産地はインドを中心とした熱帯アジア地域と考えられています。日本への伝来も古く、712年に成立した「古事記」にもその名が登場します。当時は高価な「薬」として重宝され、平安時代の律令「延喜式(えんぎしき)」には、神前への供物や宮廷の医療に用いられていたことが記されています。
現代の日本における生姜の最大産地は、高知県です。全国生産量の約5割を占めるとされ、温暖な気候と豊かな水資源に支えられた高品質な生姜が栽培されています。
生姜の辛み成分として知られるのが「ジンゲロール」と「ショウガオール」です。生の生姜に多く含まれるジンゲロールには抗酸化作用があるとされ、加熱によって生成されるショウガオールは身体を温める働きで知られています。
夏は暑い一方で、冷房の効いた室内で長時間過ごすことも多くなります。その結果、身体の冷えやだるさを感じる人も少なくありません。そんなとき、生姜は食事に手軽に取り入れやすい存在です。
食べ方は、「そうめん」や「冷やしうどん」の薬味としてのすりおろし生姜です。冷たい麺類は胃腸の働きを低下させがちですが、おろし生姜を添えることで、生姜に含まれるタンパク質分解酵素が消化を助け、胃腸の負担を和らげるサポートをしてくれます。また、豚の生姜焼きは、生姜の香りと血行を促す働き、そして豚肉に豊富なビタミンB1による疲労回復効果が組み合わさった、夏の定番スタミナメニューです。さらに、自家製のジンジャーエールや、薄切り生姜を甘酢に漬けた「ガリ」を常備しておくのも、暑い季節を快適に過ごすための身近な工夫といえるでしょう。
清流が育んだ香辛料「わさび」

3つ目は、お寿司や刺身に欠かせない日本を代表する香辛料「山葵(わさび)」です。
わさびも山椒と同様に日本原産の植物であり、飛鳥時代の木簡には「委佐俾(わさび)」と記された記録が残されています。鎌倉時代から室町時代にかけて徐々に栽培が始まり、江戸時代には寿司や蕎麦の文化の発展とともに、庶民の間にも浸透していきました。
わさびの生産地として名高いのは、長野県と静岡県です。長野県安曇野市や静岡県伊豆地域のわさび田は、日本を代表する景観としても有名です。わさびの栽培には、年間を通じて冷涼で清らかな流水が必要とされます。特に、水温11〜15度前後の安定した湧水環境が理想とされ、日本の豊かな水資源があってこそ育つ作物といえます。
わさび特有のツンと鼻に抜ける強烈な辛みは、「アリルイソチオシアネート」という成分によるものです。この成分には高い抗菌作用があることが知られており、古くから刺身や寿司とともに食べられてきました。また、爽快な刺激によって食欲を増進させる効果も期待されています。
わさびの楽しみ方は刺身や寿司だけではありません。炊きたてのご飯にかつお節と、おろしたてのわさびを乗せ、醤油をひと垂らしして食べる「わさび丼」は、お米の甘みとわさびの爽やかな辛みがダイレクトに味わえる一品です。冷やし茶漬けや冷しゃぶ、サラダのドレッシングに加えるなど、夏の食卓でも幅広く活躍してくれます。
現代の夏にいかしたい、和のスパイスの知恵
「山椒」「生姜」「わさび」。これらに共通しているのは、いずれも日本の風土の中で長い年月をかけて親しまれ、食文化の中に根付いてきたことです。
近年の夏は、地球温暖化による記録的な猛暑に加え、室内外の激しい温度差など、昔以上に身体への負担が大きくなりやすい環境が続いています。涼しさを求めて冷たい飲み物や食事に偏りがちだったり、冷房の効いた室内に長時間こもりきりになったりすると、自律神経のバランスが乱れやすくなります。さらに胃腸の機能が低下し、食欲不振や全身の倦怠感といった「夏バテ」の悪循環に陥ってしまうのです。

こうした夏トラブルを少しでも和らげるため、スパイスを取り入れ「心地よい汗をかく」こと、そして体内の「抗酸化力を高める」というアプローチが重要になります。
スパイスがもたらす適度な発汗は、汗が蒸発する際の気化熱によって、身体に負担をかけずに自然な体温調節を促してくれます。また、今回紹介した3つのスパイスが持つ抗酸化成分は、活性酸素を抑えることで、過酷な夏を乗り切るすこやかな身体づくりの一助となります。さらに、これらのスパイスが持つ優れた抗菌作用や胃腸の活性化作用は、夏場に落ちがちな免疫力を足元から支えてくれるのです。
毎月11日の「11スパイスの日」や8月2日の「ハーブの日」といった記念日は、私たちが普段何気なく口にしている植物の力に改めて感謝し、その取り入れ方を見直すきっかけになるかもしれません。西洋のハーブや世界中のエキゾチックなスパイスを楽しむのも魅力的ですが、日本の風土で育まれ、和食の繊細な味を引き立ててきた和の香辛料には、私たちの身体に深く馴染む確かな力を感じます。
今年の夏は、お皿の隅に添えられた薬味をただの脇役として終わらせるのではなく、主役級の健康パートナーとして味わってみてはいかがでしょうか。先人たちから受け継がれた豊かな香りと刺激の知恵が、あなたの夏をよりおいしく、そして健康的に彩ってくれるはずです。
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もっと知りたいあなたへ
ぶどう山椒(和歌山県有田川町)
https://budo-sansho.com
生姜(JA高知県)
https://ja-kochi.or.jp/agriculture/products/vegetable/848/
世界農業遺産 日本農業遺産 静岡水わさびの伝統栽培
https://www.shizuoka-wasabi.jp
全日本スパイス協会
http://www.ansa-spice.com/index.html
本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。