2026.4.2
地方の奇妙な看板『猫に餌をやらないでください』の10年戦争
地方の公民館の壁に、小さな貼り紙がある。
猫に餌をやらないでください」
この貼り紙、よく見ると、少なくとも3世代ある。
一番古いのは、色褪せて、もはや文字が読みにくい。
でも、剥がされていない。
その上に、同じ内容で、新しい貼り紙が貼られている。
さらにその横に、もう一枚。
「猫への餌やりは、近隣の迷惑になります」文面が、少し強くなっている。
そしてさらに、手書きで、「お願いします」と書かれた紙が、追加されている。
この貼り紙の層が、物語を語っている。
最初は、優しくお願いした。
でも、効果がなかった。
少し強めに、書き直した。
でも、餌をやる人は、減らなかった。
手書きで、「お願いします」を追加した。それでも、猫は、増え続けている。
この貼り紙の前を通るたび、誰と誰の、見えない戦いが、
ここで繰り広げられているのか、想像してしまう。
餌をやる人は、この貼り紙を見ていないのか。見ているけど、無視しているのか。
それとも、「これくらい、いいじゃない」という信念で、やり続けているのか。
貼り紙を貼る人は、もう諦めかけているのか。
それとも、まだ希望を持っているのか。
地方の貼り紙は、剥がされない。
新しい貼り紙が、古い貼り紙の上に、どんどん積層していく。
この層が、時間の経過と、人間の諦めと、
それでも諦めきれない想いを、全部、閉じ込めている。
「猫に餌をやらないでください」
この貼り紙は、今日も、誰かに読まれて、誰かに無視されて、
そして明日も、そこにある。
地方の貼り紙は、主張ではなく、祈りなのだ。
誰かが聞いてくれることを、静かに、待ち続けている。