クラフトリリース
2026.7.21

「ありがとう」が会社を変える②~部署を超えて動く社員を育てる仕組み~

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前編では、長野県東御市(とうみし)、カクイチの工場で見た「ありがとう」が循環する文化について紹介しました。

社員同士がUniposで感謝を送り合う。照れくさくて言えなかった「ありがとう」が言葉になり、部署や拠点を超えて広がっていく。現場で交わされる自然なやり取りからも、カクイチには、感謝を受け取り、また誰かへ返していく空気があるのだと感じました。

では、その「ありがとう」は、どうやって会社全体の動きにつながっていったのでしょうか。

取材を進めると、感謝の文化を支えていたのは、Uniposだけではないことが分かってきました。情報を開き、部署を超えて人が集まり、見えてきた課題を少しずつ動かしていく。カクイチには、そうした仕組みがありました。
そのひとつが、「タスク」と呼ばれる制度です。

部署を超えて動く「タスク」という仕組み

一般的に「タスク」と聞くと、日々の細かな作業を思い浮かべます。私も最初は、ToDoリストのようなものを想像していましたが少し意味が違いました。

カクイチでは、会社の課題ごとにテーマを立て、部署を横断して5人ほどのチームを作り、期間限定で取り組む活動を「タスク」と呼ぶそう。基本は1シーズン約3ヶ月。これまでに12シーズン、累計264のタスクが実施されてきました。
テーマは、退職金改革、見積システムの改善、AIを活用した農業用アプリの作成、社歌制作など本当にさまざま。経営、現場改善、営業、地域貢献まで、幅広い課題が扱われています。

タスク制度も、最初から現在のように前向きに受け止められていたわけではありませんでした。しかし、実際に顔を合わせて話し合い、時間を共有するうちに、メンバーは少しずつチームになっていきます。ある社員の方は、普段は関わらない人と動くことで、自分でも気づいていなかった一面が見えてくることもあると話していました。

Uniposがそうだったように、誰かが楽しそうに取り組む姿は、まわりにも少しずつ伝わっていく。そうした空気が重なり、今ではタスクに選ばれることを前向きな機会として受け止める人も増えているそうです。

タスクチームのメンバーが並ぶ写真

あえて「得意」ではない場所に人を置く

さらに驚いたのは、タスクのメンバーが立候補制ではなく、指名制で選ばれることです。指名された社員は、「なぜ自分が選ばれたのだろう」と考え、自分に求められていることを探っていくのだそうです。
しかも、得意なこと、やりたいことはやらせないのだとか。田中社長にその理由を尋ねると、返ってきたのは「頼る力」という言葉でした。

得意なことなら、一人で進められてしまう。けれど、苦手なことに向き合う場合、誰かに聞き、助けてもらう場面が生まれます。そこに感謝が生まれ、Uniposも動いていくのだそうです。

また、タスクに参加する間は、日常業務を他の人に任せる必要も出てきます。そのためには業務を周囲に分かるようにしておかなければなりません。タスクは、自分の仕事を開き、一人に閉じていた仕事の進め方を見直すきっかけにもなっているのです。

前編で見た「ありがとう」は、こうした「頼る」「助ける」「任せる」経験が生まれる仕組みの中でも育っていました。

タスクを進める心得は3つ。
場所を変えること。一緒においしいご飯を食べること。そして、全力で楽しむこと。

タスクチームの合宿を楽しむ社員の写真

会社の課題に向き合う活動と聞くと、少し固く感じますが、カクイチのタスクには、頼り合いながら前に進むための、よい意味での余白がありました。

「最高顧問AI化プロジェクト」という不思議なタスク

直近の事例としては、「魂の言霊を解き放て 最高顧問AI化プロジェクト 深き教えの言語化」というタスクがあります。

ここでいう「最高顧問」とは、田中社長の父である田中健一氏 のこと。文化や哲学を深く愛し、「人とは何か」を考え続けていた方だったそうです。実際に工場内にも哲学書や歴史書が数多く並ぶ場所があり、ものづくりだけではない思想の積み重ねが、会社の中に残されているように感じました。

最高顧問の講話集は、積み上げると約50センチにもなるほど。このタスクチームでは、その紙の文書をデータ化し、AIも使いながら、社員が学びやすい形に整えていきました。学びの感想や論文を扱う仕組みもつくったそうです。

その結果、最高顧問の言葉に触れた人が1桁から3桁規模へと広がり、130人が論文という形で、教えを自分の言葉にしていきました。

新しい技術を使って、会社の根っこにあるものを掘り起こす。古いものをそのまま守るのではなく、今の社員が触れられる形に変えていくところに、カクイチらしさを感じました。

森の中のANCIENT VILLAへ

工場で話を聞いたあとは、軽井沢の森の中にあるANCIENT VILLAへ移動しました。ここは、カクイチのガレージを改装してつくられています。大きな窓に囲まれた共有スペースにはバーもあり、いつもの職場を離れ、部署や立場を超えて語り合うための場所として整えられています。宿泊できるヴィラはタスクの合宿などにも使われているそうです。

先ほど聞いたタスクの心得が、そのまま空間になったような場所でした。

ANCIENT VILLAの外観の写真
ANCIENT VILLAの共有スペースの写真

情報が閉じていると、人は動きにくい

ANCIENT VILLAでは、取締役の奥田はと枝氏による講演がありました。
そこで語られたのは、2014年に田中社長が就任した当時のカクイチの姿でした。

当時のカクイチは、事業が多角化し、拠点も全国に分散していました。しかし、それぞれが別々に動いており、横のつながりが薄かったのです。

特に大きかったのが、情報の扱い方でした。やりとりはFAX中心で事務所には紙があふれ、必要なデータも社員が独自に作り、ローカルに保存している状態でした。

情報はある。けれど、会社全体では使いにくい。

伝えたはずのことが伝わらない。現場で何が起きているのか分からない。
情報が人や部署の中に閉じていることが、会社の動きを遅くしていたのかもしれません。

これらが、2018年にUniposとSlackを導入した大きな理由でした。

奥田さんは、冒頭でこう整理していました。

「Uniposで人がつながる土壌をつくり、Slackに情報を流し、その情報をAIで活かす」

この言葉によって、工場での「ありがとう」と、今回聞いたタスクやAIの話が、1本の線でつながっていくように感じました。 

Slackを、情報が流れる場所にする

講演で印象的だったのが、Slackを単なるチャットツールではなく、会社の情報が集まる土台と位置づけていたこと。

カクイチでは、Slackのチャンネルに基本的に鍵をかけない方針をとっています。

「僕がすべてのチャンネルを見たかっただけなんだよね(笑)」
最初は、そんな田中社長の思いから始まった方針だったそうですが、部署を超えたやりとりや、会議での気づき、現場の小さな違和感が蓄積されるにつれ、社内で何が起きているのかが少しずつ可視化されていきました。
その積み重ねは、のちにAIで会社の動きを読み解く手がかりにもなります。

よい投稿には、社長から「社長必読」スタンプが押されることもあります。

社員にとっては、「こんなことも見ていてくれるんだ」と感じられ、Slackは、次第に社員の気づきや挑戦に光を当てる場所ともなりました。
ひとりの工夫がほかの社員の学びになり、誰かの小さな気づきが別の部署のヒントになる。部署を超えて動くための下地にもなったのです。

問いを立てる力が、会社を変えていく

奥田さんの話は、AIにも広がっていきました。

カクイチにとってAIは、人の仕事をそのまま置き換えるものではありません。AIは完璧ではないから、人の置き換えは無理だと話されます。では、何を任せるのか。「人が苦手で、曖昧で、手間のかかる部分」をAIに助けてもらうという考え方をしているそうです。

たとえば、Slackの蓄積情報をもとに、AIが会社全体の動きや人の状態を分析する。さらに、その結果を社員一人ひとりへのフィードバックにも活かしていました。

人から直接言われると受け止めにくいことも、AIからのフィードバックになることで、冷静に受け取りやすくなるといった効果も出ているそう。

現場の違和感やお客様の一言、社員の小さな気づきのように、数字になりにくい情報も、Slackに残っているからこそ会社の変化を知る材料になる——情報を開くこととAIを使うことは、この会社では別々の取り組みではなく、地続きにつながっているのだと感じました。

最後に残ったのは、技術ではなく「人」の話だった

講演ではさらに、AI時代における人間の役割は「問いを立てること」だとも話されていました。

「どんな世界にしたいのか」
「自分は何をしたいのか」
「何を変えたいのか」

その問いは、AIの使い方だけでなく、会社をどう変えていくのかというカクイチの歩みにも重なっていました。

腕を組んで並ぶカクイチの現場社員の写真

カクイチの改革を聞いていると、ひとつのツールだけで会社が変わったわけではないことが分かってきます。

全社員にiPhoneを配り、誰もが同じ情報環境に入れるようにしたこと。Slackで情報を開き、誰がどこで何をしているのか見えるようにしたこと。タスクチームで部署を超えて課題に向き合い、社員が頼ったり、助けたりする経験を増やしたこと。

そしてUniposで、感謝や助け合いの関係性を見えるようにしたこと。

工場で見た「ありがとう」は、やさしい言葉でした。けれど、そのやさしさを会社全体で続けていくためには、情報を開く仕組み、部署を超えて動く仕組み、失敗や違和感を学びに変える仕組みが必要だったのだということです。

創業140年の会社が作り替えていたのは、

人が声を出せること。
誰かに頼れること。
見えない貢献に気づけること。
そして、変わることを怖がらないこと。

カクイチがつくっていたのは、そんな「人が育つ組織」の土台だったのかもしれない、そう感じる取材でした。

前半はこちら

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株式会社カクイチ
https://www.kaku-ichi.co.jp/
アンシェントホテル浅間軽井沢
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