クラフトリリース
2026.7.21

「ありがとう」が会社を変える①~創業140年企業・カクイチの現場改革~

- SNSでシェアする -

「社員数をほとんど増やさずに、営業利益を5年で3倍にした会社がある」

そう聞くと、まず思い浮かぶのは、新しい設備や大胆な事業戦略のようなものかもしれません。けれど、そのきっかけのひとつが、社員同士で「ありがとう」を送り合うアプリだったと聞き、少し意外な気がしました。

ありがとうで、会社は変わるのだろうか。
しかも、創業140年の老舗企業で。
そんな疑問を抱えながら、長野県東御市(とうみし)にある株式会社カクイチの工場へ向かいました。

笑顔で出迎えてくれた社員の方々

現地でまず印象に残ったのは、数字でも仕組みでもなく、人の表情でした。明るく自然な笑顔が印象的な社員の皆さんの出迎えを受けましたが、さらに印象深かったのは、社員同士の距離感です。声をかけ合う様子や、何気ないやり取りから、部署や立場の違いを越えて、ほどよく近い関係が築かれているように感じました。

肩に力が入りすぎていない、こちらまで少し安心するような空気がある。
この会社で何が起きているのかを知りたい。そう思う入口として、その空気感はとても大きいものでした。

カクイチとは、どんな会社なのか

株式会社カクイチは、1886年(明治19年) 、長野県更級郡稲荷山(当時)で金物問屋として創業した会社です。現在は、ガレージ、ホース、鉄鋼、ミネラルウォーター、ホテル、太陽光発電など、多くの事業を展開しています。

長野県東御市にあるカクイチ工場の全景写真

工場は4つ、営業拠点は19、ショールームは74 あり、社員はパートを含めて約600名。地域に根を張りながら、長い時間をかけて事業を広げてきた企業です。
金物問屋から製造業へ、さらにガレージの製造小売やホテル事業、太陽光発電、ナノバブル事業へ。カクイチは時代に合わせて何度も姿を変えてきました。

事業が増えるほど、人と情報が離れていった

一方で、長く続く会社だからこその悩みもありました。
カクイチが抱えていた課題は、事業が多く、拠点も離れていることから生まれていたそうです。

ガレージ、ホース、鉄鋼、水宅配、太陽光発電、ホテル事業など、さまざまな仕事がある。けれど、それぞれが別々に動いていて、横のつながりが薄い。隣の部署や別の拠点で何が起きているのか分からず、仕事も情報も部署の中に閉じてしまう状態だったといいます。

現場には助け合いもありましたが、誰が誰を支えたのか、どこで困っている人がいるのかを、全社において可視化できていませんでした。
さらに、歴史が長い会社だからこそ、「今までこうだったから」という前提で進みやすく、変化のスピードも遅くなりがちでした。

「感謝」を見えるようにするアプリ、Unipos

そんな状況で導入されたUnipos(ユニポス)は、社員同士が感謝のメッセージとポイントを送り合えるアプリ。送られたメッセージは個人同士で完結するのではなく、他の社員も見ることができ、拍手を送ることもできます。

カクイチでは、毎週月曜日に全社員へ400ポイントが付与されます。社員はそのポイントを、日々の仕事の中で「ありがとう」を伝えたい相手に、メッセージとともに送ることができます。受け取ったポイントは、Amazonギフト券に交換できるというもの。

社員同士でUniposのメッセージを送り合う様子の写真

出発点は、大きな組織改革を掲げることではありませんでした。まずは社員同士のつながりを増やし、現場にある助け合いを見えるようにすること。カクイチの変化は、そこから始まりました。

現場は最初、猛反発だった

とはいえ、導入が最初からスムーズだったわけではありません。
工場の現場では、強い反発があったそうです。

「そもそもスマホすら触ったことがない」
「軍手をしていて、どうやってスマホを触るのか」
「管理職までにしてくれ」

当時の現場では、パソコンを触っているだけで「仕事をしていない」「さぼっている」と見られてしまうような空気もあったといいます。ものづくりの現場において、デジタル機器に向き合う時間は、まだ仕事の一部として受け止められにくかったのかもしれません。

それでも経営陣は、工場社員はもちろん、パートタイムの社員も含めて全員にiPhoneを配布し、Uniposを全員で使う方針を貫きました。

管理職だけに限定すると、結局そこに情報の差が生まれてしまう。一部の人だけが使うのでは、会社全体は変わらない。
全員が同じ場所に入ることにこだわったのが理由でした。

「ありがとう」は、思っていたよりも現場に合っていた

実際に始めてみると、Uniposは予想以上に浸透していきました。
現場で実際に使われているUniposの画面を見せてもらいながら、9名の社員の方々の話を聞くうちに、その理由が少しずつ分かってきました。

Uniposの画面を投影し、活用方法を紹介する9名の社員の写真

現場に感謝がなかったのではありません。むしろ、助け合いや感謝はもともとたくさんありました。ただ、音の大きい現場では、対面で感謝の言葉を伝えにくいこともあります。
顔を見ると照れてしまう言葉も、Uniposならあとから送れる。夜や週末に送ることが、自分自身の振り返りにもなるという声も。
「使うことにプレッシャーはないですか」という問いかけには、「むしろもっと送りたい」という前向きな言葉が返ってきました。

画面には、「助かった」「ありがとう」「お疲れさま」といった、日々の仕事の中で生まれる言葉が並んでいました。新しい感謝を無理につくるのではなく、もともとあった感謝を、言いやすく、残しやすくしたUniposは現場に最適だったのでしょう

Unipos上で社員同士が送り合ったメッセージの画像

新しいツールに合わせて、評価制度も変えた

カクイチがUniposを根づかせるうえで大切にしていたのは、現場の自発性だけではありません。
新しいツールを根づかせるには、使う人の善意だけに任せるのではなく、会社の制度も一緒に変える必要がある。そう考え、Uniposの導入に合わせて、評価制度も見直しました。

2020年にはチーム評価にUniposでの貢献を組み込み、2025年には個人評価の仕組みも刷新。複数の軸で、社員の行動を見ていく形へと変えていきました。

Uniposのやり取りや拍手において、社内のつながりの中心にいるのは、必ずしも役職のある人だけではなく、これまで表に出にくかった人の働きや、誰が誰を支えているのかも見えるようになってきたそうです。

一方で、導入当初には、ポイント稼ぎのような動きや、感謝を求めるような動きも一部にあったのだとか。

そこで、感謝を「送られた人」だけでなく、「送った人」にも目を向けるようにし、さらに、投稿に拍手する人も、まわりの良いやり取りに気づく人として評価の対象にしました。

感謝を送る人、受け取る人、それを見て拍手する人。1対1で終わらず、まわりの人も関われること。そして、その小さな関わりを会社として評価の中でも見ていくこと。そこに、Uniposを一過性のツールで終わらせなかった理由があったのだと感じました。

工場の「ありがとう」を、見える文化に

工場見学後、Unipos活用例を紹介するプレゼンテーションがありました。そこで示されたのは、感謝のやり取りが、職場や部署を越えて広がっている様子でした。

同じ職場内での日頃の労い。他職場への応援。工場と営業所をつなぐ感謝のやり取り。経営層と社員との交流。そして、清掃や挨拶など、数字に表れにくい行動への感謝。

売上や受注額のように、数字で分かりやすく表れる仕事もあります。しかし、会社はそれだけで成り立っているわけではありません。場所をきれいに保つ人がいる。気持ちよく挨拶をする人がいる。目立たないところで、誰かの仕事を支えている人がいる——そうした行動に「見ていました」「ありがとう」と言葉が届き、周囲にも見える形で残っていく。

日々の小さな関わりが可視化されることは、働く人にとって一つの支えになるのかもしれません。
ありがとうそのものが、すぐに利益を生むわけではありません。けれど、誰かの行動に気づく人が増え、その気づきがまた次の声かけや助け合いにつながっていくこと。

最初に抱いた「ありがとうで会社は変わるのだろうか」という問いに対する答えに、少しずつ輪郭が見えはじめてきました。

Uniposの活用事例を紹介するプレゼンテーションの写真

社員数はほぼ横ばい、営業利益は3倍に

実は数字にも、その変化は表れています。

2020年から2025年にかけて、株式会社カクイチの社員人数は383人から397人へ。大きく増えたわけではありません。一方で、営業利益は5.4億円から16.2億円へと伸び、300%になりました。

もちろん、「これがUniposだけの成果だとは言えない」と話しておられたように、会社の業績は、ひとつのアプリだけで説明できるものではないでしょう。
それでも、感謝や助け合いが見えるようになり、それを評価制度にも反映させたことは、社員の動き方を少しずつ変えていったはずです。

数字の奥にあったのは、そうした人と人の関係の変化でした。

感謝の文化を支えていた、もう一つの仕組み

カクイチの変化は、単にUniposというアプリを入れたから起きたものではないのだと分かってきました。

全員が同じ環境で使えるようにしたこと。感謝を送られた人だけでなく、送った人や拍手する人にも目を向けたこと。そして、これまで見えにくかった貢献を、会社としても評価の中で見ていったこと。
そうした積み重ねの上に、カクイチの「ありがとう」は根づいていました。

しかし、取材を進めると、もう一つ気になる仕組みが現れました。
それは、感謝の文化をさらに広げ、人と人を部署の外へ連れ出していく「タスク」という制度。

なぜ、カクイチの社員は部署を超えて動けるようになったのか。
なぜ、老舗企業でありながら、変化のスピードを上げることができたのか。
その先に見えてきたのは、「ありがとう」が根づく組織づくりでした。

後編はこちら

―――
もっと知りたいあなたへ

株式会社カクイチ
https://www.kaku-ichi.co.jp/
Unipos株式会社
https://www.unipos.co.jp/

- SNSでシェアする -