クラフトリリース
2026.7.13

山梨・甲府のすごい麺が出るスパゲッティの店〜店名の出ない旅するグルメ8〜

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7月は桃の季節

山梨県の勝沼、塩山(えんざん)あたりによくやってくる。もう7月だ。桃の季節になる。例年同様、忙しくなる。

自分でも少しどうかしていると思うところがある。このあたりに毎年通っている。それはつまり7月ひと月にということなのだが、そのひと月に3回、下手をすれば毎週、クルマを飛ばして桃を買いに行く。仕入れに近いかもしれない。毎年3桁に届くくらいの桃を買う。いや、正直に言えば100個を超えている。だいたい平均すると7月ひと月で3回ほど出かけ、1回につき40個くらい桃を買うのだ。私の家族は2人。なにをやってるんだという話ではあるが、桃を買う、安くおいしいものを買う、というレジャーなのである。

はねだし桃というもの

桃が実っている様子の画像

はねだし桃というのがある。聞きかじった話なのだが、山梨の桃農家さんの桃の流通の話。農家さんたちは自分の畑で丹精込めて作った桃をJAの共選所という場所に持ち込むようだ。桃の選別と箱詰めをする施設で、JAフルーツ山梨が運営している作業場のようなものだ。規模はかなり大きい。サイズと品質で選別がされるようで、そこから規格に外れたものがはねだし桃と呼ばれて格安で提供されているのである。これが1つ目の目当て。品質は、正直「どこに傷が?」というもので大変に良いもの、きちんと甘い、おいしい。値段は野暮なので明記しないが市価の半分か1/3ほどだろうか。その年によって値付けは変わる。

もうひとつの目当ては畑の端に設置された無人販売店。ひとかごに4つほど入って、およそ牛丼に味噌汁をつけた1食程度だろうか。本当に格安。無人販売なので小銭の用意は必須である。忘れた時はコンビニなど探してくずしてくる。熟れすぎたのものや当たってしまったもの。木から落ちたものなどであろうか。痛みは見た目でわかるくらいに入っている。自分で食べる分には品質に問題はない。コンポートやジャム、シャーベットにするにもいいものだ。わたしはたくさん買って冷凍している。ハンドブレンダーでかき混ぜるだけで1年中桃のスムージーが楽しめる。

共選所巡りのコツ

農協の桃の選果場の画像

そんな感じの桃たちを車で行ったり来たりしながら手に入れてゆく。探して買うことが楽しくて気がつけば30個、40個という数になる。昨今、桃泥棒が出るというニュースは数年続いており、胸を痛めている。というよりも、怒っている。なぜなら私の桃の取り分が減るからだ。絶対に許さない。

もちろん山梨・勝沼塩山あたりは桃だけではない。うまくタイミングが合うとさくらんぼのはねだしや栗、筍、ぶどうなど農産物天国で買い物が楽しい。

たしか、きっかけは道の駅に併設されているスーパーマーケットだった。「道の駅はくしゅう」のスーパーマーケットで格安の桃を見つけて以来、虜になってしまった。それでいろいろと探したり調べたりで、毎年楽しい7月を迎えている。

だいたい午前中に着かないと共選場の桃にありつけない。とにかく足が速い。それと、はねだし桃なわけで、いつでも潤沢というものではないのだ。早起き早出は必須となる。昼休みに入ったら共選場はお休みで、午後も動き出してしばらく待ってはねだし桃が出るか出ないか、という感じ。油断してはいけない。そして入手をすればさっさと無人販売所巡りに取り掛かる。

そんなことをしているとたちまち午前中が終わる。車内いっぱいに広がる桃の香りにうっとりするが、それとは別に腹は減る。昼飯にしよう。

偶然出会ったイタリアン

そんな道中を毎年繰り返しているときに出会ったレストランがある。ちょっと凄みさえ感じる料理が出てくる。イタリアン、というよりはスパゲッティ、パスタの専門店の趣がある。

はね桃巡りは勝沼・塩山界隈だ。ここらへんにもいい店はぽつぽつとあるが、数でいえばやはり甲府市に少し近づいた方が選びようがある。そんなことを思いながらたまたまスパゲッティでも食べたい、とその場で探し当てた店。行ってみると荒川から分かれた支流の川のそばだった。甲府市国母である。ちょっと雰囲気のある建物で、壁には蔦が緑深く張り付いている。

入るとカウンターとテーブル3席ほどだろうか。店内も雰囲気がある。うるさい要素のないスッキリしたインテリアと腰の落ち着く空気。カウンターの赤い招き猫がチャーミングだ。常連であろうか、静かに、嬉しそうにカウンターで食事をしていたのが印象的だった。丁寧なホール兼任の男性は感じ良く、マスターの落ち着いた物腰と対照的で、どちらも心地よく感じる。

皿から浮かび上がるメッセージ

ランチのメニューをもらったが、シンプルそのもの。スパゲッティが2種類から選べる。サラダもつけられる。何気なく入った店だったのだが、鬼気迫る旨さのスパゲティが出てきてしまって言葉をなくした。ものすごい店に偶然入ってしまった。

料理や店の端々から「伝えたいものがあるのだ」というメッセージというか、強い意思を感じずにはおれない店。もちろんそういうものはどんな店でも持っているであろう。しかしここはその思いがすごくストレートに伝わってくる感があった。感じたのは「スパゲティ、麺を食べさせてやる」という強い意思。料理人の強い思いがその料理から炎のように、オーラのように、ゆらりと立ち昇る感があった。考えすぎだろうか?いや、間違いないだろう。

スパゲッティ カレッティエッラ

パスタを鍋で茹でているイメージ画像

「スパゲッティ カレッティエッラ」を注文。シンプルなトマトソース、と説明にあったがそんな単純なものではなかった。たしかにシンプルな作りであるが、良いパスタと良いオリーブオイルと良いトマトをこれ以上ないバランスで組み上げてある。技術も勘も必要な仕上がりだ。

ガーリックがまったくもってこれ以上でも以下でもない分量を精密に効かせてあり、感嘆する。トマトとそれが合わさって強いパンチとなってファーストアタックとしてやってくる。が、ふた口目からはもう麺自体の虜になっているのだ。ふた口め以降「そうではない、ファーストアタックのあの味はしばし忘れて麺を噛み締めろ」と皿の上から声が聞こえてくる。

強目の熱さ感じるパスタとトマトソース。その熱さも体験のうちで、温度、強い個性のソース(本当はソースとパスタを分離して語るのはナンセンスだとは思うが)、麺のうまさと順番に気持ちを砕かれ、持っていかれる。

何をやりたいのかが食べるとわかるすごい料理で、スパゲティ自体、麺そのものを食べさせるために調味、調理のチューニングがあるといって過言ではない仕上がり。料理だから主従どちらというのはないと思うが、やはりこれはパスタが主、なのだ。本当に抗し難い魅力のあるスパゲッティ。シンプル、しかし簡素とか単純とかいうものと正反対を向いている。

ディナーに再訪問

惚けたまま帰途に着いた。その2週間後、どうにも我慢できずにもう一度、ついでではなく偶然ではなく、あの店だけを目指してシリアスに時間調整をし、高速道路を使い、間違えのないように辿り着いた。ちゃんと狙って食べにきた。ディナーを狙った。

それで気がついたのだが、先に書くのもなんなんだが、改めてわかったことがあった。もちろん私が想像をするところでの話。店主、やっぱりスパゲッティを食べさせたいんだと思う。ショート、ロング含めて総称のパスタという言い方の方があっているとは思うが、やっぱり「スパゲッティ」なんじゃないか。

ランチで食べた「スパゲッティ カレッティエッラ」などは具材ではなく、スパゲッティに味付けとしてのチーズやガーリックなどが付加される。肉や野菜、魚などの固形の具材を使わず、主役、つまりランチではスパゲッティのみスポットライトを浴びるよう余計な要素を削った設計に見える。そういうことなのではないのか。

それでも変わらぬスパゲッティを食べろというメッセージ

生パスタの画像

そしてこの夜、ディナーで食べたスパゲッティ。これはランチと違っているぞ、とすぐわかった。棲み分けとして、ランチでは凝った具材を配さないスパゲッティそのものの力を推し出したひと皿。より強いメッセージ性。この店がどんな店なのかをガイドしてくれるような顔を持っている。

ディナーは「ブッロ」や「ポモドーロ」、「ペペロンチーノ」などランチの方向と似た「素のスパゲッティ」ももちろん取り揃えつつ、「プッタネスカ」「ルチアーナ」「ボンゴレ」「カルボナーラ」「ボロネーゼ」などがメイン。ショートパスタの「リガトーニ」「フジッリ」「ブジアーテ」などもメニューに載る。楽しい具材が入るものも多いということだ。

メニューを眺めると「2.4mmスパゲットーニ」「リングイネ」「2mmキタッラ」など使われるパスタのイメージがしやすいよう説明もある。やはり「しのごの言わずに麺を食え」というメッセージと受け取った。家族2人で出かけたこの夜のディナーはサラダともつ煮込み、パスタ2種という注文。

料理の実力

サルシッチャの画像

サラダは真面目なグリーンサラダ。当たり前に野菜を丁寧に扱っているのがわかる。サラダは1種のみでドレッシングを3種から選べるようになっていた。「バルサミコ・オリーブオイル・チーズ」「レモン・オリーブオイル・チーズ」「クルミオイル・シェリービネガー・焼きクルミ」どれも魅力的。「クルミオイル・シェリービネガー・焼きクルミ」としてみた。クルミの香りと食感を楽しみつつシェリービネガーの酸味と個性で楽しく食べられるシンプルなサラダ。こういうのがいい。

牛ハチノス煮込み・トリッパ、これが大変なものだった。ちょっと夢に出そうな素晴らしいもの。濃厚できちんとと内臓のクセを残しつつ、しかし雑味がない。うむ、こういうことができるのか。この驚きたるや。ハチノスというやつはこんなに従順ないい子であったか。しかし従順だが個性を殺さない絶妙調理・調味。

さて、パスタの時間だ。ズゴンプロスパゲッティは、燻製サパのガーリックオイル円形細平麺パスタリングイネ。薫香高く、身のつまった手応え感じる鯖の食感。塩のエッヂとオイルの馴染み、リングイネの平らな部分の面から舌にざらりとやってくるテクスチャを夢中で楽しみつくす。幸せが込み上げる。ひと口目のインパクトこそサルシッチャのスパゲッティに譲る感があるのだが、噛んでいくほどにその存在感が増して行く面白さはむしろこちらにある。噛むほどに楽しい驚きが増えてゆく。圧倒された。

サルシッチャスパゲッティ、富士桜ポークを使った腸詰挽き肉とトマトに羊チーズ、2.4mm スパゲットーニという構成。これまたものすごい。腸詰めなどいう簡単な言葉では済まされない、飛びかかってくる肉の強い主張。サルシッチャは腸詰めだが、スパゲッティに合わせるときはバラしてやるのだとどこかで聞いた事があった。塩漬け肉であるサルシッチャ、まるで原始肉のような、これもまた噛んでいくのが楽しくて仕方ない食感と味。いや、これはうまい。下味の丁寧なチューニングや熟成など感じるところが多い。そこに2.4mm、ちょいと太めのスパゲットーニが歯を押し返してくる噛み心地。小麦の味、香りがかさなってくる。幸せすぎてちょっと言葉にならない。

惜しむらくは車で来たためワインは楽しめず。しかしソフトドリンクも良かった。クラフトジンジャーエール(生姜とスパイス・果実)とクラフトスパイスコーラ(11種類のスパイスと果実)。どちらも香り強く、料理に負けない個性を持っている。ジンジャーエールは切れ味心地よく、コーラは甘め。甘いが甘ったるくはない。あいだあいだで差し込んでいく甘さで料理の進行にリズム、アクセントをつけるのは面白いと気が付いた。

泊まりがけで再訪問を誓う夜

サラダにセコンドピアット(コントルノなしで立派にセコンドをつとめられるパフォーマンス)、スパゲッティというシンプルなチョイスとしたが、これだけでお腹と心はいっぱい。2人ならこれで十分かもしれない。本当は欲張ってあとひと品とも思ったが、この日のお腹の都合でここまで。これでワインをボトルで頼んだとしても2人で1万円と少しで収まってしまう。なんということだ。

スパゲッティというものがこんなに楽しいのか、と改めて思わされた。

この日はディナーでカウンターの奥の隣の部屋に通してもらった。奥の部屋があったのか。知らなかった。ちょっと包まれ感を感じる照明とインテリア、居心地のいい場所であった。なかなかに腰を上げ難い。

次回、楽しみつくすために、近くに宿を探さねばならなくなった。

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もっと知りたいあなたへ

JAやまなし:もも|山梨のフルーツ
https://www.ja-fruits.or.jp/fruits/momo

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本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。

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