2026.2.24

神守る海と悠久の祈り~玄界灘に抱かれた福岡県・宗像の歴史と自然~

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福岡県宗像市は、古代から現代まで「海の道」の守り神として崇敬されてきた神社の総本社、宗像大社を擁する「神宿る島」と「海人(あま)の里」です。玄界灘(げんかいなだ)に面し、古くから朝鮮半島や中国大陸との交流の要衝であった宗像(むなかた)には、海を介した交易や航海の安全を祈る文化が色濃く残っています。

玄界灘の恵みと自然景観をあわせて紹介しながら、悠久の祈りが現代まで続く宗像の特別な価値に迫ります。

世界遺産「宗像三女神」と信仰の歴史

宗像市が「神宿る島」として特別な地位を確立しているのは、宗像大社の存在にほかなりません。宗像大社は、天照大神の御子神とされる田心姫神(たごりひめのかみ)、湍津姫神(たぎつひめのかみ)、市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)の「宗像三女神」を祀る神社の総本社です。

この三女神の信仰形態こそが、宗像を他の神社とは一線を画す存在にしています。三女神はそれぞれ、本土から約60キロメートル離れた絶海の孤島である沖ノ島(沖津宮)、玄界灘に浮かぶ大きな島である大島(中津宮)、そして本土の辺津宮(へつぐう)に祀られており、これら三社が一体となって、古来より「神守る海」を形成し、航海の安全を見守ってきました。

特に沖ノ島は、4世紀から9世紀にかけて国家的な祭祀が厳粛に行われた聖地です。島から出土した約8万点の奉献品(ほうけんぴん)は、すべてが国宝に指定され「海の正倉院」とも称されます。

沖ノ島は、島全体を御神体(ごしんたい)とする特別な聖地であり、古代からの信仰に基づく厳格な禁忌が現在も守られています。そのため、原則として一般の立ち入りは認められておらず、女性の入島を含む制限も、長年にわたる信仰慣習として継承されています。

こうした事情から、大島の北端に設けられた「沖津宮遙拝所(ようはいじょ)」は、玄界灘の彼方に浮かぶ沖ノ島を遥拝するための重要な場となっており、今も多くの参拝者が訪れています。

初夏の宗像大社沖津宮遙拝所の画像

この沖ノ島を含む「宗像・沖ノ島と関連遺産群」は、古代の祭祀の歴史がそのまま残されている類まれな遺産として、2017年にユネスコ世界遺産に登録されました。辺津宮境内にあるにある「宗像大社神宝館」では、これら国宝の数々を間近に鑑賞することができ、当時の国際交流の熱量を今に伝えています。

圧巻のスケールと神秘の「奥之宮八社」~宮地嶽神社(みやじだけじんじゃ)~

大注連縄がある宮地嶽神社の画像

宗像市に隣接する福津市に鎮座する宮地嶽神社も、この地域の信仰を語る上で欠かせない存在です。ご祭神である神功皇后(じんぐうこうごう)を祀り、「何事にも打ち勝つ開運の神」として広く信仰を集めています。宮地嶽神社の特徴は、何といっても「3つの日本一」です。拝殿に掲げられた直径2.6メートル、重さ3トンの「大注連縄(おおしめなわ)」、直径2.2メートルの「大太鼓」、そして「大鈴」は、訪れる人々を圧倒する力強さに満ちています。

そして、この神社のさらなる奥深い魅力が、本殿の裏手に広がる「奥之宮八社」です。「一社一社をお参りすれば大願がかなう」という信仰があり、一番社から八番社までそれぞれ異なる御利益を持つ八つの社が鎮座しています。

この八社を巡る「奥之宮八社巡り」は、参拝者に非常に人気のある体験です。数年前になりますが、筆者自身、実際に八社巡りを行いました。それは心身が浄化されるような、自分自身の内面を見つめ直したような、特別な充足感を与えてくれるひとときでした。

宮地嶽神社からみる光の道の画像

宮地嶽神社が特に注目を集めるポイントになっているのが、壮大な自然の造形美です。神社から玄界灘に向かって一直線に延びる参道の先に、年に2度(2月と10月)、夕日が沈む瞬間が訪れます。このとき、参道全体が黄金に輝く「光の道」が現れます。この神秘的な光景は、かつて国民的人気グループが出演した日本航空(JAL)のテレビコマーシャルの舞台になったことで、一躍日本を代表する夕景スポットとして全国的に知られる存在となりました。光の道が海へと続く景色は、この地の人々が海を神聖なものとして捉えてきた証でもあります。

玄界灘の恵みと宗像の豊かな自然

秋の大祭のみあれ祭りの画像

宗像市は、古代の信仰の歴史だけでなく、豊かな自然、特に「海」の恵みによって人々の生活が営まれてきました。宗像市が面する玄界灘は、暖流と寒流が交わる日本有数の好漁場であり、「海人(あま)の里」として栄えてきました。

宗像の漁業の歴史は古く、古代より宗像大社の祭祀を担ってきた「宗像氏」が、海と深く関わる立場にあったことから、信仰と漁業、そして海の営みが密接に結びつきながら育まれてきたことがうかがえます。

その象徴的なイベントが、毎年10月に行われる秋季大祭の幕開けを告げる「みあれ祭」です。数百隻の漁船が三女神の御神輿を乗せて海上を巡行する光景は圧巻で、地域の強い結束と海への感謝の心を今に伝えています。

現代においても、宗像の漁業は盛んで、その漁獲量は西日本有数を誇ります。玄界灘で獲れる「宗像あなご」や、高級魚として知られる「鐘崎天然とらふぐ」をはじめ、新鮮な「鯛」を特製の胡麻醤油で和えた「鯛茶漬け」は、地元宗像の食文化として親しまれています。

さらに宗像では、こうした海の幸に加え、内陸部の豊かな水と肥沃な大地に育まれた宗像米や新鮮な野菜など、山の恵みもまた人々の暮らしと食卓を支えてきました。海と山、双方の恵みが身近にそろうことは、この地域ならではの大きな魅力です。

加えて、宗像大社の鎮座する大島をはじめ、白砂青松の景観が広がるさつき松原など、海と緑が調和した自然環境は、市民や訪れる人々にとって心安らぐ憩いの場となっています。

歴史と未来をつなぐ宗像の価値

宗像市は、古代のロマンを感じる厳粛な信仰と、現代の生活に密接に関わる豊かな文化が奇跡的に融合した地域です。ユネスコに認められた「世界遺産」としての歴史的価値があるだけでなく、光の道や奥之宮八社巡りに代表される、現代的なツーリズムとしての魅力が共存しています。

それは目に見える社殿の美しさだけではありません。絶海の孤島を遥か彼方から拝む敬虔

な心や、海とともに生きる人々のたくましさ、そして旬の食を慈しむ日々の暮らし。そのすべてが、私たちが未来へ大切に引き継いでいくべき、かけがえのない日本のたからものに他なりません。

神宿る海と悠久の祈りが現代まで続くこの地は、日本人が古来より大切にしてきた精神の原風景に出会わせてくれます。そんな宗像の地へ、心身を清める旅に出掛けてみてはいかがでしょうか。

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もっと知りたいあなたへ

むなかた観光ガイド 福岡県宗像市公式サイト
https://www.city.munakata.lg.jp/kanko/
宗像大社 公式ホームページ
https://munakata-taisha.or.jp/
宮地嶽神社
https://www.miyajidake.or.jp/

本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。

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