2025.4.21

地方都市の大きな財産 〜路面電車が醸し出す街の雰囲気〜

「路面電車」といえば、一体どこの街を思い浮かべますか?
街中の道を、車と同じ目線でトコトコと走る路面電車は、どこか懐かしく、訪れる街の風景をより魅力的に見せてくれるように感じます。街の魅力をアップする日本各地の路面電車は、地方都市の風景財産ともいえるでしょう。

そんな路面電車について掘り下げてみました。

路面電車とは?

小学館のデジタル大辞典によれば、路面電車とは「一般道路上に敷設されたレール上を走行する電車。19世紀後期に市街地の鉄道馬車に代わって発達」したものと定義されています。英国ではTram(トラム)、米国ではStreetcar(ストリートカー)などとも呼ばれ、文字通りに路面を走行する電車です。

普通の鉄道と何が違うのかというと、都市や街の中を走っていて、比較的営業距離が短い、停留所(駅とは呼ばないようです)の間隔が短いという特徴があります。もともとヨーロッパでは馬車鉄道から始まっており、馬を動力に使うことには馬糞の問題などもあって、動力が電気に替わり現在のような形になりました。

世界の有名な路面電車を見てみると、サンフランシスコ(アメリカ)、香港トラム(中国特別行政区)、ウィーン市電(オーストリア)、ビルバオ・トラム(スペイン)、ミラノ市電(イタリア)、ブタペスト市電(ハンガリー)、モスクワ市電(ロシア)、ベルリン市電(ドイツ)など、まだまだ多くの路面電車が現役で活躍していて、その街の代名詞のようになっているものも多いのです。絵葉書の写真に切り取られている風景にもよく登場していますね。

日本国内にはどのくらい残っているのか

ここまで「路面電車」といってきましたが、実は日常的には「市電」と呼ばれていることがあります。これは、路面電車の経営形態が地方自治体による地方公営企業(交通局)であることが多いため、国内の路面電車の多くには「〜〜市電」という名称がつけられていますが、実際には経営形態に関係なく、路面を走る電車の多くが「市電」と一般的に呼ばれています。さて、そんな市電にはどこに行けば会えるのでしょうか。

日本国内で現存している(営業している)路面電車は全部で19事業者あり、それぞれの街で複数の線を運営している会社もあります。意外とたくさんの路面電車がまだ現役で走っているんですね。

営業距離総延長は、最短が「福井鉄道」の3.4km、最長が「とさでん交通」の25.3kmとかなりの開きがありますが、いずれも地元に根付いた交通手段として親しまれています。

それぞれに趣の違う市電たち

訪れた街に市電が走っているだけでワクワクしてしまいますよね。ここからは、主な都市で活躍している市電を見ていきましょう!

●函館市電(北海道函館市)

北海道の南端、津軽海峡を挟んで青森県の対岸に位置する函館は、五稜郭やレンガ作りの倉庫、外国人の多く住んだ土地柄から教会や洋館などがあり、港町らしい雰囲気も漂う人気の観光地です。日本屈指の夜景も有名ですね。この函館にも市電が走っています。

1913年の開業ですから、110年以上の歴史を持つ市電です。日本の路面電車たちは1910年前後の開業が多く、函館市電もそのひとつといえます。

一番長い路線は「湯の川線」で、市内東側の湯の川温泉までを営業しています。「函館どっく前」から「五稜郭公園前」あたりは、函館を訪れた人なら一度は利用したことがあるのではないでしょうか?

料金は利用距離によって大人210円〜260円となっており、交通系ICカードも利用できます。

●都電荒川線(東京都荒川区〜新宿区)

首都東京に残る路面電車のひとつで、東京都荒川区の三ノ輪橋停留所から東京都新宿区の早稲田停留所まで30の停留所を持つ路線12.2kmを走ります。愛称を「東京さくらトラム」というそうですが、あまりその名前で呼ばれていないような…。開業は1911年、東京市と呼ばれていた時代から走っている都電で、戦後も唯一残るものです。

運転間隔は早朝・深夜の時間帯でも10数分、平日の日中はおよそ6分間隔で運行されており、このあたりも首都東京の路線!という感じがしますね。最近では外国人観光客の方も多く乗っているのを見かけます。沿線には桜が綺麗な飛鳥山公園(最寄り停留所:飛鳥山)や、おばあちゃんの原宿として有名な巣鴨(最寄り停留所:庚申塚)などがあり、気候の良い時期に1日乗車券でのんびり散策するのもおすすめです。

料金は全区間一律大人ICカード168円、現金170円となっています。都電専用の1日乗車券は大人400円。大人700円の「都営まるごときっぷ」なら都営地下鉄、都営バス、日暮里・舎人ライナーにも乗車できます。このほか、都営交通やJRの都区内区間、東京メトロ全線で使える「東京フリーきっぷ」でも乗車可能となっていますのでチェックしてみてください。

●熊本市電(熊本県熊本市)

熊本市内を走る熊本市電、路線数は5本あります。ほとんどが併用軌道、つまり車と一緒に道路を走っているのです。昔ながらのレトロな車両もあれば、JR九州の豪華列車のデザインを手がけた水戸岡鋭治によるおしゃれな車両や、2024年に導入された最新の超低床車両などさまざまなものがあり、とても華やかです。熊本城をバックに繁華街を走る市電は旅情たっぷり。新緑の美しい季節の訪問をおすすめします。

料金は全線大人180円の均一料金となっていますが、独自のICカードのほかクレジットカードのタッチ決済やQRコード決済も可能です。市電1日乗車券は500円です。そのほか「わくわく1dayパス」と呼ばれる1日乗車券は3種類あり、種類によって市電全線のほか、熊電の電車・バス、熊本都市バス、九州産交バス、産交バスも利用できます。

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ここでは北海道、東京、熊本の市電をご紹介しましたが、このほかにもたくさんの市電が日本国内を走っています。2023年には栃木県宇都宮市で新たにLRT(ライトレール)が開業しました。最新のシステムを取り入れた新設路線として全国の鉄道ファンから注目を集めています。

旅先で路面電車に乗ると、時間がゆっくり流れるような感覚を味わえます。歩く人と同じ目線で街を眺めながら、その街の魅力を探す旅に欠かせない市電は、街の魅力を伝える地方都市の大きな財産といえます。

地方では車社会となり、市電も経営が厳しいなど向かい風も強く吹いていますが、将来的には、この財産を活用したまちづくりや文化の創造が望まれます。

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もっと知りたいあなたへ
函館市企業局交通部(函館市電):https://www.city.hakodate.hokkaido.jp/tram/
東京都交通局(都電荒川線):https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/
熊本市交通局(熊本市電):https://www.kotsu-kumamoto.jp/default.aspx?site=1
宇都宮ライトレール:https://www.miyarail.co.jp/