クラフトリリース
2026.7.8

「就活がこわい」に名前をつける前に~大学×就労移行支援で見えてきた、グレーゾーンへのアプローチ~

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大学で学生と関わっていると、「働くことが不安」という言葉を耳にする機会があります。
ただその不安は、「何が不安かわからないけど、なんとなく不安」と語られることも少なくありません。
こうした名前のつかない戸惑いに、大学はどう関わることができるのでしょうか。

鹿児島大学(以下、本学)ではこの3年間、就労移行支援事業所と連携し、「就活に不安がある学生のための就職準備講座」を実施してきました。全学部・全学年を対象に、診断の有無を問わず参加者を募集し、延べ120名以上の学生が参加しました。

本講座は、働くことの捉え方や自己理解、就活の進め方などを扱う講義(60〜90分)と、特性や適職について考えるワークショップ(最大3時間程度)を組み合わせて実施しました。

あえて「障害のある学生」と限定せず、「就活に不安がある学生」としたのは、いわゆるグレーゾーンの学生にも届く場にしたいと考えたためです。

名前をつけないことで届く学生たち——「就活に不安がある学生のための講座」という設計

大学の障害学生支援の現場では、「困っているが支援にはつながらない」学生が確かに存在すると感じています。
診断があるわけではない、あるいは自覚していない。しかし、環境とのミスマッチによって、就活や就労の場面でつまずきやすさを抱えている。

講座のアンケートでも、「自分は支援を受けるほどではないと思っていたが、話を聞いて不安が整理できた」という記述が見られました。制度の枠には入りきらない“引っかかり”を抱えている学生にとって、「就活に対する不安があれば参加してよい場」として開かれたこと自体に意味があったのではないかと感じています。

「働く前」に考えるということ——スキルよりも先に必要だったもの

講座では、エントリーシートや面接対策といった就活に必要なテクニックではなく、その手前の準備に焦点を当てました。

「生活と仕事」を扱った回では、「朝起きられない」「出かける前に気持ちが重くなる」といった学生の日常感覚に対し、講師からは「それを努力不足と捉えるのではなく、対策を考えることが大切」と伝えられました。「自分の癖を理解してできそうな対策を考えていくということがとても参考になった」といった感想がありました。

また、ビジネスマナーやメール作成の具体的なテンプレートを扱った講座では、「すぐに使える形で理解できた」「学生生活にも活かせそう」といった声が寄せられました。就活の流れを扱った回では、「全体像が見えてきた」「何をすればよいかがわかった」という反応もありました。

ワークショップ形式で実施した「私のトリセツ」では、「自分のマイナスな感情が生まれる場面を整理できた」「対処の流れが分かった」といった気づきがある一方、「後半まで集中力が持たなかった」といった声もあり、自己理解のプロセスそのものが負担となる側面も見られました。

【コラム】就労移行支援の現場から見えた、学生支援とのズレ
※ポイント:在学生には「自己理解」よりも「具体的な手がかり」が求められる傾向が見られた
就労移行支援では、利用者一人ひとりに対するアセスメントをもとに、生活・対人・スキルの各側面を段階的に支援します。しかし今回のような在学生向け講座では、同様の方法がそのまま有効とは限りませんでした。
自己理解ワークは重要であるものの、「特性把握」等が必要になるため講座形式では負担が大きく、途中で疲れてしまう学生も見られました。また、「自分に当てはめて考える」というような抽象的な問いよりも、「具体的にどうすればよいか」という明確な手法や情報の方が受け入れられやすい傾向も確認されました。
さらに、本来は個別支援と継続的な関わりの中で機能する支援が、単発の講座では十分に活かしきれないという限界も見えてきました。

鹿児島大学で行なった講義・ワークショップの模様の画像

手応えと違和感のあいだで——学生の反応が教えてくれたこと

実践は、常に手応えと迷いの繰り返しでした。

講座によって学生が得るものの種類は大きく異なりました。

具体的なテンプレートや手順を得て安心する学生もいれば、就活の流れを理解して見通しを持つ学生、行動のきっかけを得る学生、あるいは自分の特性や考え方を見直す機会として受け止める学生もいました。

また、講座後の感想には「キャリアセンターに相談してみようと思った」「インターンシップに参加してみようと思えた」といった記述も見られ、不安が完全に解消されるわけではなくても、「次に何をすればよいか」が見えることで、一歩踏み出しやすくなる様子もうかがえました。

一方で、「内容が重く感じた」「集中力が続かなかった」「既に知っている内容が多かった」「求めていた内容と少し違った」といった声もあり、学生の準備段階や関心によって、講座の適合度に差が生じることも見えてきました。

同じ講座でも、受け取り方は違う——アンケートに表れた多様性

アンケートからは、
・具体的な方法を得て安心する学生
・全体像を理解して見通しを持つ学生
・行動に移ろうとする学生
・自己理解を深める学生
・負担や違和感を抱く学生

など、多様な受け止め方が見られました。

このばらつきそのものが、学生の特性や状態の多様さを示しているともいえます。ニューロダイバーシティの観点からも、「1つの方法で全員に届く支援はない」という前提を改めて意識する契機となりました。

「一度聞いて終わり」にしない——継続的な関わりの必要性

講座後には、「もう少し聞きたかった」「自分の場合はどう考えればよいか知りたい」といった声もありました。

単発の講座では、理解の深まりにも個人差があり、すべてをその場で消化することは難しい面もあります。

「参加できる入口」と「継続的に関われる場」の両方が必要であることを強く感じています。

これからの試み——「就活ゼミ」という新たな場へ

こうした経験を踏まえ、今年度からは「就活ゼミ」のような継続的な場づくりを検討しています。

講座で得た気づきをそのままにせず、学生同士や支援者との対話の中で深めていく。

就労移行支援事業所のスタッフにもアドバイザーとして関わっていただき、学生と直接対話しながらニーズをすくい上げ、支援の内容を柔軟に調整していく。そうした関係性の中で、より実態に即した支援が可能になるのではないかと期待しています。

小さな一歩をどう支えるか——大学と支援機関のこれから

講座の中で、「何が不安かわからない」「何から始めたらいいのか」と話していた学生が、後日「とりあえず説明会に申し込んでみました」と報告に来てくれたことがありました。
不安が完全に消えるわけではなくても、「次に何をすればよいか」が見えたときに、学生は動き出せるのかもしれません。その一歩には確かな意味があるように思います。

これからも、名前をつける前の、つまり「何が不安なのか自分でもはっきりしないまま抱えている戸惑い」に寄り添いながら、学生が自分なりの一歩を踏み出せる場を模索していきたいと思います。

※本取り組みは、就労移行支援事業所と連携して実施しました。ご協力いただいた皆さまに、心より感謝いたします。

イラスト

ライター:川添 茜

鹿児島大学 障害学生支援センター(修学支援室)
特任助教
臨床心理士・公認心理師

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