2025.5.26

畳縁の常識を覆した、備中の織物メーカー〜髙田織物株式会社〜

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うえだなおこの『地域のキラリ光る逸品シリーズ』。今回はこちら。

畳縁。日本家屋に欠かせない伝統的な和室の部材であるこの素材が、今、ファッションや雑貨の世界で新たな命を得ている。その立役者こそ、岡山県倉敷市に本社を置く、「髙田織物株式会社」である。

創業以来、畳縁の製造を一筋に手がけ、国内トップシェアを誇る老舗メーカーでありながら、現代の感性に寄り添った商品開発によって、伝統素材の可能性を大きく広げている。

髙田織物株式会社社屋の画像

畳縁トップメーカーとしての歩み

1892年(明治25)、瀬戸内の倉敷市児島地域で創業した「髙田織物」。戦後の畳需要の高まりとともに、畳縁の専門製造に特化し、昭和・平成を通じて着実にシェアを伸ばしてきた。1950年には社名を「髙田織物株式会社」に改め、品質と供給力を武器に全国の畳業界を支える存在へと成長。

現在では、およそ1,000種類以上のデザインを手がけ、畳縁の業界では名実ともにリーディングカンパニーとして知られている。

畳の敷かれた和室の画像

畳縁の可能性を広げた「ファクトリーショップ」プロジェクト

2014年、髙田織物は畳縁の新たな用途を探るべく、畳縁ファクトリーショップ「FLAT」をオープン。

きっかけは、地域の人々の畳縁の活用。それぞれの生活ニーズから、創意工夫により畳縁が素敵なファッション雑貨に活用されていたのだ。

ファクトリーショップFLAT店内に畳縁がたくさん並ぶ画像

畳縁の特長である「軽くて丈夫」「しわになりにくい」「色柄が豊富」といった機能性は、雑貨においても大きな利点となり、特に小物入れ・小銭入れは累計10万個以上の販売実績を誇る人気アイテムとなった。

同時に、髙田織物は「畳縁=古くさい」というイメージを払拭すべく、現代のライフスタイルに合うモダンなデザインやコラボ商品を次々と開発。FLATブランドは、畳縁に新しい命を吹き込む象徴的な存在となっている。

畳縁をめぐる異業種連携とデザイン力

持ち手に畳縁を使ったバッグの画像

FLAT製品の特徴は、単なる「和風雑貨」にとどまらないこと。北欧風の幾何学模様やポップなカラーバリエーションなど、既成概念を打ち破るデザイン性が多くのユーザーを惹きつけている。こうした取り組みは、国内外のデザイナーやブランドとのコラボレーションにもつながり、畳縁の用途と認知を広げている。

たとえば、ファッションブランドとのコラボバッグ、クリエイターとのオリジナルポーチ、さらにはアニメ・キャラクターとのライセンス商品など、畳縁は今や「素材」として新たなステージへと進化中だ。

また、岡山県内の地域産業とも連携し、真田紐や倉敷帆布、デニムといったほかの地場素材とのコラボも積極的に展開。髙田織物の畳縁は、「伝統と創造の交差点」で、多彩な顔を見せている。

工場見学と体験を通じて知ってもらう

畳縁の製造工場内の機械の画像

観光地・倉敷市に本社を構える髙田織物では、工場見学や畳縁クラフト体験など、一般来場者向けのプログラムも充実。製造現場を間近に見ることで、畳縁の構造や素材の違いを知ることができ、畳縁を使った体験を通じて「日本の伝統素材の新たな魅力」を発見できるよう工夫されている。

和素材の魅力を「体験価値」として伝える取り組みが評価されているのだ。

畳縁の新たな可能性にチャレンジし続ける

畳縁は古事記にも記述されているように、奈良時代から身分の高い家や寺社には別注扱いの特殊織布であったが、一般向けには普通の織布を細く裁断したものが使われていた。

現在のような厚みのあるものに進展する前に、表に端(へり)をつけたものを畳とする段階が奈良時代にあり、のちに畳床が加わって今の細幅織物になった。

畳縁が織り上がる様子の画像

さらに時代の変化とともに、発色が良くより強度のあるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどの合成繊維を使い、軽量で強度があり、摩耗しにくいという特性が付加されていった。

髙田織物では、畳縁の国内一貫生産による品質管理のもと、日常使いできる雑貨として活用の可能性を広げるものづくりに取り組んでいる。

また、現代のライフスタイルに合うプロダクト展開を通じて、使い捨てではなく「長く使える日用品」としての畳縁の価値を再提案。伝統的な素材でありながら、生活に寄り添う新しいアイテムとして注目を集めている。洋風化する生活様式の中で、髙田織物の新たな畳縁の価値づくりへのチャレンジはさらに続きそうだ。

畳縁の伝統を未来へ

筆者が初めて畳縁小銭入れを手にしたのは、ある取引先の展示会での来場粗品だった。
「これ、畳の縁(へり)の小銭入れです」と言われて驚いたのを覚えている。柄がとても魅力的でその時は鶴と亀の吉祥柄を選び、神社参拝の賽銭入れとしていまだに愛用している。

髙田織物のものづくりには、「伝統を守る」だけではない、「伝統を進化させる」という力強さがある。畳文化が年々家庭から姿を消す中、それでも畳縁という素材が新たな使い道を得て、生活の中に息づいていることは、ひとつの希望にすら感じられる。

布には、時代を越えて人と暮らしをつなぐ力がある。畳縁はその象徴であり、髙田織物はその未来を紡ぎ続ける存在なのだ。

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もっと知りたいあなたへ

髙田織物株式会社
https://ohmiyaberi.co.jp/
FLAT
https://flat-kojimaberi.com/

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