2025.7.22

青森の夏を華麗に彩る「ねぶた祭り」が支える、地域活性化と持続可能な未来

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青森ねぶた祭りは、毎年8月2日から7日までの6日間、青森市内で開催され、毎年200万人もの人が訪れる、国の重要無形民族文化財に指定された勇壮な祭りである。祭りのクライマックスには、市内の目抜き通りをパレードする巨大なねぶた(灯籠)をひとめでも見ようと多くの人が駆けつける。

この祭りの主役であるねぶたは高さ約5メートル、幅約9メートル、重さ約4トンにも及ぶ。歴史的な武将や神話の登場人物などをモチーフに、ストーリーを立体的に表現している。夜には内部から多くの電球で照らされ、描かれている題材が美しく浮かび上がり、その華やかさをさらに堪能できる。

ねぶた祭りの起源には諸説あり、現在最も広く知られているのは「七夕起源説」といわれるもので、七夕行事の「眠り流し」と仏教に由来する「灯籠流し」が融合して発展したという説だ。悪霊や災厄を追い払うために灯籠を灯していたことから始まったとされる。「ねぶた・ねぷた」という語は、民俗語彙分布と方言学から「眠り」が転じたものだと考えられるそうだ。

現在では、青森市の文化的なシンボルとして、地域住民と観光客が一体となって楽しんでいる。また、ねぶた祭りは東北三大祭りの一つでもあり、全国的に見ても有名でスケールも大きく、日本を代表する祭りだといえる。

ねぶたとねぷたの違いとは

青森県には「ねぶた」と「ねぷた」という二つの祭りがあるが、それぞれの呼び名には異なる特徴が存在する。基本的には、ねぶたは青森市で行われる祭りを指し、ねぷたは弘前市や五所川原市などの別の地域で行われる祭りを指す。

この地域ごとの違いは、使用される灯籠の形態にある。青森市のねぶたは、通常、立体的で人物や動物を模した巨大な灯籠(人形ねぶた)が特徴的だ。多くの人が「ねぶた」と聞いて頭に思い浮かべるのはこちらのスタイルだろう。

弘前のねぷた祭り扇ねぷたの画像

これに対し、弘前のねぷたは、灯籠が平面的で扇の形であることが多く、絵巻や武士の姿を描いたものが一般的である(扇ねぷた)。

さらに、祭りの参加スタイルにも明確な違いがある。ねぶた祭りでは「跳人(ハネト)」と呼ばれる踊り手が参加し、「ラッセラーラッセラー」という掛け声とともに祭りの熱気を一層盛り上げるのに対して、ねぷた祭りでは、踊り手がほとんどいないか、いても控えめであるという違いがある。

加えて、祭りが持つ風情や進行の仕方にも違いがあり、これがそれぞれの祭りの個性を作り出している。
青森のねぶた祭りは、よりダイナミックで勇壮、ハネトの活気が祭りを盛り上げ、観光客を巻き込んだ参加型ともいえるものだが、弘前のねぷた祭りは、伝統的でしっとりと落ち着いた雰囲気を保ち、地域密着型の祭りとなっている印象を受ける。

このほかに、青森県内には「ねぷた」がいくつか存在する。
黒石市のねぷた祭り、平川市のねぷた祭りだ。ねぷた、ということで弘前の祭りに近いものだが、黒石では人形ねぶたと扇ねぷたを同時に見られるという面白さがある。平川のものは、弘前の流れを汲みつつも、水墨画のようなモノトーンを基調にしていてシックな装いだ。

同じ青森県内でも、「ねぶた」と「ねぷた」でこれだけの違いがあり、逆に共通するものもある。それぞれを比べてみるのも面白いに違いない。

ねぶたの賞と個性を競う制作者「ねぶた師」たち

ねぶたの内部骨組みと照明の画像

青森市のねぶた祭りには、毎年優れたねぶたを表彰するための「ねぶた賞」が存在する。この賞は、ねぶたの美しさや創造性を評価するもので、「ねぶた師」と呼ばれる製作者たちにとって名誉な賞である。最も注目されるのは最高賞にあたる「ねぶた大賞」である。この賞は、かつては「田村麿賞」と呼ばれており、ねぶた本体の点数に加え、ハネトや囃子の点数などを加算して順位が決まる。

また、青森には名だたる「ねぶた師」が存在する。各時代に優れた功績を残した師には名人位が贈られているが、初代北川金三郎から、2023年(令和5年)に第7代に選出された竹浪比呂央まで7人の名人がいる。彼らの作品は、単なる灯籠にとどまらず、アートとしての価値を持ち、青森の地域文化を世界に広める役割を果たしてきた。

最近では、若手の制作者も注目を集めている。例えば、2012年に初の女性ねぶた師となり、昨年2024年のねぶた大賞を受賞した北村麻子や、2011年にデビューし2017年に優秀制作者賞を初めて獲った北川春一、現役自衛官でありながら2024年にデビューを果たした小財龍玄、そのほかにも多くの若手がねぶた師として活躍している。

ねぶた祭りは青森の地域活性化へどのように貢献しているか

ねぶた祭りは、青森市の経済や地域活性化において重要な役割を果たしている。例えば、2023年の青森ねぶた祭りでは、観光客数が約100万人を記録した。2024年は3万人減の98万人となったものの、祭り関連の経済波及効果はおよそ306億円に達したとされ※、これは例えば仙台の七夕祭り(195億円)など他の東北地方の祭りと比べても圧倒的な数値になっている。地域経済の活性化に寄与しているといえるだろう。

また、ねぶた祭りは地域住民の誇りやコミュニティの絆を強化する場でもある。多くの地元の人々がボランティアとして参加し、ねぶた制作や山車の運行を支えている。地域の子どもたちも祭りの準備に参加し、地域の伝統を学ぶ機会を得ることができる。これにより、青森市は地域文化を保存しつつ、未来の世代に伝統を引き継げるのだ。

津軽こぎん刺しの模様が入った布製コースターの画像

さらに、ねぶた祭りは、地元のアーティストや工芸品制作者にとっても活躍の舞台を提供しているともいえるのではないか。祭りを通じて地域の特産品や工芸品が紹介され、観光客に青森の魅力を伝えることができる。これにより、青森の地域産業が全体的に発展・底上げされ、地方創生を後押しする動きとなる。

※七十七リサーチ&コンサルティング調べ

ねぶた祭り、未来への展望

青森ねぶた祭りは、今後もその規模や魅力を広げていくことが期待されている。デジタル技術の活用が一つのキーとなるかもしれない。近年、スマートフォンアプリやVR技術を駆使した観光体験が注目されており、これらを祭りに取り入れることで、さらに多くの人々が祭りを楽しむことができるようになる。

また、未来のことを考えれば、環境への配慮が求められる中、ねぶた祭りも持続可能な祭りとして進化していく必要がある。ねぶたの制作に使用する材料や運営におけるエネルギー消費の削減を図り、エコでサステナブルな祭りとしてのイメージを確立することも重要となろう。

ふるさと納税返礼品のイメージ画像

地域活性化の観点からも、ねぶた祭りには大きな期待がかかる。青森市は、2025年、「ねぶたの曳き手」の権利をふるさと納税の返礼品にする試みを始めた。ハネトは観覧者も参加することができるが、「曳き手」には、原則として関係者だけしかなれないため、この特別な体験を返礼品として提供することで価値を見出してもらえるのではという考えからだそうだ。

このような新しい視点からの動きに加え、多くの企業や自治体との連携を強化し、祭りの開催地だけでなく他の観光地や地域の魅力も一緒に発信することで、インバウンドを含め、より多くの観光客を引き寄せることができるだろう。

青森ねぶた祭りは単なる夏祭りにとどまらず、青森の地域文化を象徴する重要なものであり、地域活性化や未来への可能性を大いに秘めている。今後も多くの人々に愛され、青森をより一層魅力的な場所へと導くに違いない。

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もっと知りたいあなたへ

青森ねぶた祭オフィシャルサイト
https://www.nebuta.jp/
青森県弘前市観光サイト「弘前Navi」
https://hirosaki-navi.jp/

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