実は奥が深い!夏の風物詩 山形県鶴岡市の「だだちゃ豆」の魅力とは

夏はキンキンに冷えたビール!という方はとても多くいることでしょう。かくいう私もその一人。
そんなビール党のおともといえば、真っ先に思い浮かぶのは枝豆ではないでしょうか。枝豆の中でも「山形のだだちゃ豆」と聞くと格別な存在に感じてしまうのは私だけではないはず。
濃厚な甘みと香ばしさを持つこの在来枝豆(その土地固有で改良されていない品種)は、夏の食卓を彩る逸品です。今回はその由来や風味の特徴、品種ごとの違い、鶴岡ならではの食文化について詳しく解説し、おいしさの秘密を紐解いていきます。
枝豆の王様

だだちゃ豆は山形県鶴岡市で栽培される在来種の枝豆で、香りがよく、噛めば噛むほどに増す甘みが最大の特徴です。
ひとつひとつのサヤは一般的な枝豆と比べてやや小ぶりで、茶色っぽいうぶ毛に包まれた野生味あふれる見た目が、味への期待を高めます。
茹でてみると印象が一変し、立ちのぼる蒸気にはエレガントさを感じます。まるでとうもろこしを思わせる甘い香りが混じり、鍋の上で深呼吸したくなるほどです。口にするとその香りや甘みの違いは歴然!噛むほどに味わいが深くなり、余韻のある香りがふんわりと残ります。一口でファンになる人も多く、「日本一おいしい枝豆」や「枝豆の王様」などと呼ばれるほどの人気があります。ビールや冷酒が進むのも、無理はありませんね。
山形県鶴岡市でしか育たない繊細な茶豆
こんなにおいしいだだちゃ豆ですが、なかなか市場に広く出回るものではありません。それもそのはず、だだちゃ豆はなんと山形県鶴岡市の一部地域でしか栽培されていないのです。

だだちゃ豆発祥の地である山形県鶴岡市白山(しらやま)地区は、痩せた砂地で、その土壌にはマメ科の生長に欠かせない根粒菌がふんだんに含まれています。さらに近くを流れる湯尻川(ゆじりがわ)の朝靄が豆の葉を包み込むことで、おいしさが増すのだそうです。水はけのよい土壌、寒暖差、霧の出やすい気候…このような生育環境がデリケートなだだちゃ豆の種の特性とぴったり合い、唯一無二の茶豆が生まれました。
ほかの地域に種を植えても、上手く育たなかったり風味が落ちてしまったりすることから、山形県鶴岡市の限られた農家が大切にその土壌と味を守り続けて今に至る、というわけです。
今では冷凍技術や流通網の発達で全国でも知られるようになりましたが、それでも生産量は少なく、特別な存在であることに変わりありません。「鶴岡市内で育ったものだけ」がだだちゃ豆を名乗れるよう、厳しい基準で守られています。
「だだ茶豆」ではありません、「だだちゃ豆」です!
そもそも、枝豆は大豆だということをご存じですか?
大豆が完熟する前の緑色の状態で収穫して食べるのが枝豆です。
そして、完熟した大豆の皮の色により「白毛豆(別名:青豆)」「茶豆」「黒豆」の大きく3系統に分けられ、だだちゃ豆は「茶豆」に分類されています。
そのため、「だだ茶豆」だと思っている方も多いようですが、これは間違い。
山形県庄内地方の古い方言で「お父さん」を意味する「だだちゃ」から来ているので「だだちゃ豆」と書くのです。
その昔、献上された枝豆に対して殿様が「この枝豆は、どごのだだちゃの作った豆だや?」と尋ねたことから「だだちゃ豆」と呼ぶようになったという説や、家長である「だだちゃ」にまず最初に食べてもらうということからだ、という説などがあるようですが、どちらにせよ「だだちゃ=お父さん」に由来するようです。
お父さんが「だだちゃ」なら、お母さんは「かがちゃ」。かがちゃたちが話す「このだだちゃ、どごねのだだのだだちゃだや(このだだちゃ豆は、どの家のお父さんが作っただだちゃ豆かしら)」という言葉。土地や言葉になじみがないと、この話題は人間のことか豆のことか判別できないという笑い話にもなっています。
「だだちゃ豆」という名前には、地元の暮らしと言葉、そして親しみがそのまま込められているのです。
8月8日はだだちゃ豆の日
豆なだけに豆知識を一つ。山形県鶴岡市では8月8日を「だだちゃ豆の日」と定めています。
これはだだちゃ豆の名前の由来である「お父さん」にちなんで8月8日が「パパ」と読めること、サヤの形が数字の「8」に似ていること、また8月が旬であることなどから制定されました。
8月8日には鶴岡市内で様々なイベントが開催されるとのこと。枝豆好きとしてはぜひ一度行ってみたいものです。
だだちゃ豆の旬を知って時期ごとに楽しもう

だだちゃ豆の収穫は7月下旬から9月頃ということで、限られた時期にしかお目にかかれません。そして、収穫時期によって「極早生(ごくわせ)」「早生(わせ)」「本豆(ほんまめ)」「晩生(ばんせい)」とさらに種類が細分化されており、それぞれに特徴も異なります。
〈7月下旬~収穫〉 極早生(ごくわせ)
初物ながら茹でると立ち上る独特の香り、噛むほどに広がる爽やかな甘みが特徴。夏の訪れを感じるためにも、まずは極早生から、という人も多い。品種は「小真木(こまぎ)」など。
〈8月上旬~中旬収穫〉 早生(わせ)
8月中旬~下旬に収穫される最盛期のだだちゃ豆(=本豆)の中から早く収穫されただだちゃ豆を選別してまた翌年に植え、また早く収穫されたものを選別して…と繰り返すことで生まれた品種。お盆の時期に食べられるとあって根強い人気がある。品種は「早生甘露」、「早生白山」など。
〈8月中旬~下旬収穫〉 本豆(ほんまめ)
香りがよく、シーズンを通して収穫量が最も多い。最旬の時期に収穫されるのが本豆で、だだちゃ豆本来の深い味わいを楽しみたい方には最もおすすめ。品種は「白山」。
〈9月初旬~中旬収穫〉 晩生(ばんせい)
本豆よりも緑色が濃く、サヤは大ぶりでふっくら。香りは弱めだが、早生・本豆を凌ぐほどの甘さが特徴でだだちゃ豆ファンを唸らせる味わいが人気。品種は「平田」や「おうら」など。
地元では「誰のだだちゃ(豆)が一番うまいか」「どの時期のだだちゃが好みか」といった話題が夏の恒例行事のように持ち上がります。7月下旬から9月上旬までさまざまな系統が楽しめますが、最も味が濃くなると評判なのが、旧盆前後の約2週間。この期間に収穫された豆は「甘み・香り・旨み」の三拍子がそろい、まさに旬の味わいです。
だだちゃ豆を今年の夏のごちそうに

だだちゃ豆の魅力を最大限に味わうには、茹で方にもこだわりたいところです。
沸騰した湯に塩を加え、短時間で一気に火を通しましょう。その後は冷水ではなく風に当てて自然に冷ますのが鶴岡流。こうすることで香りと甘みを逃さず、ふっくらとした食感に仕上がります。
北国の短い夏に、ほんのひとときだけ現れる特別な味。今年の夏、もしどこかで「だだちゃ豆」と書かれた袋を見つけたなら、ぜひご自宅でも季節の味わいを楽しんでみてください。鶴岡の恵み「だだちゃ豆」が、食卓に夏の風を運んでくれることでしょう。
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もっと知りたいあなたへ
JA鶴岡「だだちゃ豆データブック」
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