注目される空港ツーリズム〜地域が誇る魅力にあふれた空の玄関口〜

空港といえば、移動の拠点としての役割がまず思い浮かぶものです。しかし近年、地方空港のなかには、単なる通過点ではなく、その土地の文化や特産、歴史を感じられる「観光地の一部」として注目される空港が増えています。
リニューアルによって来訪者数が増加した空港、ユニークなテーマを掲げて地域の魅力を発信する空港、空港そのものを目的に訪れる人がいる空港など、個性的な取り組みが各地で進められており、いわゆる空港ツーリズムと呼ばれる動きが広がっています。
そうした地方空港の中から、特色ある4つの空港をピックアップ、それぞれの魅力をご紹介します。
国内最大級の「エンタメ型空港」新千歳空港(北海道・千歳市/苫小牧市)

北海道の玄関口として知られる新千歳空港は、北海道らしい魅力を凝縮した施設として、道内外から高い評価を得ています。2020年代に入ってからも国内線ターミナルビルの機能強化が進められ、ますます快適な空港として進化しています。
特筆すべきは、空港内に温泉やテーマパークなどの施設があることです。空港で1日遊べるといっても良い施設の充実ぶりが新千歳空港の自慢だといえるでしょう。主なものをご紹介します。
新千歳空港温泉
天然温泉に入れる空港は全国でも珍しく、到着後のリフレッシュや出発前のひとときをリラックスして過ごす場として人気を集めています。宿泊も可能なので、朝早い便の出発の際などにはとても便利そうです。宿泊の方や深夜利用(料金区分があります)の方は、朝食が食べられるのもうれしいですね。宿泊者は併設のエアターミナルホテルの朝食ビュッフェも利用できるそう。一度は泊まってみるのも面白そうです。
ロイズ チョコレートワールド
北海道の銘菓・ロイズのチョコレートを知らない人はあまりいないのではないでしょうか。この場所では、国内初の空港内にあるチョコレート工場をガラス越しに見学できます。最新の機械が作り出すチョコレートや、人の繊細な手作業がおいしいチョコレートを作り上げるのを無料で見られるのは、お子さんのみならず大人にとってもワクワクする体験です。
チョコレートの原料「カカオの木」のジオラマを見たり、チョコレートができるまでの工程や、世界のチョコレートについても学ぶことができます。
見学の後は、チョコレートを使った焼きたてのパンやお土産にぴったりの限定チョコレートなどをショップで選ぶのも楽しいですね。ついつい買いすぎてしまいそうです。
ハローキティのハッピーフライト
キャラクター界の中でも不動の人気を誇る「ハローキティ」。キャビンアテンダントになったキティちゃんと、世界中のサンリオキャラクターに会いに行こうというコンセプトのテーマパークが空港内にあるのです。
世界旅行を体験するという形で、ヨーロピアンプラザ、アメリカンフィールド、アジアンストリートなど、ゾーンごとに異なる雰囲気のフォトスポットで旅気分を満喫。カフェではオリジナルメニューを味わえるほか、ショップでは限定商品も販売しているので、キャラクターファンにはたまらないスポットになっています。
その他のスポット

さらに、「北海道ラーメン道場」「新千歳空港だけで買える特別なお土産」など、北海道各地のグルメを集めた飲食店街や土産店も充実しており、空港という枠を超えて「北海道観光のショーケース」としての役割を果たしている新千歳空港、北海道の玄関口として押さえておきたいスポットですね。
話題を呼ぶ「ご当地ブランディング空港」出雲縁結び空港(島根県・出雲市)

島根県出雲市にある出雲空港は、愛称「出雲縁結び空港」としても知られています。神話と縁のまち・出雲らしさを前面に打ち出したブランディングで注目を集めており、2011年にこの愛称が採用されて以降、空港自体が「縁結びスポット」として楽しめるように進化してきており、ターミナル内は、「縁結び」をテーマにした展示や装飾が施されています。
空港特製絵馬
空港2階出発ロビーの一角に、木製の絵馬掛けが設られている場所があります。まるで神社の境内のようですが、こちらでは絵馬(有料、2025年6月現在1枚税込600円)に願い事を書いて、この絵馬掛けに掛けておくと、一定期間の後、空港近くの八重垣神社へ奉納してくれるというもの。
縁結びといえば、出雲大社だけでなく八重垣神社も実は有名な神社なのです。こちらに責任を持って納めてくださるとのことなので、あえて空港で願掛けをしてみるのも良いかもしれませんね。もちろん旅の記念として絵馬を持ち帰ることもできますが、やっぱりここは空港内に掛けてみたいところです。
出雲大社の宇豆柱(うづばしら)の装飾
空港の3階フロアには、出雲大社の宇豆柱をモチーフにした装飾がされています。2000年〜2001年にかけて、出雲大社境内遺跡からスギの大木3本を1組にし、直径が約3mにもなる巨大な柱が3カ所で発見されました。これは、そのうちの棟をささえる柱で、調査の結果、鎌倉時代前半に造営された本殿を支えていた柱の可能性が高いとされるものなのだとか。これを空港の装飾に据えるあたり、まさに縁結び空港ですね。
フライトシミュレーターやグルメも楽しめる
空港を楽しもうという人は、飛行機好きも多いことでしょう。見るだけでなく飛ばしてみたいという気持ちを持つ人もいるのではないでしょうか。そんな方には、フライトシミュレーター(有料:1回200円)をお勧めします。初級から上級まで、出雲空港周辺や松江市上空のフライトコースなどを楽しむことができますよ。

そして、忘れてはいけないのがおいしいもの。レストランでは、地元の出雲そばや宍道湖のしじみ汁など、地域色豊かなグルメもしっかり楽しめます。
ご紹介したように、空港を通じて島根県の文化や伝統が感じられる演出が随所に見られる出雲空港は、「縁結び」という観光地としてのブランド価値を空港の名前にまで拡張した好例といえるでしょう。
「坂本龍馬」を冠した空港名で歴史と郷土を発信する高知空港(高知県・南国市)

高知県南国市にある高知空港は、2010年に「高知龍馬空港」という愛称が付けられました。幕末の偉人、坂本龍馬の生誕地として知られる高知ならではの名称であり、空港到着時から高知の歴史と文化への期待が高まるネーミングですね。
龍馬の銅像
1階の到着ロビーには、龍馬像があります。「高知龍馬空港」と書かれた柱に寄りかかるように立つ龍馬像は、イベントごとに花で装飾されるなどの演出があり、龍馬の頭に花輪が被せられていたりしてなかなかにシュールな感じなのですが、フォトスポットとして人気を集めています。
カツオのたたきがあそこに?
高知龍馬空港の手荷物受け取りターンテーブルでは、なんと、名物の「カツオのたたき」のオブジェが流れているのです。実寸の約50倍もの巨大なたたきを乗せたお皿が、乗客の手荷物の間に紛れてクルクルと回っている、これもまたシュールな光景ですね。このほかにもトロ箱に入ったカツオや、大皿に綺麗に盛り付けられたカツオのたたきのオブジェなど、これでもか!のカツオ推しが楽しめるので「映える」写真を撮りに行ってみては。
お遍路さん着替えコーナーなどの四国らしさも
四国はお遍路さんでも有名ですが、この空港には「お遍路さん着替えコーナー」が設置されています。化粧室の一部といった形ではなく、独立したコーナーとして存在するのは珍しいのではないでしょうか。

そのほか、飲食店や売店では、カツオのたたき(本物!)や地酒といった高知の食文化を気軽に味わうことができます。
地域の歴史的アイコン=坂本龍馬を前面に打ち出すことで、空港そのものが観光と郷土愛の発信基地としての役割を果たしているのが高知龍馬空港なのです。
「きときと」の名前に込められた地元の誇り富山空港(富山県・富山市)

富山空港は、2013年に「富山きときと空港」という愛称が公募によって決定されました。「きときと」は富山の方言で「新鮮」「生き生きとした」という意味を持ち、地元の食や自然、活力を象徴する言葉として誰もが知っています。
立山連峰の大パノラマを背景に
空港4階は、日本で唯一、河川敷に滑走路が設置された富山空港の離発着を見られる展望デッキになっています。地方空港ならではの魅力、「飛行機を間近で見られる」というのも嬉しいポイントです。
ここは、日本で一番長いボーディングブリッジ(空港ターミナルと航空機をつなぐ可動式通路)でも有名だそうで、確かに眺めてみると結構長い、いや、かなり長い。つまりターミナルビルから川をまたぐようにボーディングブリッジをたくさん歩くということですから、ちょっと疲れそうではありますね。
天気が良い日には立山連峰の大パノラマを一望することもでき、空港で県下の有名な景色を楽しめるという穴場スポットでもあります。
コンパクトながらお土産もグルメも充実の便利空港

空港内は、富山湾の海産物を使った土産物やます寿司、富山ガラス工芸など、富山の魅力がわかりやすくコンパクトに詰まった布陣となっています。富山のご当地グルメといえば「寿司」と「ブラックラーメン」ですが、空港内にはこれらが一度に味わえる便利なお店もあります。
富山きときと空港は、JR富山駅からバス20分、北陸自動車道富山ICから5分と、市街地からのアクセスも良好で、利便性の高さも魅力のひとつなのです。
空港は「地域のショーケース」へ
今回ご紹介した空港に共通しているのは、「地域の顔」「入口」としての空港づくりを意識している点です。単なる移動の手段を提供する、通過する場にとどまらず、到着した瞬間からその土地の文化や人の温かみを感じられる空間にすることで、空港そのものが旅の思い出に残る場所となるような工夫が凝らされています。
リニューアルや愛称の導入、地域コンテンツの発信といった施策によって、空港は地方創生の重要なプレイヤーとして活用できる可能性がこれまで以上に見えてきました。これからの地方空港は、より個性豊かに、より開かれた「私たちのまち」の玄関口として進化していくことが期待されます。
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もっと知りたいあなたへ
新千歳空港
https://www.hokkaido-airports.com/ja/new-chitose/
出雲縁結び空港
https://www.izumo-airport.co.jp/
高知龍馬空港
https://www.kochiap.co.jp/
富山きときと空港
https://www.toyama-airport.jp/