「筋緊張」と「筋力」は別のもの
発達障害のある方の中には、「疲れやすい」「長時間座っているのがつらい」「姿勢がくずれる」といった感覚を持つ方がいます。そうした背景を考える時に、1つの視点として生まれもった「筋緊張」の特徴が関係している場合があります。
ここで大事なのは、「筋緊張が低い=筋力が弱い」という単純な話ではない、ということです。
筋緊張とは、簡単にいうと「筋肉の張り具合」のことです。筋肉をゴムに例えるなら、筋緊張が低い状態は柔らかいゴム、筋緊張が高い状態は硬めのゴムのようなイメージです。
一方で、筋力は「筋肉で生み出す力」のことです。筋肉の張り具合と、力の強さは別のものです。筋緊張が低くても筋力がしっかりある人もいますし、逆に筋緊張が高いからといって筋力が強いわけではありません。
また、生まれ持った筋緊張の低さや高さは体全体で同じというわけでもありません。
体幹、肩周り、下半身など、部位によって特徴が違いますし、「筋緊張が低い=筋力が弱い=筋緊張が低いのは悪いこと」というのは誤解です。
また、「筋緊張が低めで身体が柔らかい」といっても、ある部分はとても柔らかい一方で、別の部分はかなり硬い、ということもよくあります。
特に、一部の関節が柔らかすぎたり硬すぎたりすると、本来いろいろな関節で分散できるはずだった動きや負担が、一部の「動きやすい関節」ばかりに集中しやすくなります。
本来はもっと色々な動き方ができるはずなのに、使いやすい部位ばかりを使い続けることで、動きのバリエーションが減ってしまうこともあります。それが疲れやすさや回復しづらさにつながることもあります。
そのため、疲れやすさを考える時には、筋力不足に対する筋トレだけでなく、ストレッチなどを通して、いろいろな関節が動きやすい状態を作っていくことも大切です。
「だらけている」のではなく、体を支える工夫かもしれない
例えば、
「座っていると背中がすぐ疲れる」
「ただ立っているだけでしんどい」
「姿勢を意識すると集中できない」
そんなことの一つの要因として、筋緊張や筋力の特徴が関係していることがあります。
もし、そもそも生まれ持った特徴として姿勢の保持が大変な人の場合、自分でもなんとかしたいと思っていてもどうにもならない、という状況なのかもしれません。
例えば、椅子に座る時に、無意識に机へ肘をつきたくなる人がいます。
足を組む、頬杖をつく、壁にもたれかかる、寝転がりたくなる。こうした行動は、「だらけている」のではなく、筋力を補って自分の体を安定させるための工夫になっている場合があります。

「良い姿勢」と「勉強」は同時に頑張らなくてもいい
学校や職場では、「姿勢を正しましょう」「まっすぐ座りましょう」といわれることがよくあります。
場面によっては姿勢を良くすることが大事になる時もあると思います。ただ、その姿勢を維持すること自体が大きな負荷になる人もいます。
そして、「良い姿勢で勉強する」「姿勢を正して話を聞く」というのは、かなり高度な「2つの同時作業」です。
姿勢を保つことにもエネルギーを使います。姿勢保持だけで疲れてしまい、勉強や会話の方に力が回らなくなる人もいます。
例えば、「授業中に集中できない」という時、本当に困っているのは「学習内容の理解」ではなく、「姿勢保持の疲労」かもしれません。逆にいえば、姿勢の負担が減るだけで、集中しやすくなる人もいます。
もし、「ちゃんと座ること」で疲れ切ってしまうなら、まずは「楽な姿勢」を作ることを優先しても良いのではないでしょうか。
「楽にできる環境」を作ってみる
例えば、フルリクライニングの椅子で頭までしっかり支えられる姿勢が楽なら、その姿勢でパソコン等が使えるよう工夫する。膝の上にクッションや簡易テーブルを置く。
モニターをフレキシブルアームで動かしやすくする。本よりタブレットの方が楽ならデジタル化する。
「どうやって正しく座るか」ではなく、「自分がやりたいことを、どうすれば楽に続けられるか」という視点で環境を考えてみることは、とても大切だと思います。
これは、自分のエネルギーを、本当にやりたいことに使うための工夫です。

本当にやりたいこと・やるべきことは?
姿勢を良くすることに体力を使い切ってしまえば、勉強する力、話を聞く力、考える力が残らなくなってしまうかもしれません。それなら、姿勢保持を環境に助けてもらって、その分の力を学習や仕事に回した方が、その人の力を発揮しやすい場合もあります。
「こうするべき」「こうしなくちゃいけない」「こうした方が絶対良いに決まっている」という価値観に、自分自身が縛られていないでしょうか。
それは、人から言われ続けてきたことかもしれませんし、自分の中で「正しい」と思い込んでいることかもしれません。
「人の話を聞く時は、相手の目を見て、良い姿勢で座らなければいけない」と言われることがあります。
でも、本当に大事なのは何でしょうか。
もし根本にある目的が、「相手の話を理解したい」ということなら、「話を聞きやすい環境」を作ることの方が重要な場合もあります。
人によっては、目を閉じている方が集中しやすいかもしれません。立っている方が聞きやすい人もいます。歩きながらの方が理解しやすい人もいます。
要は、「何を頑張りたいのか」です。
その根本に目を向けてみると、「いろいろなことを同時に頑張りすぎていた」ということに気づく場合があります。
もちろん、筋力をつけることや、ストレッチ、体づくりはとても大事です。
疲れにくさにつながることもあるでしょう。ただ、それは「勉強しながら良い姿勢を保てるように同時に頑張る」のではなく、運動と勉強を切り分けて、運動の時間に集中して体づくりだけに取り組む、という考え方でも良いはずです。まずはやりたい事を思う存分やれるようにする。
そこに焦点を当てて、環境調整してみるのはどうでしょうか。
姿勢を楽にするための環境調整では、例えば、
・クッションを使う
・椅子を変える
・机の高さを調整する
・音声入力を使う
・タブレットを使う
こうした工夫もできます。
「克服」だけではなく、「力を発揮しやすくする」視点
発達障害の支援というと、「苦手を克服する」という方向で考えられることも多いですが、「どうすれば楽に力を発揮できるか」という視点も同じくらい重要なのではないかと思います。
姿勢を良くすることと、勉強することは、同時に完璧にやらなくてもいい。
もっと楽に学べる方法はないか。もっと楽に遊べる方法はないのか。
自分にはどんな選択肢があるか。
その選択肢を、1つでも多く持っておくことが、毎日の過ごしやすさにつながっていくのではないかと思います。
ライター:松清 あゆみ
東京大学・先端科学技術研究センター(社会包摂システム分野)
特任助教・博士(保健学),理学療法士