柑橘王国愛媛が生んだ「まじめなジュース」ポンジュースの秘密に迫る

皆さんは「みかんの産地」と聞くとどこを思い浮かべますか?日本で最もポピュラーな品種「温州(うんしゅう)みかん」の収穫量は、この20余年和歌山県がトップに君臨しており、僅差で愛媛県が第2位、静岡県が第3位です。確かに和歌山県の「有田みかん」はおいしくて有名ですよね。しかし、「みかんといえば愛媛県」と思う方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず、愛媛県は温州みかん以外の中晩柑品種(伊予柑、八朔、甘夏、不知火(デコポン)、せとかなど)の生産量が全国1位。生産品目数も40種以上、と2位の和歌山県を大きく引き離しています。そのため、みかんを含めた「柑橘類」というと愛媛県をイメージする人が多いのでしょう。
そして、そんな愛媛県の柑橘商品で真っ先に頭に浮かぶのは「ポンジュース」。40代以上であれば「愛媛のまじめなジュースです」という有名なコピーのCMを思い出すかもしれません。今回は、そんなポンジュースの歴史を紐解きながら、「まじめなジュース」のおいしさの秘密に迫ります。
「まじめなジュース」の誕生秘話
愛媛県松山市に本社を構える「株式会社えひめ飲料」がジュースの販売を始めたのは1952年(昭和27年)のこと。前身の「愛媛県青果販売農業協同組合連合会(略称:青果連)」の時代です。
瀬戸内海の温暖な気候と日照時間の長さ、それに海から運ばれる潮風のミネラルなど、自然条件が絶妙に組み合わさって、当時からみかんの栽培が盛んだった愛媛県。しかし国内での消費分以外はアメリカやカナダに生のまま輸出されることが多く、味は良いのに小玉ゆえに値が付きづらいため産業としては伸び悩んでいたといいます。
そんな折、「愛媛県のみかん産業を発展させたい」という使命のもと、青果連会長「桐野忠兵衛(きりのちゅうべえ)」氏は渡米してアメリカのジュース工場を見学します。そこでオレンジやグレープフルーツなどの柑橘類がどんどん缶詰や飲料になっていくところを目の当たりにし、その可能性に気付きました。この渡米で得た知見をいかし、帰国後わずか1年でジュース工場を創設し、果実加工事業に着手してジュースの販売を開始しました。
1952年(昭和27年)、初代ポンジュースの発売です。とはいってもこの時に発売されたポンジュースは、まだ果汁100%ではなく瓶に詰められた低果汁飲料。1960年代に法整備が進んで以降は果汁100%のものしか「ジュース」を名乗れなくなりましたが、当時はその規定もなかったため、低果汁飲料も「ジュース」として販売されていました。
その後も青果連は商品の開発・ブラッシュアップを続け、1969年(昭和44年)、ついに果汁100%のポンジュースを発売します。これが50年以上の長きに渡り、現代までロングセラーを続けるポンジュースが本当に誕生した瞬間です。

ちなみに、1952年に創設された三津工場、現在は松山工場と統合されてなくなってしまいましたが、その跡地の公園には今も「ポンジュース発祥の地」という石碑が立っており、GoogleMapでも表示されています。
ユニークな名前に込められた願い
全国的な知名度を誇るポンジュース。その名を付けたのは当時の愛媛県知事「久松定武(ひさまつさだたけ)」氏でした。日本一のジュースになるようにとの願いを込めて「日本(ニッポン)」のポンから名付けられました。
発売当初は「PON」というローマ字表記を使用していましたが、1953年(昭和28年)からは「POM」表記に変更。これは果樹園芸学(pomology)や文旦(pomelo)など、柑橘に縁の深い言葉が「POM」で始まることに由来しているそうです。
飲み比べたくなる!ポンジュースの仲間たち
ポンジュースは温州みかんとオレンジの果汁をブレンドした濃縮還元ジュースです。果汁100%、適度な酸味と甘みの濃厚な一品、我が家では「少し特別な時に飲むジュース」でした。
販売元であるえひめ飲料にはほかにも魅力的な商品が多数あります。濃縮還元を行わないストレート果汁シリーズの商品には、「愛媛みかん」や「愛媛ひめぽん」、「愛媛きよみ」、「愛媛河内晩柑」などがあり、どれも愛媛県産の温州みかん、不知火(しらぬい)、清見、河内晩柑の果汁100%を使用した贅沢なジュースとなっています。地元に根付く企業として、柑橘王国愛媛の誇りを感じる商品です。
今回はそんなシリーズ商品の中から、愛媛県のイメージアップキャラクター「みきゃん」を名前に冠した「POMみきゃんジュース」を飲んでみました。

さすが果汁100%、ストレート製法なので風味が良く、みかんのうまみがぎゅっと詰まっています。みかん本来の酸味と甘みがしっかりと感じられる、「本物のみかんジュース」です。濃縮還元タイプのジュースももちろんおいしいのですが、それを上回る風味。濃い味わいですが、後味はスッキリしています。
愛媛の恵みがたっぷり詰まったみきゃんジュース、パッケージもかわいらしいので、小さなお子さんがいる方にプレゼントしたら喜ばれるだろうな、などと想いを巡らせていると、あっという間に1本飲み干してしまいました。
ちなみに、東京・秋葉原にあるえひめ飲料 東京営業本部前には、全国で唯一「ポンジュース自販機」が設置されています。今回ご紹介した商品のほかにも、定番商品から季節限定商品まで、その時々の豊富な商品がラインナップされていてお手頃価格で楽しめます。見た目も楽しいポンジュース柄の自動販売機、お近くの方はぜひ足を運んでみてください。
愛媛県の都市伝説「蛇口からみかんジュース」

「愛媛県では蛇口をひねるとみかんジュースが出る」という都市伝説。昭和50年代頃から長らく「ネタ」として流布されていたものです。他県の人々が集まる場でお互いのお国自慢を語り合った際に、愛媛県民がジョークで話していたものが広がったのではないかといわれています。もちろん、本物の水道管からみかんジュースは出ませんが、この噂話を現実にしてしまおう!と考えてしまうのが愛媛県民の愛すべきところ。
2007年(平成19年)にえひめ飲料が「ポンジュース蛇口」なるものを完成させ、松山空港に設置してこの都市伝説は現実になりました。これがメディアなどで大きな話題となり、そこから他の企業や団体にも広がっていったのです。
残念ながら、松山空港の「ポンジュース蛇口」は期間限定だったため現在はもうありませんが、松山城や道後温泉周辺には同様のサービスを提供するお店が続々と誕生しています。複数の蛇口でいろいろな品種の柑橘ジュースを飲み比べできるお店も増えていますので、近くを訪れた方は試してみるのも楽しいのではないでしょうか。
まじめなジュースが紡ぐ、愛媛の物語
ポンジュースには愛媛の気候や風土の恵み、企業の歴史に裏打ちされた努力や情熱など、何にも代えがたい結晶が詰まっています。「まじめなジュース」という言葉に込められた誇りを味わいながら、愛媛という土地を少し近くに感じてみるのはいかがでしょうか
―――
もっと知りたいあなたへ
愛媛県公式観光サイト
https://www.iyokannet.jp/
愛媛柑橘部
https://www.kankitsu.aifood.jp/
株式会社えひめ飲料 公式ホームページ
https://www.ehime-inryo.co.jp/