長野県民のソウルフード「牛乳パン」の魅力〜半世紀愛されるふるさとの味〜

唐突ですが、「牛乳パン」をご存知でしょうか。
長野県民なら当然知っている牛乳パン。多くの長野県民は、この味が長野特有のものだとは知らないのです。今回はこの長野県民のソウルフードともいえる牛乳パンのレビューをお届けします。食べてみる前に、まずは長野県についておさらいしましょう。
長野県は、日本地図では本州の真ん中あたりにあり、都道府県の面積ランキングで4位を誇る非常に広い県です。山岳地帯が多く、居住可能な地域は限られています。南北に長く広がるその土地は、北信、東信、中信、南信と地域ごとに異なる表情を見せ、景色も言葉も、そして人柄にも随分と違いがあります。
正直なところ、同じ長野県民であっても地域が異なれば、「同県人」という意識は希薄に感じるほどですが、地域性に大きな違いのある長野県にも、昔から県内各地で親しまれてきた共通の「味」があります。それが今回ご紹介する「牛乳パン」です。
牛乳パンの歴史と、その姿について
牛乳パンの歴史は、戦後の食糧事情が厳しかった1955年頃、昭和でいえば30年代に遡ります。有力な説としては、伊那市にあったパン屋さんで、当時貴重だったバターの代わりに、洋菓子用のバタークリームをパンに挟んだのが始まりだとか。これが好評を博し、牛乳パンの原型となったといわれています。
一方で、木曽町の「かねまるパン店」は1952年(昭和27年)創業とさらに古く、「元祖」の一つとして語り継がれています。さらに、駒ヶ根市は2018年に「牛乳パン生みのまち」を宣言するなど、各地にいろいろな話があり、発祥にも諸説あって興味深いのですが、どこが最初だということは公式には確定していないようです。
牛乳パンは、お店によって味も見た目も少しずつ異なりますが、共通して言えるのは、やはりその形状です。長方形の厚みのあるパン生地に、たっぷりのクリームがサンドされているのが基本で、例外もありますが「ロールパンにクリームを挟んだだけでは牛乳パンとはいえない」というくらい、この形が重要視されています。

「牛乳パン」という名前ですが、挟んであるクリームは牛乳からできた生クリームではなく、多くのお店がバタークリームを使用し、味わいや甘さについて各店で工夫を凝らしています。
クリームの量もさまざまで、たっぷりと挟んであるお店もあれば、パンの味とのバランスを重視するお店もあります。クリームは甘めに作られていることが多いのですが、パン生地は甘さ控えめで、しつこくなく飽きずに食べられるように工夫されています。季節によってバターやショートニングの種類を変えて、クリームの口どけを調整するという職人的なこだわりを持って作っている店もあるとか。
実食の前にもう少しウンチクを
いよいよ実食という段ではありますが、この際ですから、牛乳パンのパッケージと大きさについても触れておきましょう。
レトロかわいいパッケージの秘密
牛乳パンといえば、白地に濃紺の「牛乳パン」の文字と、愛らしい牛と子どもの絵が描かれたレトロなパッケージを思い浮かべる長野県民は多いのではないでしょうか。多くの店で似たデザインが使われているのは、実は偶然ではありません。長野県パン組合(現存していません)が、この牛と子どもの絵を統一パッケージとして採用した結果なのだそう。
この絵は、木曽町の「かねまるパン店」の店主のお母さんが、幼い息子さんをスケッチしたものが元になっているそうです。この絵が長野県パン組合で共有され、統一パッケージとして採用されたことで、牛乳パンのさらなる普及に貢献しました。この統一されたデザインは、長野県民に共通の「懐かしさ」や「安心感」を与えてくれます。まさに牛乳パンがソウルフードとして定着した大きな理由の一つといえるのではないでしょうか。
大きさも牛乳パンの特徴なのだ
さて、袋から取り出した牛乳パンは、感覚的には、少し大きめのお弁当箱くらいの大きさで厚みもあり、ずっしりとしています。こんなに大きいのに、実際に食べてみると意外とペロリと食べられてしまうのが、牛乳パンの不思議なところ。見た目のボリューム感と、実際の食べやすさのギャップに驚かされます。
こだわりの3店を食べ比べ!個性豊かな牛乳パンの世界
6人のスタッフでじっくりと食べ比べを行い、見た目や食感、クリームの味わいなどについての感想をまとめました。
歓びのプレリュード

安曇野市穂高有明にある「歓びのプレリュード」の牛乳パン(¥399)。パッケージは昔ながらの乳白色ビニールを使用しつつも、デザインは現代的で洗練された印象を受けました。
見た目は今回の3種類の中で最もバランスが良く、焼き色も美しく、サイズ感も絶妙。パンのしっとり感がきわ立ち、ほぼ全員が「最もしっとりしている」と評価。フワフワで口どけが良く、クリームも甘すぎず、バタークリームの濃厚さを感じさせながらも上品な味わい。現代風にアップデートされた牛乳パンとして、非常に高い評価となりました。
小林製菓舗

長野市豊野町の「小林製菓舗」による牛乳パン(¥400)は、懐かしさを感じさせる「かねまるパン」のデザインを採用。厚めで大きなパン生地にたっぷりのクリームで、昔ながらの雰囲気を全面に押し出すタイプ。
評価的には、パン生地のしっとり感がやや弱く、少しパサついた印象との声がありました。また、クリームの香りもやや控えめとの意見が出ましたが、その素朴さが「昭和の味」を思わせ、ノスタルジックな魅力を感じたスタッフもいました。長野出身の筆者には、この少しパサっとしたパン生地や香り控えめのクリームこそが元祖牛乳パンという印象なのです。
トラットリアフォルツァ

安曇野市豊科の「トラットリアフォルツァ」の牛乳パン(¥220)は、青と白の配色に長野県の形をあしらった独自パッケージが印象的です。透明ビニール袋で販売されており、他の2店舗と比べて価格も最も安く、日常感があふれているのが魅力。
見た目は山型のパンでどこか懐かしさがありつつ、小ぶりでクリームの量も控えめ。スタッフからは「コストを考えると納得」「気軽に買えるサイズ感と価格」との声があがりました。味の面では、クリームが甘すぎず、量も少なめなことでパンそのものの風味をしっかりと味わえるとの評価に。特に「パンの味を楽しみたい人には向いている」との意見が多く、コストパフォーマンスに優れた選択肢として好評でした。
総括
それぞれの牛乳パンにしっかりとした特徴があり、「進化系」「原点回帰」「コスパ重視」と三者三様の魅力を感じられる実食となりました。各店への感想をひとことでまとめてみると、
- 味と品質のバランス重視なら「歓びのプレリュード」
- 懐かしさや素朴さを求めるなら「小林製菓舗」
- コストを抑えて楽しみたいなら「トラットリアフォルツァ」
という結果となりました。どれを選んでも、その背景にある作り手のこだわりと熱意を感じられる食べ比べ体験でした。
牛乳パン、東京でも買えますよ
今回レビューしたお店以外にも、長野県内には個性豊かな牛乳パンを販売しているお店がたくさんあります。ご当地スーパーにも当然置いてありますので、地元の雰囲気を味わいたい方は、ぜひ立ち寄ってみてください。
「長野まではなかなか行けない」という方もご安心ください。東京でも、長野の牛乳パンが手に入ります。実は今回レビュー用に購入した牛乳パンは「銀座NAGANO」で購入したものです。

銀座NAGANOは、東京・銀座にある長野県のアンテナショップで、食や工芸、観光など多彩な地域の魅力を発信する拠点です。店内には、旬の農産物や加工食品、地酒、伝統工芸品などが豊富に並び、現地さながらの品揃えを楽しめます。こちらでは日替わりで長野県内の有名店の牛乳パンが販売されており、今回は金曜日のラインナップで実食しました。
牛乳パンは、そのシンプルな見た目とは裏腹に、本当に奥深い物語と長野県民の愛情が詰まった食べ物であることが、今回改めてわかりました。このレビューには書ききれませんでしたが、単なる菓子パンではなく、戦後の食糧事情から生まれた歴史や、職人たちのこだわり、そして地域全体で盛り上げようという熱い思いが全て詰まっているのでした。
長野へ旅行に行かれた際には、ぜひ牛乳パンを召し上がってみてください。朝食に、おやつに、小腹が空いた時に。お店によって異なる味や食感を楽しんでみてください。旅の途中で購入し、帰りの車中でゆっくり味わうのも良いでしょう。
※文中の価格は購入時(2025年6月)のものです。あらかじめご了承ください。
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もっと知りたいあなたへ
長野県公式観光サイトGoNAGANO(牛乳パン)
https://www.go-nagano.net/food-and-drink/id21350
銀座NAGANO
https://www.ginza-nagano.jp/