2025.10.28

杜の都 仙台・秋保で美酒と美食を巡るガストロノミーツーリズム(後編)

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前編に続き、「仙台秋保 テルマエ酒紀行~美酒と美食に出会う一泊二日」の体験記、後編をお届けします。

老舗旅館「伝承千年の宿 佐勘」で心ゆくまで癒される

ブドウの収穫体験を終えた後の休憩と宿泊は「伝承千年の宿 佐勘(さかん)」。

仙台の奥座敷として知られる秋保(あきう)温泉は、約1500年前の古墳時代に開湯したと伝えられ、別所温泉(長野県上田市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)とならび「日本三御湯(にほんさんみゆ)」のひとつに数えられています。

伝承千年の宿佐勘の外観画像

「伝承千年の宿 佐勘」は秋保温泉の中でも有名な老舗旅館で、仙台藩主伊達政宗公の「湯浴み御殿」として栄えたゆかりの湯を守り続けております。

自慢の温泉はなんと4種類。四季折々の自然の景色が楽しめる2つの大浴場、伊達政宗公が湯浴みをする際に、外敵から身を守る役割をした格子が再現され、ヒノキの香り漂う「名取の御湯」、名取川を眼下にのぞむ渓流沿いの源泉かけ流し露天風呂「河原の湯」があります。男女入れ替え制のため、全ての風呂を制覇するのは困難かもしれませんが、それは次に訪れる時の楽しみが増えるというものです。

宿泊した「飛天館」の和室は広々としており、美しい秋保の景色が一望できました。伝統を守りながら現代の快適性を追求した近代和風建築が心地良く、日頃張りつめて過ごしている心と体が一気にときほぐされていきます。

秋保大滝で感じる大自然の息吹

「伝承千年の宿 佐勘」で迎えた2日目の朝。窓の外には、朝日に照らされた木々が輝き、昨日とはまた違った、新たな感動の始まりを告げているようでした。朝風呂後は旅館の朝食をゆっくりと堪能し、心身ともに満たされた状態でチェックアウト。

2日目最初の目的地は、秋保大滝です。天気は快晴で、車窓からは澄み切った秋の景色が見えます。例年であれば9月下旬には紅葉が始まりかけているそうですが、今年は緑鮮やかな山々が広がっていました。秋の終わりの日差しは暑さを感じるものの、秋保大滝不動尊の脇を通り滝見台へ向かう遊歩道は、ひんやりと冷たい空気に包まれていました。道中、川のせせらぎと鳥のさえずりが心地よく響き、自然が奏でる歓迎の調べのようでした。

秋保大滝の画像

やがて、遠くから水の轟音が聞こえてきました。音は徐々に大きくなり、ついに目の前に現れたのは、幅6メートル、落差55メートルという、圧巻の迫力を持つ大滝です。

秋保大滝は「日本の滝百選」に選ばれ、国の名勝にも指定されています。その雄大な姿は、まさに自然が創り出した芸術作品。轟音は、まるで大地の鼓動のように体に響き渡り、私たちの魂を揺さぶるようでした。昨日の美食とはまた違う、大自然の持つ圧倒的な力に触れる「文化体験」でした。ここでしか感じられない、壮大なエネルギーに包まれ、私たちは秋保大滝を見つめながらただただ立ちつくしていました。

宮城峡蒸溜所でウイスキーの奥深さに触れる

ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所の画像

秋保大滝の見学を終え、次に向かったのは、ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所です。山間の道を走り、突如として目の前に現れたのは、まるでスコットランドのスペイサイドに迷い込んだかのような、レンガ色が緑に映える石造りの美しい建物群でした。

創業者である竹鶴政孝氏は、かつてNHK連続テレビ小説「マッサン」のモデルになったことも広く知られています。

ウイスキーづくりの神髄に触れる蒸溜所見学

蒸溜所では、無料のガイドツアーに参加。有料セミナーも用意されていますが、土日などは早めに席が埋まってしまうことから、無料・有料ともに事前の予約は必須です。

ツアーでは、シアタールームでの映像鑑賞から始まります。ニッカの歴史や宮城峡蒸溜所を作った背景、竹鶴政孝氏のウイスキーづくりにかける熱い想いなどが語られます。

北海道の余市蒸溜所に続く第二の蒸溜所の候補地選定の中でたどり着いたのが、ここ宮城県。広瀬川と新川の二つの清流が合流する霧深い緑豊かな渓谷で、新川の水でブラックニッカを割り、一口飲んだ竹鶴政孝氏があまりのおいしさに蒸溜所の建設を即決したとの逸話が残っています。また蒸溜所のある住所は宮城県仙台市青葉区ニッカ1番地ですが、ニッカの宮城県進出の記念に、当時の宮城県知事からこの地名が贈られたのだとか。

映像を見終わった後は、いよいよ蒸溜所内の見学です。現在は使われていないキルン棟の説明を受け、仕込棟の中に入っていきます。発酵槽が並ぶ工場内は、酵母の甘く香ばしい香りが立ち込めています。ガイドさんの説明では、ここまではビールの製造過程と非常に似ているとのこと。

その隣の蒸溜棟には、大きなポットスチルがいくつも並んでいます。宮城峡と余市のポットスチルの形状の違いにも注目です。宮城峡のものはくびれがあり(バルジ型)、ラインアームの向きはほぼストレートなのに対し、余市のものはくびれがなく(ストレート型)、ラインアームは下向きになっているそう。この違いが蒸溜所の場所や自然環境の差だけでなく、ウイスキーの味わいの個性を生むのだと説明されていました。

またポットスチルにはしめ縄がかけてあり、竹鶴政孝氏の生家が造り酒屋だったことに由来する、良酒を願う伝統が続いています。

ポットスチルが並ぶ画像

その後貯蔵庫へ移動しました。蒸溜後のウイスキーは樽に詰められ、長時間熟成されます。昨日のワインと同様に、長い時間をかけて人の手を離れ、自然の力でおいしくなっていく。それはまるでその土地の風土そのものを閉じ込めているかのようです。

熟成の間、樽の中のウイスキーは、1年に約2パーセント程度揮発していきますが、これを「天使の分け前」と呼んでいるそうです。天使が年々熟成具合を確認している姿を想像すると、揮発によって少なくなるなんて、という惜しい気持ちが薄れ笑顔になります。

伝統と革新を味わうウイスキーのテイスティング

そしていよいよ、楽しみにしていた試飲の時間。「シングルモルト宮城峡」「スーパーニッカ」「アップルワイン」「ニッカ カフェジン」の4種類を試飲しました。(有料セミナーの試飲は5種類あるそうです!)また、新川の伏流水と炭酸水、氷も用意されており、好みの割り方で飲むことが出来ます。水だけ飲んでも、柔らかい口当たりがおいしさをしっかりと感じさせてくれました。

試飲4種がグラスに注がれている画像

2つのウイスキーは香りも口当たりも全く異なり、ジンは爽やかな柑橘系の香りと山椒のスパイシーな香りが複雑に絡み合いながらも、すっきりとした味わい。白眉はアップルワインで、リンゴのワインにリンゴブランデーを加えたうえ、ブランデー樽でゆっくりと熟成させた原酒を一部使用しているそうで、甘さとコクのバランスが絶妙です。なんて素敵な時間でしょうか。ゆっくりと味わっているうちに試飲時間が終了してしまいました。

感動の旅路、終焉へ

清流が流れ、豊かな緑に囲まれたこの場所は、ただの工場ではなく、ウイスキーという文化を育む特別な空間でした。工場見学で外を歩いている時、随分と空が広く感じましたが、最初の映像で説明されていたことを思い出しました。宮城峡蒸溜所内は自然の景観を守るため、電線は地下に埋めて作るように指示されたとのこと。また蒸溜所内の動線も木を避けるように蛇行していたり、自然を大切にしている工夫が随所に見られます。
「ウイスキーは人が作るものではなく、自然が作ってくれるもの」。竹鶴政孝氏のこの言葉の通り、自然はそのまま残すという考えで蒸溜所内が設計されているのだとか。気持ちのこもったとても素敵な話です。

名残惜しくも仙台駅へ向かう道中、この2日間を振り返りました。

今回のツアーを通して、私たちは単においしいものを食べ、工場を見学しただけではありません。食と酒を通じて、その土地の風土や文化、そしてそこで働く人々の温かさに触れることができたのです。それは、私たちが普段テーマとしている「地域創生」や「関係人口の拡大」「日本の宝物を世の中へ発信する」といった言葉を、もっと身近で、もっと温かいものとして感じさせてくれる体験で、私の中の「ふるさと」という概念を、もっと広げてくれるのかもしれないと感じたのでした。

この一泊二日の旅は、私の心を豊かにしてくれただけでなく、私たちの仕事に対する情熱を、より一層燃え上がらせてくれました。この感動を皆様にも届けたいと、強く強く感じ、旅で得た体験をレポートしました。この体験記が、誰かの心に響き、仙台・秋保という土地を訪れるきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。

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もっと知りたいあなたへ

伝承千年の宿 佐勘
https://www.hotel-sakan.com/
秋保大滝(仙台観光情報サイト せんだい旅日和)
http://sentabi.jp/guidebook/attractions/116/
ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所
https://www.nikka.com/distilleries/miyagikyo/

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