2025.7.3

食のエンターテイナー、マロンが語る「今」と「これから」への想い(フードスタイリスト:マロン)

- SNSでシェアする -

料理を「魅せる」アートへと昇華させた日本初のフードスタイリスト、マロンさん。そのキャリアは40年以上にわたり、料理だけでなく、スタイリング、イベントプロデュース、キッチンツール開発、文化人タレント活動と多岐にわたります。今回は、マロンさんのこれまでの歩みや現在力を入れている活動、そしてこれからの未来を見据えて取り組んでいくことについて、お話をうかがいました。

料理との出会いとフードスタイリストへの道

―フードスタイリストとして独立されたのは1983年ですね。その経緯はどのような形だったのでしょうか。

マロン:高校を卒業後、故郷の佐賀県唐津市を離れ、大阪の調理師専門学校で学びました。授業はとにかく真面目に受けていましたね。先生の手さばきを誰よりも近くで見たいと思って、席はいつも一番前を陣取ったりして。学校を卒業後は、上京して料理研究家やインテリアスタイリストのアシスタントを経験しています。撮影現場に入るたびに、料理をただ作るだけでなく、器や小物を使って料理全体、テーブル全体を「魅せる」ことの大切さを感じていました。

マロンにとって、テーブルはカンバスのような存在。さまざまなテクニックで、おいしさを表現することにこだわり、追求し続けた毎日でした。さらにそこから、自分自身をプロデュースしたいと思うようになったのです。

当時は「フードスタイリスト」という職業が日本には存在していなかったので、前例がない中での独立でした。ファッション業界のスタイリストさんは知名度がありましたから、よく間違えられたものです。それも今となっては笑い話。いい思い出ですね。

マロンが思い描いたフードスタイリストは、料理もして、スタイリングもして、レシピも書く。料理に関わることをマルチにこなすスペシャリストです。マロンのデビュー当時といえば、料理はこの人、レシピはこの人、というように分業制が主流でした。すべてを単独で完結できる人がなかなかいなかったこともあって、現場で重宝していただいたのだと思います。とても忙しい毎日を過ごしていましたね。

センスは盗め、センスは磨け

―フードスタイリストとしてのセンスはどのように磨かれたのかが気になります。

マロン:とにかく日本や海外の雑誌や本を大量に読み漁りました。おかげさまで、次から次へとお仕事をいただいていたんですが、勉強は欠かしませんでした。特に洋書からは、ビジュアルのセンスを学びました。

「センスは盗め、センスは磨け」という言葉を大切にしているのですが、何事も、初めは模写から入るのが一番だと思っています。素敵だなと思うものを真似する、ということですね。

ただ、いくらやっても模写で終わる人もいます。もちろん普段の生活でしたら、それで十分なんですよ。でもそこから一歩二歩抜け出す人、オリジナリティへ繋げていける人は、センスのある人だと思います。

マロンさんフードスタイリング①

90年代から2000年代にかけては文字通りに息つく暇もなく忙しく、雑誌の誌面で、今でいうところの「映える」ビジュアルを作ってきました。

当時はインターネットで何でもすぐにわかるという時代ではなかったから、とにかくたくさんの本や雑誌から新しい情報やスタイルを勉強しましたよ。インスタ映え、なんて言ってたくさんの情報をすぐに手に入れられる現代は、素晴らしいと思います。

洋書専門店に通ったり、あれも素敵、これもいいな、と資料や書籍を集めたりしていたのですが、数年前に引っ越しする時に、はたと気がついたんです。書籍だけで段ボールが100箱以上!あのときはさすがに驚きました。

マロンさんフードスタイリング②

マロン自身もたくさんの本を出版していただきました。一番最初に出したのは「100枚のおいしいお皿: 毎日の食卓を楽しむお皿術(文化出版局)」。料理とお皿を組み合わせることの楽しさを詰め込んだ本です。たまに読み返しては、「今のマロンならこう魅せる」「新しく手に入れたお皿にはこれを盛り付けたいな」など、あれこれ考えては楽しんでいます。

そう、マロンは素敵なお皿が大好きです。フランスをはじめとした海外でもたくさん買ってきて、所蔵しています。そういったものも、当然自分のスタイリングに取り入れてきました。今では所蔵品のほとんどはマロンがプロデュースしたキッチンスタジオ「DigitalKitchen(デジタルキッチン)」に置いてあり、撮影やイベントの際に活躍しています。

フードスタイリストとして先頭を走ってきた

コロナ禍でのライブ配信

―日本初のフードスタイリストとして長年活躍してこられたマロンさんですが、今までの活動を振り返って思うことはありますか。

マロン:「ずっと先頭を切って走ってきた」という気持ちがあります。今でも、もちろん走り続けていますが、ふとこれまでのあれこれを考える時、マロンの歩みは単なる仕事ではなく、多くの方々と関わりながら「食の文化」を伝えていく、そんな「旅」そのものなのだと感じたことがありました。

―では、マロンさんの最近関心のあることについて教えてください。

現在のマロンの関心ごとは、「フードロス」や「少子高齢化」、「食文化の普及」、「地方創生」といった社会的に広い範囲にわたるテーマ。実はこうした課題に非常に注目しています。コロナ禍を経験して、その想いがより強くなりました。今できることを精一杯やらないと!という気持ちで、YouTubeやラジオ、SNSなど、マロンから皆さんに元気を届けられるものにはすべて取り組んでいます。

マロンらしさを失うことなく、これまでに培ってきた技術と経験、感性を糧に、さらにステップアップして新たなステージへと進んでいきたいですし、関心のあることに対して真剣に向き合い、実行していこうと考えています。

自分の原点である「故郷」に関わる仕事も

―マロンさんが特に力を入れているお仕事を挙げていただけますか?

マロン:どれも全力投球のマロンですので「どれが一番」とは言い切れませんが、気持ちの入りやすいお仕事というのはありますね。

大好きなレシピ開発やイベントなどのほかに、ずっとレギュラーでいただいているラジオのお仕事があります。時代に沿ったテーマを自分の言葉で語らせていただけるコーナーなのですが、たびたび話題にしているのが「故郷」のことです。

マロンが生まれたのは母の故郷・長崎ですが、育ったのは佐賀県の唐津市。高校を卒業するまでの間、この唐津で過ごしました。大人になって改めて感じるのは、唐津はマロンにとって単なる故郷ではなく、食と文化の原点ともいえる場所だということです。

唐津の唐津くんちの画像

「唐津焼」という素晴らしい焼き物があり、「唐津くんち」は全国的にも知られるお祭りとなっています。「日本三大朝市」とも称される「呼子の朝市」や、透明で新鮮な「呼子のイカ」も有名ですよね。こうした唐津ならではの魅力を、料理家・フードスタイリストの目線で広めていくことがマロンの大切な使命だと思っています。

たとえば「唐津焼」と聞いても、「ああ、唐津の焼き物なのね」と思われて終わりかもしれません。でも、おいしくて美しい料理とともに伝えることで、その芸術的な美しさや、器としての実用性も知ってもらえるはず。本当に使いやすく、すばらしい焼き物なんです。

全国の皆さんにその魅力を伝えることはもちろんですが、地元・唐津の皆さんに、地元文化の価値を再発見していただくことも同じくらい大切だと感じています。
地方創生という大きなテーマのもと、観光大使を務めさせていただいた経験もいかしながら、これからも唐津市を応援し続けたいと考えています。

イベントや自分の企画がとても楽しい

マロンの夜会画像

―そのほかに、現在力を入れている活動はありますか。

マロン:関わってくださる方々や、ファンの皆さんとの交流の場として、手作り料理を味わっていただく「マロンの夜会」を開催しています。「スパイシーナイト」や「秋の味覚」など、毎回テーマを設けて、それに合わせた料理をふるまうイベントです。

この会では、地方の特産品や地域企業の食材(加工品を含む)、フードロス対策を意識した食材などを積極的に取り入れています。食べ方の提案はもちろん、マロンの料理を通じて、地方の魅力を再発見していただける場にもなっていると感じています。

これまで日本各地をめぐってきたマロンにはわかります。地方には、本当に良い食材や素材、おいしいものがたくさんあるんです。それを知っていただくことも、マロンにとっての地方創生の一環です。

マロンのウィズ画像

さらに「Maron With」は、料理に携わる方々に新たな挑戦の場と時間を提供するイベントとして誕生しました。マロンのステージである「DigitalKitchen(デジタルキッチン)」を最大限に活用し、料理家の皆さんがリアルな場でその才能を発揮できる機会をつくりたい——そんな想いから始まった取り組みです。ライブ感を何よりも大切にしてきたマロンならではの発想だったと、我ながら誇らしく思っています。

このイベントを通じて、料理家たちが次のステップへと進むきっかけになればと願っていますが、実はマロン自身にとっても学びの多い、かけがえのない時間でもあるのです。

牛乳PJの画像

そのほかにも、2024年3月には、コロナ禍を経て牛乳の需給バランスが崩れ、酪農家の皆さんが厳しい状況に置かれていることを知り、「牛乳をみんなでおいしく飲もう!プロジェクト」をスタート。マロンは牛乳1トンを購入し、そのうち600リットルを、春休み中の牛乳消費が落ち込む時期に、さいたま市子ども食堂ネットワーク(埼玉県さいたま市・代表:本間香さん)を通じて、地域の子ども食堂や家庭へ寄贈しました。

長期休みに給食がないことで、子どもの栄養が不足しやすく、特にカルシウムの摂取が不十分になりがちだといわれています。これは、牛乳を飲む機会が減ることが一因かもしれません。

そこでマロンは、寄贈にあわせて牛乳を使った特製レシピ3品も提供。ただ飲むだけでなく、日々の献立にも取り入れてもらうことで、牛乳の消費が自然と広がっていくのではないかと考えています。今後も、酪農に携わる皆さんへの応援を続けていきたいと思っています。

これからの展望とメッセージ

―未来についての想いや取り組みについて教えてください。

マロン:フードスタイリストとしてさまざまなプロジェクトに関わり、料理を通じて食文化の魅力を発信してきたという自負があります。でも、まだまだやりたいこと、やるべきことはたくさんあります。

このウェブメディア「KURAFT」にも、特別な想いを持っています。マロンにとってKURAFTは、「想い」と「ビジョン」をかたちにする場所。ここでは「KURAレシピ」の制作を担当していますが、これまでと同様、多くの人に食の楽しさを届けられる場になることを願っています。

少子高齢化が進む今の日本で、シニア世代の一人として「今できること」を表現し、人生経験をいかし料理を通じて新たな価値を生み出す。そしてその活動を、日本だけでなく世界へと広げていけたらと思っています。

SNSや紙媒体だけでは伝えきれない日本の魅力を、料理という普遍的な「言語」によって世界へ届けたい。日本を訪れる海外の方々にも、豊かな食文化とその背景にある物語を、肌で感じてもらえるような機会をつくりたいと願っています。

マロンの活動の根底には、ただ「食べる」ことを超えた深い想いがあります。食を通して人と人をつなぎ、新たな可能性を切り拓いていく。その情熱が多くの方に届くことを信じて、これからも前に進んでいきたいと思っています。

―――
もっと知りたいあなたへ

マロン オフィシャルサイト「Maron’s Net」
https://www.marons.net/
「牛乳をみんなでおいしく飲もう!プロジェクト」プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000140198.html
デジタルキッチンについて
https://www.san-group.co.jp/service/digital-kitchen/

- SNSでシェアする -