クラフトリリース
2026.4.2

ニューロダイバーシティとは何か~境界を越える理解と日本での実践に向けて~

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はじめに

近年、多様性(Diversity)が重要視されるようになっています。しかし、この「多様性」は単に性別や文化といった枠組みに留まらず、人の脳や心の違いそのもの=神経の多様性(Neurodiversity) にも拡大しています。世界では聞くことが多い単語なのですが、日本で使われる機会はまだ少ないように感じます。

欧米で発展してきた「ニューロダイバーシティ運動(Neurodiversity Movement)」が日本でどのように受け止められ、今後の展開においてどんな課題があるのかを分析した論文を紹介します。

論文の主旨と重要なメッセージ

✔ ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティ とは、

  • 人間の神経構造や認知スタイルが多様であること
  • その多様性を欠陥としてではなく、自然な人間の差異として捉える視点

を意味します。

たとえば自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などを単なる病気や欠陥ではなく、多様な脳機能の現れとして理解する枠組みが提案されています。

✔ 欧米と非欧米での受け止めの違い

欧米を中心に発展した「神経多様性の理解」と文化や社会構造が異なる国・地域では、

  • 運動や概念そのものが十分に広まっていない
  • 現場の支援制度や社会的理解とのギャップが存在する

という問題が指摘されています。

つまり、単に言葉や理念を輸入するだけではなく、それぞれの『文化的背景や社会構造に即した理解と実践』が必要だということが指摘されています。学校や職場にあわせた取り込みがポイントです。

ニューロダイバージェント/神経多様性を理解するための基本

 「ニューロティピカル」と「ニューロダイバージェント」

・ニューロティピカル(neurotypical):社会の多数派として基準となる一般的な神経機能
・ニューロダイバージェント(neurodivergent):ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)SLD(限局性学習症)などを含む、神経機能や認知スタイルが異なる人々

どちらが良い悪いという評価ではなく 多様なあり方のひとつとして捉えます。

 従来の「医療モデル」との違い

これまでは「問題(障害)」として扱われがちだった認知の違い(いわゆる、「医療モデル」)も、ニューロダイバーシティの視点では「その人の特性として尊重し、社会的要因や環境調整で支援する」という枠組みにシフトしています。

日本の学校・職場が学ぶべき視点

日本の学校や職場が神経多様性をどのように受け入れ、支援体制をつくるべきかを考えるうえで大変参考になります。

 ① 基本理解の普及

日本では、「ニューロダイバーシティ(神経の多様性)」という考え方は、まだあまり知られていません。まず大切なのは、この基本的な考え方を広く伝えていくことです。ポイントは次の2つです。

  • 人の考え方や感じ方には、いろいろなタイプがあるということ
  • それを「できないこと」ではなく、「その人の特性」として大切にすること

人それぞれに得意なことや苦手なことがあります。この違いを前提にすることで、「なぜできないのか」ではなく、「どうすれば力を発揮できるか」という見方ができるようになります。
学校や職場、メディアなどを通して、こうした考え方を少しずつ広げていくことが大切です。

② 支援制度の再設計

これまでの支援は、「本人が周りに合わせること」が重視されがちでした。しかしこれからは、「環境を調整する」という考え方が重要になります。

  • 一人ひとりに合ったサポート(合理的配慮)を行うこと
  • 困りごとの原因となるルールや環境を見直すこと

たとえば、説明の仕方を工夫したり、働き方に少し柔軟さを持たせたりすることで、能力を発揮しやすくなります。
こうした工夫は、一部の人のためだけでなく、結果として誰にとっても過ごしやすい環境につながります。大切なのは、「特別な対応」ではなく、「みんなにとって使いやすい仕組み」をつくることです。

 支援者・同僚の理解と協働

学校の教職員や職場の上司・同僚が、ニューロダイバーシティの視点に立つことは、多様な個人が力を発揮できる環境を作るうえで極めて重要です。
具体的には、以下のような配慮や工夫があります。

・コミュニケーションの多様性への配慮
口頭でのやり取りが負担となる人に対しては、メールやチャット、メモなど視覚的な手段を併用することで理解を促進できます。また、曖昧な指示を避け、具体的で明確な伝達を行うことも重要です。相手の理解スタイルに応じて情報提示の方法を調整することが、円滑な協働につながります。

・感覚の多様性への配慮
音や光、においなどの感覚刺激に対する感受性には個人差があります。例えば、静かな作業環境の確保、照明の調整、ノイズキャンセリング機器の使用許可など、小さな環境調整が大きなパフォーマンス向上につながる場合があります。こうした配慮は特別な対応ではなく、すべての人にとって快適な環境づくりにも寄与します。

・学び方や働き方の柔軟性
同じ目標に到達するための方法は一つではありません。作業手順の選択肢を広げる、時間の使い方に柔軟性を持たせる、得意な領域を活かした役割分担を行うなど、多様なアプローチを認めることが重要です。これにより、個々の強みを最大限に活かすことができ、結果として組織全体の生産性や創造性の向上にもつながります。

さらに重要なのは、こうした配慮を「特定の人への特別扱い」としてではなく、「多様性を前提とした環境設計」として捉えることです。支援者や同僚が相互に理解し合い、対話を重ねながら調整していくプロセスそのものが、心理的安全性の高い環境を生み出します。

ニューロダイバーシティの理解は、単に配慮を増やすことではなく、個人の強みや可能性に目を向け、それを活かす関係性を築くことに本質があります。その結果として、多様な人材が安心して学び、働き、成長できるインクルーシブな社会の実現につながるのです。

多様性は可能性であり力でもある

ニューロダイバーシティの考え方は、いわゆる「障害者支援」の枠にとどまりません。
多様な考え方・感じ方・学び方・働き方があることを前提に組織や社会を設計することそのものが、変化の激しい現代社会を生き抜く鍵となります。

今回ご紹介した論文が示すように、欧米で生まれた理念をそのまま導入するのでなく、その国の文化や社会制度との整合性を考えた支援のあり方を考えていくことが重要です。これこそが、日本の大学や職場が本当にインクルーシブな社会を創るための一歩になると考えます。

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参考文献(出典)
Ovcharenko, A. (2025). Why the Neurodiversity Movement Struggles to Translate in Russia and Japan: Towards Internationally Inclusive Advocacy. Neurodiversity. DOI:10.1177/27546330251409239.

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