2025年9月13日から15日にかけて、スタンフォード大学 Li Ka Shing Center にて Stanford Neurodiversity Summit 2025 が開催された。青空と芝生、木々に囲まれた穏やかなキャンパスに、世界各地から参加者が集った。現地での参加を通して、このサミットの様子を紹介したい。
本サミットは、スタンフォード大学の Stanford Neurodiversity Project が主催し、代表者は精神医学・行動科学の研究者である Dr. Lawrence Fung(ローレンス・ファン)である。延べ173名のスピーカーが登壇し、現地参加者は約500〜600名、オンライン参加者は1300名以上にのぼった。
Stanford Neurodiversity Summit は2017年にスタンフォード大学で始まった。当初は、自閉症やADHDなど、いわゆるニューロダイバージェント(ND)の若者が、学校から社会へ移行し、就労し、職場に定着していく過程に焦点が当てられていた。その後、議論の射程は広がり、現在では就労にとどまらず、中等教育・高等教育、メンタルヘルス、人権、テクノロジーなど、多様な分野を横断するプログラムが展開されている。ここで重視されているのは、「ニューロダイバーシティとは何か」を定義することではなく、「それが社会の中でどのように機能し得るのか」を具体的に考えることである。
「違い」をどう生かすか、という問い
実際に参加して強く印象に残ったのは、サミット全体がストレングスモデルの視点を軸に構成されている点である。
ストレングスモデルとは、人を「できないこと」や「困りごと」から理解するのではなく、その人が持つ強みや関心、資源が、どのような環境や関係性の中で発揮されるのかに目を向ける考え方である。強みは生まれつき固定されたものではなく、環境・関係性・役割との相互作用で引き出されるものだと考えられている。
ニューロダイバーシティの文脈では、自閉症やADHDといった神経特性を「克服すべき課題」として扱うのではなく、認知の違いがもたらす独自の視点や能力を、教育や仕事、社会の中でどう活かすかが問われる。
働き方はどう変わり始めているのか

今回のサミットの就労に関するテーマの中で、特に印象に残ったのは、AIの活用と、ニューロインクルージョンが企業や組織にとってどのような価値を持つのかという点であった。就労を「支援」や「善意」の問題として語るのではなく、働き方や組織の成果にどう関わるのかという視点から、実践や調査が紹介されていたことが特徴的であった。
企業におけるニューロインクルージョンに関する調査を扱ったパネルでは、能力の発揮は個人の特性そのものによって決まるのではなく、どのような環境やチームの中で働くかによって大きく左右されることが、具体的な数字とともに示されていた。特に、ニューロダイバージェントとニューロティピカルが共に働くチームにおいて高いパフォーマンスが生まれていることが示され、ニューロインクルージョンは特定の人への「配慮」ではなく、組織全体の成果に関わる要素として位置づけられていた。
一方、AIに関するパネルでは、AIが就労のさまざまな場面を支える技術として紹介されていた。AIは、面接練習や職場場面のシミュレーション、応募者の職務適性プロファイルの作成、入社後の働き方や必要な配慮の整理、さらには継続的なコーチングまでを支える技術として位置づけられていた。採用前から入社後、そして定着や成長に至るまで、就労のさまざまな段階に関わるツールとして紹介されていた点が印象的である。
その他、例えば、文章のトーン調整によって、書き手の意図が相手に誤解なく伝わるよう表現を整えることや、集中が途切れやすい状況でも会議内容の情報の抜けを防ぐ工夫、発表や発言の順番を調整する仕組みなどは、効果や運用方法を検討している段階の実験的な取り組みとして紹介されていた。
AIは「できないことを補う道具」ではなく、相互理解を成立させ、力を発揮しやすい環境を整えるための技術として位置づけられていた。企業側にとっては採用やマネジメントの不安を軽減し、働く側にとってはパフォーマンスや定着を支える仕組みとして、AIが現実的に使われ始めていることが示されていた。
また、就労と地域連携の実践として紹介されたのが、非営利団体や企業の取り組みである。そこでは、就労を「個人への支援」として完結させるのではなく、地域・企業・教育をつなぐエコシステムとして構築する姿勢が強調されていた。特に、雇用や定着、生産性といった成果をデータとして可視化し、ニューロダイバーシティへの投資が社会や企業にもたらす価値を示そうとする試みは、印象に残るものであった。大学と連携したインターン準備プログラムや、企業側マネージャーへの研修も含め、働く本人と職場の双方を変えていく取り組みが進められていることが示されていた。
教育や訓練の場面では、当事者が講師として関わり、同じ当事者に向けて学びを支える取り組みが紹介されていた。働く上での工夫や経験が、当事者自身の言葉で共有されることで、現実に即した学びが成立している点が特徴である。その他のパネルでは、就労に必要なスキルや知識だけでなく、「どのように働くか」「どのように仕事と向き合うか」といった視点が、当事者と支援者の関係の中で伝えられていた。
個人の適応か、組織の仕組みか
就労に関するパネル全体を通して浮かび上がってきたのは、ニューロダイバーシティが理念や理想論にとどまらず、調査によって示された知見と、AIや教育といった具体的な手段を組み合わせながら、現実の働き方を更新していく取り組みとして進められているということであった。個人を職場に適応させるのではなく、仕事や組織の側を問い直す。その動きが、複数の現場で同時に進んでいることが、このサミットの就労トラックからは伝わってきた。
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