「紙」で旅する贅沢〜タイムボイジャートロリープレミアム2〜

うえだなおこの『地域のキラリ光る逸品シリーズ』。今回は、こちら。
そのスーツケースに出会ったとき、多くの人がまず驚くのは「本当に紙でできているの?」という事実だ。
TIMEVOYAGER Trolley Premium II(タイムボイジャー トロリー プレミアムII)は、その名の通り“時間を旅する者”のためにデザインされた、クラシカルで美しいトロリーバッグ。けれどその最大の特長は、木材パルプから作られ特殊な紙素材「バルカナイズドファイバー」を本体に使用しているという、世界でも珍しい構造にある。
2009年に発売されて以来、TIMEVOYAGERは、持ち主と共に旅の記憶を重ねる相棒として、多くのファンに愛されてきた。
新潟・長岡の紙加工技術が生んだ旅の道具
製造元である「安達紙器工業株式会社(新潟県長岡市)」は、1942年ファイバー加工場として創業の老舗紙器メーカー。これまで段ボールや繊維ボード、そしてこの“バルカナイズドファイバー”と呼ばれる素材を用いた多彩な製品を製造してきた。
同社が特に評価されているのは、機械任せではない「人の手」による繊細な加工技術。素材の裁断・圧着・曲げ・リベット止めなど、すべての工程において職人の熟練の技が発揮されており、“紙のクラフトマンシップ”として国内外で高い信頼を得ている。
紙でありながら、驚くほど強く、美しい

TIMEVOYAGERの本体に使われているバルカナイズドファイバーは、元になる原紙を何層にも重ねて加熱・加圧した紙素材。軽量でありながら高い剛性をもち、水や湿気にも強く、かつては軍用ケースや電気機器の部品などにも用いられた100年以上の歴史を持つヨーロッパ生まれの素材である。天然繊維素材系プラスチックとも言われ、プラスチックに替わる素材としても注目されている。
さらに、表面は経年変化により風合いが増していくため、「旅の傷」さえも味わいに変わる。その育つ楽しさも、このバッグならではの魅力だ。
デザインと機能を両立させた“旅の相棒”
TIMEVOYAGERが高く評価されているのは、素材の魅力だけではない。機能と美しさを見事に融合させた、こだわり抜かれたディテールも見逃せない。
■ 立てたまま小物が取り出せる、専用フタ付き構造(タイプII)

駅や空港で、パスポートや財布、コスメなどを使う機会は少なくない。そんなとき、いちいちバッグを寝かせて大きなフタを開けるのは煩わしい。
この問題を解決するのが、スタンダードタイプⅡモデルに搭載された“フロントフラップ付きポケット”だ。
この設計により、バッグを立てたまま上部フタを開けるだけで小物をサッと取り出せる。さらに、このポケットは脱着式で、そのまま宿泊先の金庫や棚に入れて使うこともできるという、非常に実用的な工夫がなされている。
■ キャスターは驚きの衝撃吸収力と悪路でも安定した走行性能+簡単交換設計

旅の快適さを大きく左右するのがキャスターの性能。
TIMEVOYAGER Trolleyでは、スケートボード用の足回りを応用し、ショックアブソーバーによる高い衝撃吸収力を実現。
さらに、バッグ底面に45度という特殊な傾斜角を採用することで、荷物運搬中の揺れや衝撃をしっかりと吸収し、キャスターが重力方向に正しく向くよう設計されている。
その結果、悪路でも安定感のある滑らかな走行が可能となり、機能性と美しさを両立した独自のフォルムが生まれた。
また、キャスターのタイヤはユーザー自身で簡単に交換可能。
“道具を育てて長く使う”というTIMEVOYAGER Trolleyの思想を体現する、旅人にとって心強い仕組みとなっている。
■ 本革仕様の上質感と強さ
TIMEVOYAGER Trolley Premium IIでは、ハンドルとコーナーバッチに本革を使用。
手になじむ質感と使い込むほどに出るツヤは、所有者の個性を映すパーツとしても秀逸だ。コーナーバッチは強度を高めるとともに、全体の印象を引き締め、旅道具としての存在感を格上げしている。
修理しながら、長く付き合える旅道具へ
TIMEVOYAGER Trolley は、“使い捨て”ではなく、“育てて使い続ける”ことを前提に設計されている。
本体やフタ、リベット、キャスターなど、各パーツの修理・交換が可能で、発売当初のモデルでも対応している実績がある。
購入後もメンテナンスしながら使い続けられる設計は、ヴィンテージ家具や革製品のように「時間とともに味わいを増す旅の相棒」として、多くのユーザーに選ばれている。
これは単に「長く使える」ということ以上に、「自分だけの旅の相棒として時間をともにする」価値を提供していると言えるだろう。
紙が紡ぐ、サステナブルな旅の在り方
TIMEVOYAGER Trolleyに使用されているバルカナイズドファイバーは、再生可能な資源であるパルプ由来の環境配慮型素材。加えて、金属やプラスチックに比べて製造時のエネルギー消費も少なく、まさに“未来を見据えた紙”である。
また、パーツごとの修理や交換が前提の設計で、結果的に廃棄を抑え、愛着を持って長く使うライフスタイルを提案している。これは現代の大量消費型商品とは一線を画す価値だ。
「それ、どこのバッグですか?」から始まる物語
筆者が初めてこのバッグに出会ったのはスイス在住の友人と旅先で会ったとき。彼女のバッグを見て、スイス人の著名デザイナーも欲しがり、いくつも取寄せたと言う。「これ紙なのよ」の言葉への驚きは今でも忘れられない。
手に取れば軽く、見れば美しい。聞けばすべてが「旅人の視点」で作られていることに感動する。
そして、誰かに「そのバッグ、どこのですか?」と尋ねられた時、誇らしく語れる道具。それがTIMEVOYAGER Trolleyである。
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もっと知りたいあなたへ
TIMEVOYAGER Trolley
https://www.timevoyager.jp/index.html