2025.9.22

ユネスコ無形文化遺産の祭りを空気感から味わう旅〜春も秋も高山祭〜

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岐阜県高山市は、日本の市町村面積で第1位を誇る飛騨地方の中心都市であり、古い町並みと豊かな自然に恵まれた観光地として知られている。その魅力を構成するものの一つが、高山祭(たかやままつり)である。春と秋の年2回行われるこの祭りは、2016年にユネスコ無形文化遺産に「山・鉾・屋台行事」として登録されており、国内外から多くの観光客が訪れることでも名高い。

高山祭の成り立ち

高山祭は、飛騨高山の氏神様を祀る例祭であり、春の山王祭(さんのうまつり)と秋の八幡祭(はちまんまつり)を総称して高山祭という。高山市発表のプレスリリースによればその起源は、戦国時代の飛騨の領国大名金森氏の時代(1585年~1692年)にさかのぼる。祭りの主役ともいえる豪華絢爛な屋台の起源は1718年頃とされ、以降、地域の人々によって物心両面から大切に守られてきた祭りである。

祭りの意義は、豊作や地域の繁栄を祈願する神事であり、氏神と氏子の変わらぬ強い絆を象徴している。屋台はそれぞれの町が祭りに向けて大切に守る。また、「動く陽明門」とも称される屋台の豪華な装飾やからくり人形など、飛騨の匠の技が集結した芸術的な側面も高山祭の魅力の一つとなっている。

秋の高山祭(八幡祭)を見に行く

秋の高山祭屋台曳き揃えの画像

秋の高山祭は、毎年10月9日・10日に開催され、櫻山八幡宮(さくらやまはちまんぐう)の例大祭として行われる。旧高山城の城下町北半分(下町)をその開催場所としており、祭りのハイライトは、11台の豪華絢爛な屋台の曳き揃えだ。中でも、布袋台(ほていたい)のからくり人形は精巧で、綾方(あやかた)と呼ばれる操縦者によって見事な演技が披露される。

屋台曳き回しは、4台の屋台が町を巡るもので、秋の高山祭でのみ行われる。

また、御神幸(ごしんこう)と呼ばれる祭礼行列は、神様が旅に出られる行列で、総勢数百名の大行列を組む壮観なものだ。神輿を中心に獅子舞や雅楽、裃姿の警固などが行われ、まるで時代絵巻のような光景が眼前に広がり、タイムスリップしたような気分を味わえる。

宵祭の屋台の画像

夜には、各屋台に約100個の提灯が灯され、幻想的な雰囲気が漂う。この「宵祭」は、昼間とはまた違った美しさを楽しむことができるとして、訪れる観光客の心を掴んで離さない。なお同じ夜祭でも、春の祭りでは「夜祭」と呼び、前述の祭礼行列も御巡幸(ごじゅんこう)と呼ぶなど、春と秋では違いがあるのも面白いところだ。

この時期の高山は、木々の葉が色づき始め、周囲の空気が澄んで凛とした雰囲気を醸し出す。芽吹きの時期の春の高山祭よりも落ち着いた趣があり、何度もこの地を訪れる人からは、秋の祭りの方が土地に合っていて好みだという声も聞かれるほど、独特の雰囲気がある。

秋の曳き揃えのメイン会場は、櫻山八幡宮の表参道。ここに屋台が勢揃いするので、足を運べば豪華な屋台の伝統工芸の技などをじっくりと鑑賞できることだろう。

春の高山祭(山王祭)を見に行く

春の高山祭で桜を背に中橋の上に屋台が集まっている画像

日枝神社の例大祭として行われる春の高山祭は、毎年4月14日・15日に開催される。祭りの特徴は、秋よりも1台多い12台の屋台の曳き揃えとからくり人形の奉納である。特に、三番叟(さんばんそう)のからくり人形は、舞台上での早変わりが見どころとして知られており、多くの観客を魅了してきた。このほかに、からくり奉納は「石橋台(しゃっきょうたい)」「龍神台(りゅうじんたい)」でも行われる。秋の祭りではからくり奉納は布袋台の1台だけなので、ここにも違いがある。

祭礼行事の御巡幸も秋と同様に行われる。秋の御神幸は御旅所(おたびしょ)が櫻山八幡宮の中だが、春には、神様は14日の午後に市内の別の場所に泊まられる。これにより15日の正午に御旅所で「発御祭(はつぎょさい)」が行われ、御旅所から日枝神社へ「還御(かんぎょ)」されるという運びだ。

御巡幸の画像

春には宮川にかかる赤い「中橋」で屋台が揃い巡るのを見ることができる。近くで見たい場合は中橋や日枝神社周辺が良い場所だが、少し離れた橋から、中橋に集まる屋台を眺めるのもまた良い。桜を背にした春の高山祭らしさの全景を堪能したい方にはお勧めしたい。

高山祭が飛騨地方にもたらす経済効果

地方創生の観点から見ても、高山祭は、観光客の誘致や地域経済の活性化に大きく貢献していることがわかる。祭りの期間中は、宿泊施設は早くから予約で埋まってしまう。日本人はもちろんのこと、近年は前述のようにユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、国際的な注目も集めている。このため、インバウンドの訪問者も多く、彼らは多少の交通の不便さがあっても、行きたい場所には行くことが優先されるという調査結果もある。

飲食店も祭りの時期には多くの観光客で賑わい、特産品や土産物の販売も当然増加する。また、祭りは氏子の繋がりを大切にするものであり、準備や運営には多くの地元住民が関わっている。これは地域の絆を深めるとともに、地域経済の循環にも大きく寄与しているといえよう。

高山の古い街並みの画像

さらに、高山市には、高山祭以外にも多くの観光名所がある。上三之町を中心とした江戸時代の面影を残す古い町並みは、散策するだけでも楽しめるが、歴史ある町家の公開や酒蔵の見学などもできる。また、高山陣屋は、江戸時代の行政機関を再現した施設で、歴史を学ぶにはもってこいの場所。このほか、伝統的な民家や農具などが展示され飛騨の文化を体験できる施設などもある。

高山祭は、高山市だけではなく周辺の飛騨地方の土地、飛騨市・下呂市・白川村も一緒に祭りを構成していることもポイントで、飛騨地方の祭りとして長い歴史を持つ。京都の祇園祭、秩父の夜祭とともに、日本三大曳山祭、日本三大美祭にも数えられている、日本を代表する祭りだ。

高山祭は、飛騨地方の歴史や文化、氏子を中心とした人々のつながりを現代においても感じることができる貴重なものである。春と秋、それぞれの季節に合わせた美しい風景とともに、伝統の祭りを楽しんでみるのはどうだろうか。

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もっと知りたいあなたへ

飛騨高山観光公式サイト「飛騨高山旅ガイド」
https://www.hidatakayama.or.jp/

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