紅葉に染まる名古屋城~金鯱が見守る400年の歴史~

名古屋駅からもほど近い愛知県の中心部に位置する名古屋城。天守にそびえる金の鯱(しゃちほこ、鯱鉾とも書くことがある)が印象的に輝く日本三名城の一つです。周辺には武家屋敷跡や美術館、なごやめしを楽しめる飲食店も多く、城下町散策と合わせて楽しめる人気の観光スポットとなっています。
そして、秋は名古屋城の観光にもっともおすすめのシーズンです。天守閣を背景に色づく紅葉が城内を鮮やかに彩り、歴史的な建造物と自然美が一度に楽しめます。今回は名古屋城の歴史を紐解きながら、その魅力に改めて迫ってみましょう。
徳川の威信が築いた城〜名古屋城の誕生と栄華〜

名古屋城の歴史は400年以上も前に遡ります。徳川家康の命により1610年(慶長15年)に築城が開始され、尾張徳川家の居城として十六代、およそ260年にわたり栄華を極めました。西国大名に対する監視と軍事拠点としてはもちろんのこと、徳川家の富と権力を示す目的もあり威信をかけて作ったといわれる名古屋城には、当時の最先端技術が結集されています。
五層五階の天守は史上最大級で、最新形式の層塔型。狩野派の絵師による障壁画や豪華な飾金具などをしつらえた本丸御殿は、武家風書院造の代表的な建築とされています。隅櫓ひとつをとっても他の城郭の天守に匹敵するほど巨大なものであり、広大な二之丸庭園、高い石垣と深い堀、堅固で巧妙な縄張などを備え、近世城郭の完成形といえるものでした。
江戸幕府の終焉後は陸軍省、宮内省、名古屋市と管理者が移りますが、その文化的な価値は、継承すべきものとして大切に守られてきました。しかし、1945年(昭和20年)の太平洋戦争下における名古屋大空襲により、本丸御殿や天守を含むほとんどの建造物が消失してしまいます。
その後、天守は名古屋市民の多大な寄附により、1959年(昭和34年)に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建され、その姿を取り戻しました。そして現在、再建から60年以上が経ち、設備の老朽化や耐震性の問題も出てきているため、築城時と同じ木造での復元を目指すべく、新たな計画が進められています。
名古屋城といえば!天守にそびえる金鯱

名古屋城のシンボルといえば、天守にそびえる金の鯱(しゃちほこ)。鯱とは身体は魚で頭は龍(あるいは虎)、尾ひれは常に空を向き、背中には幾重もの鋭いとげを持っているという想像上の動物のことです。火除けや魔除けとして屋根の両端に付けられる装飾ですが、これを純金で作ることで当時の尾張藩は富と権力を示していました。尾張藩が財政難を迎えるたびに改鋳を行って金純度を下げ、最後には光沢が鈍ってしまったともいわれています。
長きにわたり名古屋城を守ってきた金鯱も、太平洋戦争の空襲で天守閣もろとも焼失してしまいましたが、名古屋の人々の熱意により復元され、現在は2代目の金鯱が再建された天守の頂で再び輝いています。
ちなみにこの金鯱、雄(北側)と雌(南側)の一対で、雄の方が少し大きく作られています。体を覆う金の鱗は雌の方が多く、きらびやかに演出されているのも特徴です。大きさは一体約2.6メートル、重さは1200キロを越えます。金箔で覆われているため、秋の晴れた日には青空に金色が映え、紅葉の赤や黄金色のイチョウと見事なコントラストを作ります。その豪華さと存在感は圧倒的で、思わず立ち止まって見上げてしまうほどです。
本丸御殿の今に伝える建築美―藩主の暮らしと美を体感

名古屋城を訪れたら必ず見ておきたいのが本丸御殿。名古屋城の文化的価値を象徴する建物のひとつです。戦災での消失後、2018年に第一級の史料をもとに往時の姿を忠実に復元した本丸御殿は、建物内を順路に沿って見学でき、藩主の生活空間や接客空間を実際に体感できます。武家風書院造という建築様式で、奥に進むほど部屋が豪華になっていくのが特徴です。
本丸御殿の見どころは何といっても、豪華絢爛な障壁画と精巧な欄間彫刻です。襖絵には松竹梅や花鳥風月が描かれ、藩主の威厳と文化的センスを感じさせます。金箔や漆を用いた装飾は、光の加減で表情を変え、訪れる人の目を楽しませます。特に上段の間に描かれた金箔をふんだんに使った障壁画は、藩主が来客に見せたかった華やかさの象徴といわれています。欄間や天井の彫刻も見逃せません。建物の各所に施されたこうした細工は、江戸時代の職人技の高さを今に伝えています。
広々とした座敷や豪華な装飾を間近で見ると、「当時の藩主は、この空間でどのように政務や接客を行っていたのだろう」と自然と想像が広がります。建物全体から感じられる威厳や格式は、静かで重厚な感動を与えてくれます。襖絵や彫刻の細部を自分の目で確かめられるこの場所は、建築や美術に興味ある方だけではなく、歴史や文化を感じたい方にとっても、非常に魅力的なスポットです。
秋色に染まる名勝二之丸庭園—藩主が愛した風景

名古屋城二之丸庭園は、歴代藩主が公私にわたって過ごした二之丸御殿の北側にあります。面積は約3万㎡に及び、藩主が居住した城内御殿の庭園としては日本一の規模です。豪壮な石組みや急峻な地形を表現した北御庭と前庭は、1953年(昭和28年)に名勝に指定されました。その後の発掘調査で、江戸時代後期の価値ある遺構が地下に残されていることがわかり、2018年(平成30年)に庭園のほぼ全域が名勝として追加指定されました。
名古屋城の秋を象徴する場所のひとつで、池に映る赤や橙の紅葉は、水面に揺れる姿も含めてまるで一幅の絵のようで、思わず時間を忘れて見入ってしまいます。外堀沿いのイチョウ並木は黄金色に輝き、歩くたびに葉がかさかさと音を立て、黄色い絨毯のように敷き詰められた道を散策でき、秋の訪れを肌で感じられます。庭園内の小道を散策しながら、歴史ある城と自然の美しさが織りなす風景をゆっくりと楽しむのも、この季節ならではの醍醐味です。
ライトアップと美食が彩る金シャチ横丁

2018年、名古屋城とその周辺地域の魅力アップのため名古屋城の正門・東門横に作られた「金シャチ横丁」。定番の老舗なごやめしと新風感じる気鋭のなごやめし、そのどちらも楽しめる新たなグルメスポットです。
そしてこの金シャチ横丁、昼間の賑わいも魅力的ですが、夜になるとまた違った表情を見せてくれます。夕暮れとともに柔らかな灯りがともり、江戸情緒を感じさせる建物が温かく照らされます。名古屋のご当地グルメはもちろん、デザートが楽しめるカフェもあり、昼間よりも落ち着いた空気の中、ゆっくりと味わえるのが夜ならではの魅力です。
ライトアップされた名古屋城の天守閣を背景に歩くとそこはさながら名古屋城の城下町の風景。城の白壁と金の鯱が闇に浮かび上がり、まるで時代を超えて旅しているような感覚になりますよ。
秋の名古屋城で、時を超える旅を
名古屋城の秋は、ただ美しいだけではありません。歴史の重みと自然の彩りが重なり合い、訪れる人の心に静かな感動を残します。金鯱が輝く天守を見上げ、色づく庭園を歩きながら、ふと遠い時代に思いを馳せる——そんなひとときを過ごせるのが、秋の名古屋城です。今年の秋は、名古屋城で「時間を旅する」体験をしてみませんか。
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もっと知りたいあなたへ
名古屋城公式ウェブサイト
https://www.nagoyajo.city.nagoya.jp/
愛知県の公式観光サイト 「Aichi Now」
https://aichinow.pref.aichi.jp/spots/detail/17/
名古屋市公式観光情報 「名古屋コンシェルジュ」
https://www.nagoya-info.jp/spot/detail/1/
金シャチ横丁
https://kinshachi-yokocho.com/