2025.6.18

地域を編む、未来を織る〜大分県・別府市、竹細工をコアにした地方創生〜

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温泉地として知られる大分県別府市。しかしこの地には、もう一つ世界に誇る伝統があります。それが「別府の竹細工」。日本書紀にも記載があるほどの歴史を持ち、伝統工芸として発展してきたこの技術は、今、地域の産業として新たな役割を担い、地方創生の柱の一つとして注目されています。

豊かな自然と竹文化の土壌

別府の竹細工の歴史は江戸時代後期にさかのぼります。別府周辺には真竹が豊富に自生しており、古くから農具や生活道具の材料として利用されてきました。とりわけ温泉地として湯治客を多く迎える中で、滞在中の炊飯や食事で活躍する台所用品などとして使われた竹細工は、その後、土産物の竹製品として需要が高まり、竹籠や花器、ざるなどが多く作られるようになります。

明治時代になると、職人による手仕事が洗練され、美術工芸品としての側面も強まりました。日常品としての竹細工の枠を超え、優れた竹工芸の産地としての地位を確立した別府には、今日までその技術と精神が受け継がれています。

教育機関と人材育成の基盤

竹細工作業(竹細工作業を行う職人の手元画像)

1902年(明治35年)には、竹工芸の人材育成と技術継承を目的とした別府浜脇両町学校組合立工業徒弟学校(現:大分県立大分工業高校の前身)が設立され、全国から多くの職人が集まり、現在に至る細工技術の基礎がこのころに固められていったようです。そして、大分・別府の地場産業として発展していくことになります。

1938年(昭和13年)には大分県立工業試験場別府工芸指導所が開所。さらに翌年には大分県傷い軍人職業再教育所(現:大分県立竹工芸訓練センターの前身)が大分県により設立されました。

訓練センターは現在の職業能力開発促進法に基づき設置された「職業能力開発校」です。全国でも唯一の、竹工芸を専門に教える公的教育機関として2年間の職業訓練を受けることができ、これまでに多くの熟練工芸士を輩出しているのです。

訓練センターでは、伝統技法だけでなく、デザインや商品開発の視点も取り入れた教育が行われており、若い世代が地域に根づいた技術を学び、職人として歩む道を支えています。

卓越した職人たちと文化的価値

高度成長期、安価なプラスチック製品が爆発的に普及したことで、別府の竹細工も一時は存続の危機に直面します。しかし高度な技術を誇る職人たちは、高級竹工芸品への転換を図り、この困難を乗り越えました。

その結果、別府は日用品とは一線を画す、芸術性の高い竹工芸の産地として、さらに広く知られるようになったのです。たとえば、竹工芸界で初めて重要無形文化財保持者(いわゆる「人間国宝」)に認定された生野 祥雲斎(しょうの しょううんさい:1959年認定、1904年-1974年)は、別府を拠点に活動しました。

職人たちは、竹を「編む」行為を超えて、立体芸術としての境地にまで高め、日本国内外に大きな影響を与えました。

現代の竹細工と地域経済

商店の軒先に並ぶ竹細工(商店の軒先に並ぶ竹細工の画像)

近年では、竹細工の用途がインテリア、照明、アートオブジェ、アクセサリーなど多様化しています。伝統的な美しさと現代的な感性を融合させた作品づくりが進み、百貨店や海外の展示会でも高い評価を得ています。

地域の作家や若手職人たちによるブランドも立ち上がり、竹の素材としての軽やかさや柔軟性を生かした商品が全国で流通しています。また、別府市内には竹工芸品の販売店やギャラリー、工房が点在しており、観光と地場産業を結びつける拠点となっています。

現代では、油布 昌伯(ゆふ しょうはく)、清水 貴之(しみず たかゆき)といった海外でも高い評価を受ける作家や、訓練センター出身の、さとう みきこ、一木 律子(いちき りつこ)などファッショナブルな作品を作る人たちも注目されています。また、JR別府駅前のオブジェで知られるこじま ちから、農家民泊なども手がける三原 啓資(みはら けいすけ)も訓練センターの出身で、竹にまつわるユニークな活動をしています。

竹をいかしたまちづくりの実際

別府駅前の手湯の小屋(別府駅前手湯の竹細工ドームの画像)

別府では、竹細工産業を核にしたまちづくりの取り組みも行われています。

たとえば、別府市竹細工伝統産業会館を中心に「くらしの中の竹工芸展」やワークショップが多数開催され、市民が竹工芸に触れる機会が増えています。

さらに、放置竹林の整備と原材料の確保を目的とした地域連携も行われており、材料となる真竹を持続可能な形で供給する仕組みづくりが進められています。これは、竹工芸の存続にとって不可欠な環境整備でもあります。

また、別府市は、国の「伝統的工芸品産業支援補助金」などを活用し、若手職人の定住支援や販路開拓、ICT活用による情報発信にも取り組んでいます。特にオンライン販売やSNS活用は、若手作家を中心に加速しており、全国のファンとつながる大きな力となっています。

地方創生のモデルとしての竹文化

竹は成長が早く、持続可能な素材として世界的にも注目されています。別府の竹細工は、この竹という自然資源をいかした日本ならではのものづくり文化であり、環境配慮型産業のモデルとしての可能性も秘めています。

別府の竹細工は、過去からの技術を受け継ぐだけでなく、教育、観光、環境、デザインといった多方面と結びつくことで、地域に新たな価値を生み出しています。地域資源を再発見し、産業として再構築する。その営みこそが、これからの地方創生の一つの理想的な姿といえるのではないでしょうか。

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もっと知りたいあなたへ

別府市竹細工伝統産業会館
https://takezaikudensankaikan.jp/

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