「白い恋人」はなぜ北海道を代表する銘菓になったのか
ラング・ド・シャという洋菓子の技術が定着した背景と、徹底した品質管理の裏側
北海道土産といえば?と聞かれて、青と白のあのパッケージを思い浮かべる人は多いだろう。新千歳空港の土産物売り場を歩けば、必ず目に入る。サクッとした食感のクッキーに挟まれた、まろやかなホワイトチョコレート。シンプルなのに、なぜか記憶に残る味だ。
しかし、考えてみてほしい。北海道には他にも魅力的な銘菓が数多く存在する。六花亭のマルセイバターサンド、ロイズの生チョコレート、カルビーのじゃがポックル——どれも全国的に名が通っている。それなのに、なぜこの一品が、ここまで「北海道の顔」として君臨しているのか。そこには、偶然では片付けられない理由がある。
フランス菓子との出会いが生んだ一枚

物語の始まりは1970年代半ば。創業者がフランス菓子の「ラング・ド・シャ」に魅了されたことだったそうだ。フランス語で「猫の舌」を意味するこの焼き菓子は、薄く軽やかで、ヨーロッパではコーヒーや紅茶のお供として親しまれてきた。
ただ、当時の日本で、この繊細な食感を再現するのは簡単ではなかったらしい。薄く、均一に焼き上げる。それだけでも高い技術が要る。しかも、湿気の多い日本の気候では、サクサク感を保つのが難しいだろう。試作を重ね、北海道産のバターと小麦粉を使った独自のレシピにたどり着くまで、相当な試行錯誤があったはずだ。
そして生まれたのが、ラング・ド・シャでホワイトチョコレートを挟むという組み合わせ。当時としては、かなり大胆な発想だった。チョコレートサンドクッキーは珍しくなかったが、ホワイトチョコレートを使うという選択が、この菓子に独特の上品さを与えた。
商品名の由来も面白い。ある雪の夜、「白い恋人たちが降ってきたよ」という何気ない一言から生まれたという。北海道の白銀の世界と、恋人への贈り物というイメージが重なって、このロマンチックな名前が付いた。
観光ブームという追い風

この菓子が登場した1970年代後半は、日本人の旅行スタイルが変わり始めた時期だった。高度成長期を経て、ようやく余裕が生まれ観光が一般化していく。特に北海道は、広大な自然と涼しい気候が魅力で、本州からの観光客が急増していた。
それまでの北海道土産といえば、木彫りの熊、昆布、海産物が定番だった。でも、若い世代は、もっとモダンで洗練されたものを求めていた。そこに登場したのが、洋菓子という新しいカテゴリーだ。「北海道らしさ」は感じさせつつ、おしゃれで都会的。まさに、時代が求めていた土産物だった。
販路の広げ方も巧みだった。空港だけでなく、観光地の主要な土産店、百貨店、そして後には全国各地へと展開。どこに行っても買える環境を整えたことが、認知度を一気に押し上げた。旅行から帰った人が職場や学校で配る。それを食べた人が、今度は自分が北海道に行ったときに買う。こうして、ブランドが定着していった。
危機を乗り越えた品質への執念
順調に見えたこの菓子にも、大きな試練があった。2007年、賞味期限の改ざん問題が発覚し、全商品の回収と製造中止に追い込まれたのだ。築き上げた信頼が一夜にして崩れた。廃業を覚悟するほどの危機だった。
でも、ここで選んだのは逃げることではなく、徹底的に向き合うことだった。専門家を招き、製造工程を根本から見直した。賞味期限管理のシステム化、トレーサビリティの確立、従業員への再教育。できることは全部やった。
そして翌年、再び店頭に並んだとき、消費者の反応は意外だった。「おかえり」とあたたかく迎える人が多かったのだ。誠実に対応したことが、むしろブランドへの信頼を深めた。この復活劇は、単なる菓子を超えた、北海道のシンボルとしての地位を確かなものにした。
実は、この事件がきっかけで、製造現場の意識は劇的に変わったようだ。以前は「おいしいものを作る」ことが最優先だったが、今は「安全なものを作る」ことが大前提になっているときく。品質管理の担当者は、毎日何度も製造ラインを巡回し、温度、湿度、焼き色、厚さ、すべてをチェックする。少しでも基準から外れたものは、容赦なく廃棄される。
この厳しさは、消費者には見えない。でも、だからこそ、安心して食べられる。品質への執念が、ブランドを支えているのだ。
体験を売る~工場からテーマパークへ~
2019年、札幌市西区にある「白い恋人パーク」が大規模リニューアルされた。ここは、単なる工場見学施設ではない。製造工程を見学できるのはもちろん、自分だけのオリジナル商品を作れる体験工房、チョコレートラウンジ、イギリス風の庭園、そしてフォトスポットまで揃った、一大テーマパークだ。
特に人気なのが、お菓子作り体験。子どもも大人も自分の手でクッキーを焼き、チョコレートでデコレーションする。完成したものはその場で食べてもいいし、持ち帰ってもいい。製品を買うだけでなく、「作る」という体験を通じてブランドとの絆が生まれる。年間来場者数は100万人を超え、北海道観光の新たな定番スポットになった。訪れた人SNSで写真を投稿し、友人に勧める。こうしてパーク自体が強力なマーケティングツールになっている。
工場見学の途中で、ガラス越しに見える製造ラインは、まるでオーケストラのようだ。機械が正確にクッキーを焼き、チョコレートを塗り、サンドし、包装する。その一連の流れを見ていると、この菓子がどれだけ精密に作られているかがわかる。一枚一枚の厚さ、チョコレートの量、焼き色――すべてが計算されている。
そして、工場の奥には試作室があるそうだ。ここでは、日々新しいフレーバーやパッケージの開発が行われているのだとか。季節限定商品、コラボレーション商品。常に新しい驚きを提供し続けることが、ブランドを飽きさせない秘訣だ。
パッケージに込められた北海道

青と白のパッケージは、発売当初から大きく変わっていない。しかし、よく見ると少しずつ洗練されている。初期のデザインは素朴で親しみやすかったが、今はより高級感がある。ロゴの配置、フォント、色のグラデーション。細部にまでこだわり抜かれている。
このデザインが伝えているのは、北海道の雪景色と澄んだ空だ。青は空、白は雪。シンプルだけど、強烈に印象に残る。手に取ったとき、誰もが「北海道に行った」という実感を得られる。パッケージそのものが、旅の記憶を呼び起こす装置になっているのだ。
さらに、季節限定商品やコラボレーション商品も積極的に展開している。ブラックのバージョン、ホワイトデー限定パッケージ、さまざまなコラボ商品。常に新しい風を吹き込むことで、飽きられない工夫をしている。
なぜ、この一品だけが特別なのか
ここまで見てきたように、この菓子が北海道を代表する存在になった理由は一つではない。洋菓子技術の確立、観光ブームとのタイミング、品質への徹底したこだわり、体験価値の提供、そしてデザインの力。これらすべてが重なって、今の地位を築いた。
しかし、最も重要なのは「北海道らしさ」を見事に体現している点だろう。白い雪、広大な大地、クリーンで爽やかなイメージ。この菓子は、北海道という土地が持つ魅力を一枚のクッキーに凝縮している。だから、人はこれを手に取るとき、北海道の風景を思い出す。
そしてその裏には、品質を妥協しない職人の姿勢と常に挑戦を続ける企業文化がある。この菓子は、単なる「売れる土産物」ではない。北海道の誇りであり、訪れた人々の記憶に残る特別な存在なのだ。
【購入・体験情報】
- 購入場所:新千歳空港、札幌市内主要土産店、全国百貨店、オンラインショップ
- 白い恋人パーク:札幌市西区宮の沢(地下鉄東西線「宮の沢駅」徒歩7分)
- 営業時間:10:00〜17:00(季節により変動)
- 入館料:大人800円、中学生以下600円(工場見学・体験工房含む)
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本記事は筆者の見解・体験に基づくものであり、一部一般的な情報や公開資料を参考にしています。