「さんふらわあ」が紡ぐ新たな船旅・フェリーでの移動時間が贅沢な滞在経験に
幼い記憶とともに始まる船旅
大分県の祖母の家に年に数回帰省する我が家は、東京から大阪までは車で移動し、そこからはマイカーごとフェリーに乗り込むのが定番コース。フェリーの乗船場所である大阪南港のターミナルで大きな太陽のマークが入った「さんふらわあ」を目にすると、毎回、胸の奥が静かに高鳴ります。
幼い頃、夜の港で初めて見上げた巨大な船は、海に浮かぶ街のように輝いていました。甲板から眺める灯りのきらめきや、出港の瞬間に胸を満たすワクワク感。その記憶は今も鮮やかに残っています。
大人になった今も、そのときめきは変わりません。出航を告げる銅鑼の音が船内に響くたび、子どもの頃に抱いた小さな冒険心が静かによみがえり、胸が踊るのです。そして大きな船に身をゆだね、海上へと漕ぎ出すと、時間の流れそのものがゆるやかにほどけていくように感じられます。幼い頃に抱いたあの非日常の感覚は、大人になった今では「日常の時間から切り離された豊かな余白」として、心に深く響いてきます。
くれない・むらさきが描く、新しい船旅のかたち
大阪商船株式会社(現:株式会社商船三井さんふらわあ)が1912年に開設した阪神~別府航路は、日本で最も長い歴史をもつ国内長距離海上航路のひとつです。高度成長期には、同じ航路に就航した大型客船「三代目くれない丸」が、当時としては画期的な設備やサービスを備え、優雅な船体デザインも相まって「瀬戸内の貴婦人」と称されました。その後に登場した「初代さんふらわあ」は、海上のリゾートホテルとして多くの人々に親しまれ、高い人気を誇りました。

そして2023年、時代をつなぐように「さんふらわあ くれない」と「さんふらわあ むらさき」が新造船として装いも新たに誕生しました。洗練されたデザインの船内もさることながら、日本で初めてLNG(液化天然ガス)を燃料に使う長距離フェリーとして、環境にもやさしい新しい航海を実現しています。SOx(硫黄酸化物)はほぼゼロ、NOx(窒素酸化物)は約85%削減、CO₂もおよそ25%減。その数字が示す通り、未来への一歩を感じる船です。
実際に乗ってみると、まず驚くのはその静けさ。エンジンの振動が驚くほど静かで、まるで海の上に浮かぶホテルの中にいるような、やわらかな時間が流れていきます。
船内で広がる、豊かな時間
くれない・むらさきの魅力は、「移動」ではなく「滞在」としての心地よさにあります。客室は、家族でゆったり過ごせるオーシャンビューの個室から、ひとり旅にもうれしいプライベートベッドまでさまざま。一番お手頃な客室でも、テレビやコンセント、やわらかな寝具が整っていて驚くほど快適です。私もこれまでいくつかの種類の客室に泊まりましたが、どの部屋でもぐっすり眠れました。
大阪南港の出航から一時間程、夜のデッキに立てば、光り輝く明石海峡大橋が頭上に広がり、その迫力に思わず息をのむ瞬間を迎えます。海風に包まれながら見上げる明石海峡大橋は、陸から眺めるのとはまた違った壮大さを感じさせてくれます。巨大な橋を船がくぐり抜ける瞬間は、まさに圧巻。乗客たちがデッキに集まり、感動を共有する光景も船旅ならではの醍醐味です。
大浴場は、船の上とは思えないほどゆったりとした広さ。沈む夕日を眺めながら湯に浸かると、波に身を委ねるような心地よさに包まれます。一日の疲れがじんわりと溶けていくようで、思わず長湯してしまいます。なかでも朝の大浴場から見る海は格別で、朝日に照らされた水面のきらめきが、一日の始まりをやさしく祝福してくれます。
夕食は船内ビュッフェで。名物の「さんふらわあカレー」をはじめ、大分の郷土料理であるとり天やりゅうきゅう(アジ、サバ、ブリ、カンパチなどの新鮮な魚の切り身を、醤油、酒、みりん、ごまなどで作った甘辛いたれに漬け込んだもの)、香川のうどんなど、瀬戸内海航路ならではの味覚が並びます。どの料理も船の上とは思えないほど本格的で、特にお刺身の新鮮さには毎回驚かされます。流れる夜景を眺めながら食事をすれば、移動中の食事も特別な晩餐へと変わります。
そして私がひそかに心弾ませているのが、船内ショップでのひとときです。大阪から九州までの名品がこだわりを感じるセレクトで並び、どれを手に取っても魅力的。選ぶ時間そのものが、旅のワクワクを感じさせてくれます。お酒やスイーツを部屋に持ち帰り、ゆったりとした夜を過ごすのもおすすめ。さらに、ここでしか手に入らない限定グッズも多く、旅の記念にもぴったりです。
最後に迎えるのが、波にきらめく朝日。大浴場や朝食ビュッフェからも楽しめますが、デッキから眺める景色はやはり別格です。
そして船は泉都・別府へ。海の上から陸を見ると、扇山が堂々とそびえ、湯けむりがふわりと立ちのぼります。「これぞ温泉地!」と思わず声に出したくなるような光景に、旅の期待が一気にふくらみます。
細部に宿る、ものづくりの精神

くれない・むらさきの船内には、地域の伝統工芸がそっと息づいています。船内中央にある階段の欄干には別府竹細工の文様、絨毯には大分の県花・豊後梅の柄。パブリックスペースのソファは、よく見ると船の形をしていて遊び心を感じます。どの意匠も単なる装飾ではなく、「土地と船をつなぐ物語」を感じさせるデザインです。
夜になると、パブリックスペースの天井いっぱいにプロジェクションマッピングが映し出されます。上映されるのは、ドローンで撮影された「船内ツアー」。普段は入ることのできない操舵室やエンジンルームの様子が映り、画面の向こうで手を振る船長や乗務員の姿に、自然と笑みがこぼれます。船を支える人たちの存在を近くに感じられるこの時間が、船内全体をあたたかな空気で包んでくれます。
誰にでもやさしい設計
くれない・むらさきは、誰にとってもやさしい船として設計されています。小さな子ども連れでも安心して利用できるベビーケアルームやキッズコーナー、そしてバリアフリー対応の客室まで完備。車いすのまま利用できる部屋もあり、どんな人でも安心して快適に過ごせるよう、細やかな配慮が行き届いています。
長距離フェリーとしては初となる「コネクティングルーム」も登場しました。和室と洋室を繋げた2つの客室は、家族三世代やグループ旅行にぴったりです。部屋の行き来ができる安心感や、一緒に過ごす時間のあたたかさが、旅そのものをより豊かなものにしてくれます。

さらに、愛犬と一緒に船旅を楽しめる「ウィズペットルーム」も用意されています。客室内でペットと一緒に過ごせるほか、船内には専用のドッグランも設けられており、海風を感じながらペットがのびのびとリフレッシュできます。家族の一員として安心して航海を楽しめるのも、この船ならではの魅力です。
車もそのまま乗船できるため、愛車と旅を楽しみたい方やライダー、サイクリストにも人気です。「海を渡るもうひとつの道」として、自分らしい旅のスタイルを叶えてくれる存在となっています。
移動ではなく、体験としての船旅
さんふらわあは、ただの移動手段ではなく、「時間を味わう旅」を叶えてくれる存在です。100年を超える大阪~別府航路の歴史と、最新の快適さ、そして人にも環境にもやさしい設計。そのすべてが調和し、海の上でしか出会えない特別な体験を生み出しています。効率が求められる今の時代にあって、さんふらわあは「ゆっくりと時間を過ごすことの豊かさ」を思い出させてくれる船なのです。
限られた空間の中で過ごすひとときには、海とつながる開放感や、波に身を任せるような安心感があります。限られた空間の中で過ごすひとときではありながらも、海とつながる開放感を味わい、最新の設備に守られながら波の揺らぎを楽しめる安心感があります。小さな子どもからお年寄り、そしてペットまでもが快適に過ごせるやさしい設計は、誰にとっても心地よい時間をもたらします。そして、いつもの友人や家族と語り合う時間も、ひとり静かに思いを巡らせるひとときも、海の上だからこそ生まれるものがあります。静かな時間が、ふだん気付けなかった気持ちをそっと引き出してくれるのです。
何より、時間に追われないからこそ感じられる「急がない贅沢」がそこにはあります。夜明けに広がる海の光、波間に揺られて眠る心地よさ――その一瞬一瞬は、旅が終わってからも心の奥に静かに残り続けます。思い出すたびに、また乗りたいと思うのがその証拠でしょう。
次に九州への旅を計画するときは、ぜひ「さんふらわあ」という選択肢を思い出してみてください。きっと、新しい旅の魅力と、忘れられない時間に出会えるはずです。
そして、このコラムをきっかけに、株式会社商船三井さんふらわあで活躍されている皆さまに直接お話を伺う機会をいただきました。特集記事は近日公開予定ですので、お楽しみに!
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もっと知りたいあなたへ
商船三井さんふらわあ 関西↔九州航路
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商船三井さんふらわあ くれない・むらさき 特設サイト
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