宮島・厳島神社と紅葉谷、深まる秋の彩りを求めて歩く山陽ひとり旅
海に浮かぶ神の島、宮島の魅力
瀬戸内海の穏やかな海面に浮かぶ厳島(いつくしま)は、古来より「神の島」として崇められてきました。島全体が神聖な場所とされ、「神を斎(いつ)き祀(まつ)る島」から「厳島」と呼ばれるようになったといわれています。現在は厳島神社のある島という意味で「宮島(みやじま)」と呼ばれることが一般的です。
推古天皇元年(593年)に創建された厳島神社は、「陸地では畏れ多い」という深い信仰心から、潮の満ち引きする海上に建てられたといわれています。フェリーが島に近づくにつれて、海上に立つ朱色の大鳥居が徐々に大きくなっていく光景は、初めて訪れる人の心を強く揺さぶります。
秋の宮島は一年で最も美しい季節といっても過言ではありません。朱色に輝く大鳥居と社殿の美しさに、山々を彩る紅葉が加わることで、海と山が織りなす絶景が完成するのです。海風に乗って運ばれる潮の香りと、山から漂う紅葉の甘いような香りが混じり合う空気は、この時期の宮島でしか味わえない特別なものです。
世界遺産・厳島神社の秋の表情

1996年に世界文化遺産に登録された厳島神社は、秋になると一層神秘的な姿を見せます。海上に建つ寝殿造りの社殿群は、国宝・重要文化財の建造物17棟3基をはじめ、美術工芸品55点など約260点もの文化財を有する、まさに日本文化の宝庫といえるのです。
朝の静寂な時間帯に訪れると、海面に映る社殿の影が揺らめき、まるで水鏡に映った楼閣のような幻想的な光景に出会えます。東廻廊45間、西廻廊62間、総延長約260メートルにも及ぶ朱塗りの廻廊は、秋の陽光を受けて一層美しく輝いています。廻廊を歩く足音が静寂を破ると、釣り下げられた青銅製の灯籠が微かに揺れ、平安の昔を偲ばせる雅な雰囲気を醸し出します。
廻廊の床板には釘が一本も使われていません。板と板の間に設けられた隙間は、高潮時の波のエネルギーを減らし、廻廊に上がった海水を流す巧妙な仕組みになっています。このいにしえの知恵は、台風や高潮といった自然の脅威から神社を守り続けて800年以上、今なお機能し続けているのです。
潮が満ちた時の海上に浮かぶ社殿の美しさは格別ですが、潮が引いた時には大鳥居まで歩いて行くことができ、その巨大さを間近で感じることができます。高さ16メートル、重量約60トンの楠の木で作られた鳥居は、近くで見上げればその圧倒的な存在感に言葉を失うほど。秋の透き通った空気の中で見る厳島神社は、四季を通じて最も荘厳で、心に深く刻まれる印象を与えてくれます。
紅葉谷公園、700本の紅葉が織りなす絢爛

厳島神社から表参道商店街を通り抜け、徒歩で約20分ほどの場所にある紅葉谷(もみじだに)公園は、宮島随一の紅葉スポットとして知られています。弥山(みせん)原始林の麓に位置するこの公園には、約700本もの紅葉が計画的に植えられ、まさに自然と人工が調和した美しい景観を作り出しています。
その内訳は実に多彩ですが、イロハカエデが約560本と圧倒的に多く、次にオオモミジが約100本、その他ウリハダカエデやヤマモミジなど約40本が植えられているそう。それぞれの木々が異なる色彩を見せるため、公園全体が赤、橙、黄色のグラデーションで彩られる様子は、まさに自然が描いた巨大な絵画のような風景が広がります。
公園の入り口にかかる赤い紅葉橋は、宮島の紅葉を語る上で欠かせないシンボルです。橋の朱色と紅葉の赤や黄色が織りなすコントラストは、訪れる人々の心を奪って離しません。橋の上から見下ろす紅葉谷川のせせらぎと、川面に散った紅葉の葉が作り出す風景は、日本の秋の美しさを凝縮したような光景です。
また、期間限定で行われるライトアップでは、昼間とは全く異なる幻想的な紅葉の世界を楽しむことができます。
歴史が刻まれた庭園砂防の美学
公園の奥には、「紅葉谷川庭園砂防」と呼ばれる重要文化財があります。昭和20年の枕崎台風による大災害の復旧工事として建設されたこの施設は、戦後復興期の日本人の美意識と技術力を物語る貴重な遺産です。
復旧工事では「巨石は野面のまま使用する」「樹木は切らない」「現地の石材のみを使用する」など、自然との調和を重視した方針が貫かれました。戦後間もない物資不足の時代に、これほど美意識の高い工事が行われたことは、驚嘆すべきであり、それゆえに必見の場所といえます。
庭園砂防は現在においても治水機能を果たしながら、自然の巨石を巧みに組み合わせた美しい景観を保ち続けています。紅葉の季節には特に美しく、工事に携わった人々の情熱と技術が生み出した芸術作品として、多くの人々に感動を与え続けているのです。
弥山から望む瀬戸内海の多島美

宮島の最高峰である弥山は、宮島ロープウェイを利用することで誰でも気軽にアクセスできる絶景スポット。麓の紅葉谷駅から榧谷(かやたに)駅を経由し、頂上である獅子岩(ししいわ)駅まで約15分の空中散歩は、それ自体が素晴らしい観光体験となるに違いありません。
ロープウェイの窓から見下ろす景色は刻々と変化します。出発直後は眼下に紅葉谷公園の美しい紅葉が広がり、高度を上げるにつれて厳島神社の全景、そして瀬戸内海に浮かぶ島々が姿を現します。秋の澄んだ空気の中では、遠く四国の山並みまで見通すことができ、瀬戸内海の雄大な自然を実感できます。
獅子岩駅からさらに山頂展望台まで歩くこと約30分、そこに広がるのは360度の大パノラマです。足元には先ほどまでいた紅葉谷公園や厳島神社が小さく見え、眼前にはロープウェイで見たものよりもさらに多くの瀬戸内海の美観が限りなく広がります。晴れた日には、広島市街地、四国連山、そして遠く九州の山々まで見渡すことができ、まさに西日本の地理を一望できる絶景ポイントとなっています。
初代内閣総理大臣の伊藤博文が「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と絶賛したこの景色は、訪れる人々の心に現在に至るまで深い感動を与え続けています。特に秋の夕暮れ時、西日を受けて金色に輝く海面と、シルエットになって浮かび上がる島々の美しさは、一生忘れることのできない光景となるはずです。
秋の宮島を彩る食と文化

紅葉狩りの合間には、宮島ならではのグルメも大きな楽しみの一つ。表参道商店街では、焼きたての「もみじ饅頭」の香ばしい香りが漂い、歩く人々の食欲をそそります。伝統的なこし餡だけでなく、チーズなど現代的なフレーバーも豊富に揃っており、食べ比べも楽しめます。
さらに、瀬戸内海の恵みを活かした料理も見逃せません。宮島の牡蠣は身が大きく濃厚な味わいで知られ、焼き牡蠣、牡蠣フライ、牡蠣の土手鍋など、様々な調理法で楽しむことができます。また、穴子飯は宮島の代表的な郷土料理で、ふっくらと焼き上げられた穴子と秘伝のタレが絶妙にマッチした逸品。名店と呼ばれる店が複数あるので、お気に入りを見つけてみるのも良いですね。
秋の宮島では、厳島神社で奉納される舞楽(ぶがく)も見どころの一つ。平清盛が四天王寺から移した舞楽は、820年以上の歴史を持ち、現在でも蘭陵王(らんりょうおう)、振鉾(えんぶ)、萬歳楽(まんざいらく)、延喜楽(えんぎらく)、太平楽(たいへいらく)、抜頭(ばとう)などが国宝の高舞台で舞われます。朱塗りの社殿を背景に、雅楽の調べに合わせて舞われる舞楽は、平安時代の雅な文化を現代に伝える貴重な文化遺産です。
11月には真言宗御室派の大本山である大聖院(だいしょういん)で「紅もみじライトアップ」が開催されます。境内の紅葉が幻想的にライトアップされ、昼間とは全く異なる神秘的な世界を楽しむことができます。
秋の宮島の歩き方
秋の宮島の旅路は、JR宮島口駅からフェリーで約10分の船旅から始まります。船上から見る大鳥居の迫力は、陸上からとは全く異なる感動を与えてくれるでしょう。フェリーのデッキに立ち、潮風を感じながら近づく神の島の姿は、旅の始まりにふさわしい特別な体験。
早朝の宮島は特におすすめです。観光客が少ない静寂な時間帯に厳島神社を参拝すると、神聖な雰囲気をより深く感じることができるというもの。朝日を受けて輝く社殿と大鳥居の美しさは、一日の中でも最も印象的な光景の一つなのです。
多くの観光客で賑わう秋の宮島ですが、平日や早朝、夕方の時間帯を狙えば、比較的ゆっくりと散策を楽しむことができます。特に夕方の時間帯は、西日に照らされた紅葉が一層美しく輝き、ロマンチックな雰囲気に包まれます。
海と山が織りなす自然の美しさ、千年以上の歴史が刻まれた文化遺産、そして季節ごとに表情を変える豊かな自然。秋の宮島は、これらすべてが調和した観光地です。穏やかな瀬戸内海と色とりどりの紅葉に包まれた宮島で、日本の秋の美しさを存分に味わってください。
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もっと知りたいあなたへ
一般社団法人宮島観光協会
https://www.miyajima.or.jp/
日本三景観光連絡協議会
https://nihonsankei.jp/miyajima.html
厳島神社 公式サイト
https://www.itsukushimajinja.jp/
広島県公式公式ホームページ
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/lab/topics/20210210/01/