Sillage(シヤージュ)~白金に漂う、香りの余韻をたたえるフレンチ~
東京都港区・白金高輪の駅からわずか1分という立地に、新しく誕生したフレンチレストラン「Sillage(シヤージュ)」——木目を基調としたナチュラルな店内には、南仏を思わせる花々の装飾が彩りを添えています。店名は、フランス語で「香りの余韻」を意味するそう。都市の喧騒を忘れさせる穏やかな空気の中で記憶に残る香り高い料理とは?

通り過ぎたあとにかすかに残る香りのように、記憶に残る料理とは、余韻が残り、共に食事をした誰かとの会話とともに、記憶が静かに漂うもの——。そんな想いから生まれたこのレストランでは、香りそのものを設計するような料理が提供される。
モダンフレンチの世界で腕を磨いてきたシェフ 宗定和輝氏

シェフとして腕をふるうのは、宗定和輝(むねさだかずき)氏。神戸北野ホテルでクラシックを学び、南仏ニームの一つ星レストランで研鑽を積んだのち、東京の「L’ARGENT(ラルジャン)」でモダンフレンチの世界で腕を磨いた若き才能だ。
宗定シェフが大切にしているのは、「発酵と旬」。フランス料理の技法をベースにしながらも、素材には日本の旬の食材を用い、発酵など日本でも馴染みのある要素を取り入れたもの。口当たりも軽やかで、発酵や熟成を重ねた食材は、本来の素材そのものの何倍にもうまみが増し、深い味わいに仕上がっている。
季節によって変わるコースメニュー

例えば、その真骨頂ともいえる、自家発酵させた舞茸を使った5種のキノコ料理は、一口ごとに、酸味とうまみの層が静かに広がり、秋らしい森の香りが立ち上がる。時間の中で生まれる発酵の深みが、フレンチの精緻な構成に新しい陰影を与えている。
岡山の契約農家から届く無農薬野菜とエディブルフラワーは、皿の中で息を吹き返し、季節料理に彩りを加え、目にも香りにも季節を感じさせてくれる。

香ばしく焼き上げられた甘鯛のうろこは、パリッと軽やかな食感が心地よく、ふっくらとした身の甘みを引き立てる。ソテーしたカブのやわらかな甘さとともに、秋らしく飾られた菊が皿を華やかに彩る。
ソースにはジュラ地方のヴァン・ジョーヌが用いられ、ペアリングにも同じワインが登場。はちみつのように芳醇で、ほのかにナッツを思わせる香りが料理と溶け合い、白身魚の繊細な旨みを一層際立たせる。
料理とワインが織りなす計算された調和に、シェフの精緻な感性が光る。
※コースの料理は季節によって変更

毎日手作りされる自家製のカンパーニュはシェフこだわりの一品。ディナーコースの中でも一品としてリストされている。北海道産「キタノカオリ」とルヴァン種を使い、外はカリッと香ばしく、中はしっとりとやわらか。丁寧に仕立てられた各料理のソースを受け止めるように、シンプルながらも記憶に残る味わいだ。
添えられたペーストは、発酵させた規格外野菜の人参から作られたもの。自然の甘みとは思えないほどまろやかで、環境への想いまでもがそっと感じられる。

香り高いパンと、最後に供されるフィナンシェもまた、自家製のもの。熱い焼き型のまま供されるフィナンシェは、パティシエたちとも議論を重ね、シェフが納得するまで試作を重ねてできた自信作。
料理だけではない。ナチュラルワインを中心に揃えられたグラスの一杯にも、土地と人の記憶が息づく。「香り」「時間」「記憶」という三つの要素が、空間全体でひとつの体験を構成しているのだ。
未来系洋菓子店の躍進とは
このレストランの運営母体は、日本発のショコラブランド「ベルアメール」などを展開するジェイ・ワークス株式会社。
素材、技術、デザイン——そのすべてにクラフトマンシップを貫いてきた企業だ。
大平直(おおひらなお)社長は、ニューヨーク、フランス、シンガポールで学び、大手弁護士事務所からファミリービジネスの高級洋菓子事業へと転身した異色の経営者である。先代の父が掲げた「ものづくりで人々を笑顔にする」という理念を受け継ぎ、法律的な視点と自身の感性を踏襲し、企業の舵を取ってきた。
同社のシグネチャーブランド「ベルアメール」は、2003年に代官山で誕生したショコラ専門店。現在では全国の百貨店を中心に19店舗を展開している。

2015年には京都・三条の町家を改装し、日本の素材や美しさ、京都という町の魅力に焦点を当てた新ブランドの店舗をオープンした。枡に見立てたショコラに、京都の酒米を使用した日本酒をはじめとした厳選素材のジュレを流し込んで作る「瑞穂のしずく」などのスイーツを開発し、和の伝統素材と洋菓子技術を融合させた独自のスタイルを築いた。店内の佇まいから味わい、包装デザインに至るまで、「京都らしさ」とモダンな遊び心が息づいており、今では海外から訪れる客にも人気を集めている。
さらに2023年には、西鎌倉の老舗洋菓子店「レ・シュー」の経営権を引き継ぎ、事業承継を実現。地域に根ざし、長く愛されてきた店の趣や味わいを守りながら、ジェイ・ワークスが培ってきた経営力、商品開発力、パッケージデザインやPR力といった多方面の強みを融合。地域とのつながりを大切にしつつ、伝統を次世代へと継ぐ新しい展開を見せている。
ベルアメールの発展、そしてレ・シューの継承に象徴されるように、その歩みの背景には、グローバルな視野とクラフトの精神を併せ持つ大平社長の信念とそれを支える職人たちの情熱があるのだろう。

「Sillage(シヤージュ)」のプロジェクトは、ジェイ・ワークスの新しい挑戦の中でも、独立した創造の場として誕生した。シェフ 宗定氏が中心となり、日々の発想と対話から次々と新しい料理やアイデアが生まれている。人をつなぎ、笑顔にする、そんなものづくりの力を体現するようなSillageの挑戦もまた、大平社長の言う「見えない海を航海するような創造」の一章といえる。職人たちの技術とアイデアに寄り添って共に育てながら、一見遠くにあるものを結び合わせ、新たな価値を生み出す力こそ、彼が信じる「クラフトの原点」なのかもしれない。
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もっと知りたいあなたへ
Sillage(シヤージュ)
https://www.sillage-shirokane.jp/
ジェイ・ワークス株式会社
https://www.j-works-net.co.jp/