実用ではなくロマン。コンパクトに完結する日本らしさとおにぎりの関係

おにぎり、塩だけのおにぎりがなんであんなにおいしいのか
あらためて、おにぎりが好きだと実感している。おにぎりを自分で握るために、わざわざ重たい「ル・クルーゼ」の「ココット・ロンド」24センチを引っ張り出して米を研いで放り込み、火加減を調整する。大した銘柄のものを食べているわけではないが、それでもやっぱり炊き立ての白米というものは格別なものがある。
そんな炊き立てごはんを握り飯にする。少しまえに思い立って自分で大きめに塩にぎりを握ったのだが、これが殊のほかおいしくできて、ちょっと目から鱗が落ちる思いだった。少し冷まして後で食べると美味しさ倍増。ただの塩握りだというのに一体どんなメカニズムになっているのか。
白メシを茶碗によそって塩をかけるのではダメなのである。それがたとえ炊き立てであってもだ。おにぎりにするとなぜこんなに味が違って思えるのか。どうにも不思議なのだが、やはり握ってこそのおにぎり、ただのごはんとは違うのが握り飯なのだ。
甲府のアウトドアショップでの出会い
そんなおにぎり好きが惚れ込んだおもしろいギアがある。完全に一目惚れ、これにはまいった。これを考えて製品にした人の頭の中をのぞいてみたい。そんなことを思わせるプロダクト。それはつまり、プロダクトデザイナーの思う壺、ということだろう。どこから始まってこの製品に至ったのだろう。まったくおもしろい。

山梨県甲府市のアウトドアショップ「エルク」に立ち寄った。改めて実店舗の良さ、モノを自分の目で見て触って確かめてから買うという楽しさを再認識させてくれて、ありがたい。
セレクトもセンス良く、わたしが現物を見たいと思っていた製品がかなりの確率で扱われている。ツボにハマるというやつだ。「コールマン」も「ペンドルトン」もいいが、そういうモノじゃないガレージブランドに近いものや少量生産の小さなメーカーのものまで網羅されていてわくわくさせられる。
おにぎり好きアウトドアーズマンの最終兵器、現わる
ぐるぐると店内を回り、ちょっと素通りできないいくつかのアイテムをカゴに押し込んでいる最中にこれに出会った。「COVAN(コバーン)」という知らなかったブランド。
「RICE BALL CONTAINER」
おにぎり入れ。文字にしてみるとなんともいえないものがある。おにぎり入れである。うーん、なんておもしろい。おにぎり入れ。もう一度、声に出して言いたくなる。

たとえば製品としてこういうものがないわけではない。それこそ100円ショップでもプラスチックの安手のものが手に入る。そういうアイテムではあるが、そんなものの考え方や作りを真っ向から否定。ちょっとした狂気が見え隠れするような、大人が大人気なく本気で取り組んで、不必要なんだけどすごいものを作ってしまう。そういうところにぐっと引っ張られる人が買うプロダクト。
その変哲のない機能と、狂おしいまでのロマン
モノとしてはポリの本体にステンのフタ。そのフタはハンドルを展開して小さなシエラカップとして使うことができる。こういうトランスフォームとかに弱いのだ、男子は。直火、可である。

付属のストラップで蓋が開かないように結束できて、そのストラップのホールに折り畳みのスプーンがセットされている。これがまたいいのだ。柄が天然木を使っていて雰囲気ってものがある。カラビナが通るホールが本体についていて、D環などでバッグなどからスリングできるようになっているのもいい。おにぎりを1個ぶら下げて旅に出る、これはロマンなのだ。
なによりも、おにぎりの普遍的な形、三角形そのままを愚直に表現したシルエットにはグッときた。おにぎりが入っているのだ、ということを強く意識させてくるわけである。なんだかもうたまらない。
そもそもなぜおにぎりを1個だけ収納しようと思ったのだろう。洒落かもしれないし、削ぎ落とし尽くした末の決定かもしれない。そういう想像力を掻き立ててくれるものを自分で所有するというのがおもしろいのだ。
おにぎり一個とフタ部分のシエラカップで沸かしたお湯でインスタント味噌汁。これ、日本人の究極の食事ではなかろうか。そういう想像をさせることができる時点で、完全にこの企画を通した担当の勝ちである。
漬物を入れられる小さな小さなケースがストラップにつけられると完璧だ。これは自分で工夫しよう。
味噌汁と握り飯のみ。そこに日本人の食の原点がある
最近のアウトドアメシではメスティンを使って炊飯をする人が増えている。もちろん炊き立てはうまい。それについてはいうことがない。しかしごはんを炊くというのは準備も時間も必要だ。

冷めたごはんはイヤなのに、なぜか我々日本人、おにぎりにするとそれを許せてしまうのである。いったいこれはどういうことだろう。そこを逆手にとって肉を焼いてもいいし何か作ってもいい、キャンプ飯のごはんの部分を、炊飯をせずにおにぎりに置き換えてはどうか、といつも思っている。
そしてこれ、COVANの「RICE BALL CONTAINER」を手にした諸兄においてはアウトドアアクティビティの食事の部分を削ぎ落とすという意味ではなく、シンプルな握り飯と味噌汁という日本人の素の場所に立ち返ってその尊さを野外でもう一度確認し直す。昔の旅人や農作業の人々のことを思ったり、実はそういうものがシンプルに美味しかったりパワーになったりという体験、現代において貴重なものだと思うのだ。
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もっと知りたいあなたへ
COVAN
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