伝統文化の継承と地域プロデュースで新たな未来を描く新・八芳園を先取り!

東京都内、JR目黒駅から目黒通りを都心方向へ向かうと、港区白金台の地下鉄駅近くで緑豊かな場所へいざなう看板が目に入る。かねてより結婚式場としてこの地で名を馳せていた八芳園は、現在では総合プロデュース企業として幅広い事業展開を行なっている。半年間の休館と改修を経てリブランディングを行い、2025年10月1日にグランドオープンを迎える八芳園。オープンを前に行われた内覧会の様子から先取りレビューとしてKURAFT目線でお届けする。
「継承と創造」をテーマにしたさまざまな取り組み
1943年の創業以来、白金台の地で日本庭園の美しさや和の様式美を守り続けてきた八芳園。隣接の明治学院やシェラトン都ホテルとともに、都心ながら豊かな緑と落ち着いた雰囲気を醸し出す白金を代表する場所である。
リブランディングでは、コンセプトを「日本の、美意識の凝縮」とし、テーマとして「継承と創造」を掲げている。単なる館内改修を行ったということではなく、事業のあり方そのものをリブランドしたということで、改修の大きな目玉のひとつでもあるCLUB FLOOR 5階「STUDIO KOKU」での発表会では、関本敬祐取締役総支配人によるこれからの事業展開についてのプレゼンテーションが行われた。

ブライダル事業のみにとどまらず、MICE(Meeting, Incentive, Convention, Exhibition)に選ばれる場所として、ビジネスイベントや国際会議などへの展開も積極的に進めることや、ZEB Oriented(ゼブ・オリエンテッド)※の認証を取得したことなど、企業としての取り組みへの説明がなされた。
もちろん、館内の改修は大きな変化であり、八芳園の門を潜り本館の姿を目にした時の来場者の驚きと期待は、館内ツアーで目にした多くのリニューアル、リブランディングの表現でさらに高まったものと思われる。ここからは実際に館内で見聞きし、体験したことを中心にお伝えする。
※ZEB Orientedとは:建物の一次エネルギー(石油、石炭、天然ガス、水力、原子力、太陽光など、自然から得られるエネルギー)消費量の削減率に応じて、4段階に分類される「ZEB(Net Zero Energy Building)」の区分の一つ。ZEBについての詳細はこちら(環境省ZEB Portal:https://www.env.go.jp/earth/zeb/detail/01.html)
メインロビーに凝縮された伝統文化と技術の粋に目を見張る

メインロビーでは、日本庭園と向き合うように設えられた組子アートの存在感に圧倒された。ロケーション的には2.5階となり、抜けのある4メートルのこのロビー、三方に精緻な組子アート「光風庭伝(こうふうていでん)」が設えられている。
これは、八芳園の庭園に息づく景色を描いた水墨画家・小林東雲氏の作品をもとに、「大川家具」で有名な福岡県大川市の組子職人・木下正人氏が、伝統的に受け継がれた技術と発想によって組子細工で表現したもの。「松」「竹林」「太陽」「月」などが立体的に緻密に表されており、日本の芸術と伝統技能の融合の美に目を見張ることは間違いない。
さらに、ロビーの中央には巨大なシンボルツリーの「松」が設置されている。この造形もユニークで、結び目のような枝の形状など、こちらも目を奪われる。このシンボルツリーも同じく福岡県大川市の家具職人・西田政義氏による作品である。
控えめな照明のフロアに浮かび上がる組子細工の壁面装飾とシンボルツリーは、いずれも芸術家と職人による重厚な伝統美を感じられるもので、ゲストを最初に迎え入れるメインロビーに相応しい存在といえる。
新設の「CLUB FLOOR」はビジネス会員がターゲット
メインロビーを経由せず、専用エスカレーターで直接アクセスするのが「CLUB FLOOR」。4階〜6階に設けられている特別なフロアだ。
エスカレーターで運ばれた先は、4階の「ROOFTOP TERRACE」。ここは八芳園が誇る日本庭園を一望することができ、企業向け会員サービス「CLUB HAPPO-EN for Business」の会員のみが利用可能となっている、オープンエアの場所である。季節の良い時には外の風に吹かれながらのイベントなどが行われたりするのだろう。
そのままシックな内装の館内へ進み5階へ。左手にはドリンクやリフレッシュメントを提供する「LOUNGE KOKU」が、右手には今回の発表会の会場となった「STUDIO KOKU」が広がる。STUDIO KOKUは、正面に全長20メートルのLEDウォールが設置され、来場者の視覚に訴える印象的なプレゼンテーションが行える。実際にこの場所で関本総支配人のプレゼンテーションが行われたが、内容もさることながら、このウォールによる映像の効果が非常に高く感じられた。

階段をさらに昇った6階には、「HALL HAKU」と「BAR HAKU」がある。5階のKOKUは黒がベースの重厚な雰囲気だが、6階はBARカウンターの後ろが全面の窓であることと、フロア自体が白をベースとしてまとめられており、爽やかで明るい印象だ。このHAKUでは内覧会当日、食事や手土産品の試食と展示が行われており、多くのゲストが行き交い、明るく華やかな賑わいのあるフロアとして印象に残った。
企業向け会員サービスは、このCLUB FLOORの優先利用をはじめとして、会議やイベントをサポートするもので、MICE需要などに幅広く対応するプログラムとのことだ。日本文化を感じさせる空間でのビジネスが必須な企業などには歓迎されるのではないだろうか。
その他にも、リニューアルされたバンケットはそれぞれ新しい魅力をもって、ゲストを迎える会場となっており、庭園の自然を愛でつつ集うことのできる空間が広がっている。
やはり気になる「食」、舞台は高輪にまで広がる

メインロビーから続く3階には、「ALL DAY DINING FUDO」という新レストランがオープンする。店内には400℃を超える高温での調理が可能な石窯を備え、看板料理の石窯ピザをはじめとした料理が提供される。テーマは「旬の食材で今を感じるひとさら」とのことで、八芳園と連携協定を結ぶ自治体の生産者から直送される素材を店内で仕上げているのが特徴。平日はランチ〜ディナー、土日祝日にはモーニングも提供するそう。
面白かったのは、ここで使われるカップ&ソーサーがドリンクカウンターに並べられたプレゼンテーション。「料理だけでなく、器からもその風土を感じてほしい」という想いから、器もその想いを伝えるべく選ばれたものが使われている。店内は落ち着いたインテリアで、隠れ家のような雰囲気があった。
残念ながらFUDOでは今回試食はなかったものの、6階のHALL HAKUで開かれた試食会で、八芳園が提供する食事の一部を試すことができた。職人が握る寿司や、丁寧に作られているのが一目瞭然のビーフシチューやアップルパイやフィンガーフードなどを味わうことができた。BARでは、柚子やレモンを使ったノンアルコール飲料のほか、オリジナルのクラフトビールなども提供され、いずれも爽やかな味わいで来場者の口を涼やかに潤していた。
さらに、同じくHALL HAKUの一角では、八芳園本体のグランドオープンに先駆け、9月12日に高輪ゲートウェイ駅直結のNEWoMan TAKANAWA内にオープンした、八芳園が手がける日本料理店「割烹 BUTAI」と洋菓子店「八芳園洋菓子店」の二つの新店舗が紹介されており、八芳園の食の舞台が高輪にまで広がっていることが示されていたのが印象的だった。
地域と時代と共に歩むこれから

八芳園のリブランディングでは、「エリアプロデュース」が大きな柱となっている。総支配人の発表でも、今後のビジョンとして、MICE強化や会員サービスの導入のほか、地域の魅力を発信・文化資産を活用した体験を展開するなど、ブライダルにとどまらない事業を手がけるとしていた。
中でも、白金・高輪エリアを全国各地の文化発信の中心拠点・体験の場とすることによって、「国際交流拠点」としてこの地域のエリア価値向上に向けて推進するとし、2025年9月にJR東日本と共創パートナーシップ協定を締結したことは大きな動きといえる。それぞれに得意分野の違う企業が手を組み、地域の文化発信と共創を行うというこの試みは、この白金・高輪エリアを皮切りに進んでいくようだ。
また、これだけでなく、中核拠点として山形、福島、徳島といった場所に営業所を構え、地方自治体と一緒に、エリアプロデュース事業を推進していくとも発表された。
「地方創生」を大切なテーマの一つとして掲げているKURAFTとしても、地域と共に歩もうとする八芳園のこれからの動きには注目していきたい。
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