2025.5.30

豊かな恵みと歴史が織りなす美食の宝庫、神秘の海・富山湾の魅力

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日本列島のほぼ中央、本州の日本海側に位置する富山県。その眼前に広がる富山湾は、ただ美しいだけでなく、世界的にも稀有な自然環境と、そこから生まれる圧倒的な海の幸で人々を魅了し続けています。

私は高校卒業までその地で暮らしていましたが、進学で東京に来て初めて、その魅力に気づきました。今回は、富山湾がなぜこんなにも特別なのか、その秘密に迫ってみたいと思います。

唯一無二の地形が織りなす「天然の生け簀」

富山湾の最大の特長は、その驚くべき地形にあります。水深が平均して深く、最も深いところでは水深1,000メートルを超える「海底谷」が海岸線からわずか数キロの距離にあります。このような急峻な海底地形は、世界的に見ても非常に珍しく、陸地の山々がそのまま海底に沈み込んだような形状をしています。

富山湾地形を説明した画像

この深く切り立った海底谷は、北から流れ込む冷たく清らかな深層水と、対馬暖流がもたらす比較的暖かい表層水が混じり合う場所となります。さらに、富山湾に注ぎ込む常願寺川や神通川、黒部川といった豊かな河川が、栄養に富んだ水を供給します。これらの要素が複雑に絡み合うことで、富山湾はプランクトンが大量に発生する、豊かな生態系が育まれる理想的な環境を形成しています。

また、海底が急峻なため、沖合に棲息する深海性の魚たちが、まるで陸の山々を登るように、ごく浅い沿岸域にまで接近することができます。そのため、漁師たちは沖合に出ることなく、比較的短い距離でさまざまな魚介類を獲ることができるのです。これが「天然の生け簀」と呼ばれる所以であり、富山湾の魚介類が新鮮な状態で食卓に届く大きな理由の一つです。

圧倒的な種類の魚介類が生息する奇跡の海

富山湾のもう一つの魅力は、その魚介類の種類の豊富さにあります。前述の独特な地形と水質の多様性により、富山湾には深海魚から暖海性・冷海性の魚まで、実に500種類以上もの魚介類が生息しているといわれています。これは、日本の他の海域と比較してもとびぬけて多い数であり、季節ごとにさまざまな旬の魚介類が楽しめることを意味しています。

富山湾を代表する魚介類とその魅力

富山湾には数多くの魚介類が存在しますが、中でも全国的にその名を知られ、富山湾の代名詞ともなっているものがいくつか存在します。それぞれに富山湾ならではの特別な理由があるようです。

ホタルイカ・春の富山湾を彩る神秘の光

新鮮なホタルイカがざるの上に並べられた画像

富山湾で最も有名な魚介類の一つが「ホタルイカ」です。

春、特に3月から5月にかけて、産卵のために群れをなして富山湾の海岸近くまで押し寄せるホタルイカは、その名の通り、体を発光させることで知られています。

夜の海に無数のホタルイカが発する青白い光は、まるで海中に星が瞬いているかのような幻想的な光景を創り出します。この神秘的な発光現象は、産卵期のホタルイカが網に捕らえられる際に刺激され、さらに強く光るためだそうで、多くの観光客を魅了し、富山湾の風物詩として親しまれています。

ホタルイカが富山湾で特に有名になったのは、その漁獲量の多さと、陸からでも観察できるほどの群れが接岸する「ホタルイカの身投げ」と呼ばれる現象が見られることです。富山湾の海底谷はホタルイカの産卵場として最適な環境を提供しており、世界的に見てもこれほど大量のホタルイカが接岸する場所はほかにありません。

夜の富山湾海中に浮かぶホタルイカ身投げの光の画像

ホタルイカは、その美しさだけでなく、そのおいしさでも人々を虜にします。新鮮なホタルイカは「沖漬け」や「釜揚げ」でいただくのが定番ですが、刺身や天ぷら、パスタなど、さまざまな料理で楽しめます。特に、内臓の旨味が凝縮された「ワタ」の部分は、濃厚な味わいが特徴です。

シロエビ・「富山湾の宝石」と呼ばれる幻の味

ざるの上に盛られたシロエビの画像

次に富山湾で代表的な魚介類が「シロエビ」です。

透明感のある淡いピンク色の姿から「富山湾の宝石」と称されるシロエビは、その繊細な甘みととろけるような舌触りが特徴です。一般的にエビというと、プリッとした食感を想像しますが、シロエビは全く異なる独特の食感を持っています。

シロエビは、水深150メートルから300メートルの海底に生息する深海性のエビで、富山湾は、その世界的にも稀なシロエビの群生地の一つです。富山湾の海底谷がシロエビの生息に適した環境を提供しており、全国で唯一、商業漁獲が可能な場所となっているのだそうです。

シロエビの食べ方としては、まずはその透明感を活かした「刺身」が最高です。口の中でとろけるような甘みと上品な香りは、まさに至福の味わいです。また、殻ごと揚げた「かき揚げ」は、香ばしさとエビ本来の甘みが同時に楽しめ、富山湾の食文化を代表する一品として推薦します。 

ブリ・出世魚の代表格、富山湾の冬の味覚

新鮮なブリが2匹陳列されている画像

富山湾の冬を代表する魚といえば「ブリ」です。皆さんご存じの通り成長段階で呼び方の違うブリですが、富山ではコヅクラ(20センチ前後)、フクラギ(30~40センチ程度)、ガンド(50~60センチ程度)、ブリと呼びます。尚、関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリとなり、関西ではツバス、ハマチ、メジロ、ブリがそれぞれの段階に該当します。

特に「フクラギ」という名前は大漁で港がにぎわい「福が来る魚」と呼ばれたことが由来とされており、漢字では「福来魚」と書きます。この漢字の縁起の良さや、さらに漁期が比較的長く、栄養価はブリと変わらぬほどにありつつも、ブリに比べ脂が少なくさっぱり食べられることから、富山県民にとても親しまれています。

そして成長した富山湾のブリは、脂の乗りが良く、身が引き締まっているのが特徴で、高級ブランド魚「氷見の寒ブリ」として全国的にその名が知られています。

富山湾のブリが有名になったのは、回遊ルートと定置網漁によるものです。北の海で育ったブリは、冬になると産卵のために日本海を南下し、富山湾沖を通ります。富山湾の沿岸では、古くから「定置網漁」という伝統的な漁法が盛んに行われており、回遊してきたブリを効率的に、また傷つけずに生きたまま漁獲できるため、鮮度が高い状態で市場に出回ります。

それゆえに、おいしいブリを富山湾から届けることができ、その味わいの良さゆえに有名になったといえるのです。

寒ブリの食べ方としては、やはり「刺身」が一番です。とろけるような脂と、しっかりとした身の旨味が堪能できます。また、「ブリ大根」や「照り焼き」、「塩焼き」なども定番で、そのどれもがブリの豊かな風味を存分に引き出す料理として親しまれています。

そのほかに、アカムツ(ノドグロ)やスルメイカ(花見イカ)も有名で、釣りが趣味の父のおかげで、実家の食卓にはいつも富山湾の旬の魚が並んでいました。久しぶりに帰省したときは懐かしいその味に感動を覚えました。

富山湾の魅力を支える人々と文化

富山湾の豊かな恵みは、それを守り、活用してきた人々の努力と知恵によって支えられています。長年にわたり培われてきた漁業の技術、旬の魚介類の味わいを最大限にいかす料理法、そして何よりも海の恵みへの感謝の気持ちが、富山湾の食文化を形成しています。

富山湾の漁師たちは、厳しい自然の中で、海の状況を読み、魚の生態を理解し、伝統的な漁法を継承しながら、持続可能な漁業を追求しています。また、富山県内の飲食店では、それぞれの店が工夫を凝らし、富山湾の新鮮な魚介類を使った独自の料理を提供しています。これらの取り組みが、富山湾の魅力を一層高め、多くの人々を惹きつけているのです。

五感で味わう富山湾の感動

その独特な地形が生み出す「天然の生け簀」と呼ばれる奇跡的な環境、そこで育まれる500種類以上の魚介類の多様性、そしてホタルイカ、シロエビ、ブリといった全国的に有名な魚介類が持つそれぞれの物語とおいしさ——これら全てが相まって、富山湾はほかに類を見ない魅力的な海となっています。

ただおいしい魚介類を食べるだけでなく、そこには、太古からの地球の営み、自然の神秘、そして海と共に生きる人々の暮らしが凝縮されています。富山湾の魚介類を味わうことは、単なる食事を超え、五感で富山湾の歴史と文化を感じることでもあります。

私は東京に来て初めて、富山湾の本当の魅力に気づくことができました。地元にいるときには当たり前だと思っていたことが、実はすごく貴重で、誇れるものなのだとわかりました。

もしもまだ富山湾の魅力に触れたことがないなら、ぜひ一度、この海が育む恵みを存分に味わってみてください。富山湾は、私たちに海の豊かさと、そこに息づく文化を教えてくれる、価値ある素晴らしい場所です。

ライター:中央大学 総合政策学部 樋口

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もっと知りたいあなたへ

富山県漁業協同組合連合会
https://www.toyama-sakana.com/

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