熊本発「ヘルシーファストフード」に東京のIT企業が関わる理由

地方創生に寄与したい思いが引き寄せたプロジェクトとの出会い
La popoteは、熊本市に本社を置くLand-Schaft株式会社(ランドシャフト)と、サンシード株式会社(東京)が一緒に行っている事業のブランドネームだ。レシピ開発をはじめキッチンカーでの調理販売をランドシャフトが、そこで提供しているキーマカレー、ハヤシソース、ミートソース、フルーツソースやスプレッドなどをレトルトで販売するECサイトの運営やプロモーションをサンシードが受け持っている。
一見なんの関係もなく、遠く離れた場所にある企業が、なぜタッグを組んで食の事業を展開することになったのだろうか。
「私たちサンシードは東京にあるIT企業なのですが、会社の考え方として、関わってくださるたくさんの方々とご一緒に、何か楽しいことができないかということを常に模索してきました。そして、東京だけがビジネスの場ではなく地方にもたくさんの良いものがある、それに関わらせていただき、地方を盛り上げて活気づけたいという思いを持っていたんです」とサンシード側の責任者である小林智恵が語る。
このように考えていたところに、熊本の企業で乾燥野菜製造や食品加工を行う株式会社HOSHIKO Linksとの出会いがあった。

HOSHIKOは、「KUMAMOTO TOMATO-logy PROJECT」という、熊本で採れた規格外のトマトを有効活用するプロジェクトを推進しており、その考えや実際の活動にサンシードが感銘を受けた。当時この陣頭指揮を取っていたHOSHIKOの冨永詩織と、サンシードのグループ会社に所属するフードスタイリストのマロンにかねてより交友があり、冨永が個人で関わる企業のランドシャフトとサンシードの両社によるLa popote事業が始まったのである。
キッチンカーを作るという試み
事業化するに当たって、熊本側ではメニューの開発など実際の食に関する部分を担当し、東京側では事業としての仕組みを整えるところを引き受けた。店舗を持つのではなく、「熊本を中心として福岡など九州一円に美味しい食事を提供したい、身軽に出かけて行ってみなさんに食べてもらいたい」との考えから、キッチンカー(フードワゴン)という選択をした。
このキッチンカーというスタイル、最近はイベントだけでなく、定期的に定位置に出店するものも増えている。ここでキッチンカーについて見てみると、その台数は2015年以降増加しており、新型コロナウイルスの影響によるテイクアウト需要の高まりもあり、さらに伸長した。これは東京都の数値だが、2015年には3000台程度だったものが、2022年には約5000台が営業許可を取得している※。
※東京都福祉保健局「食品衛生関係事業報告」より試算
キャッシュレス決済の導入や、モバイルオーダーアプリの活用など、新しい技術も取り入れて利便性を高める店舗も多く、またコロナ後のインバウンドの増大なども追い風となり、キッチンカーの将来展望は明るいと見られている。
話をLa popoteに戻すと、このような社会の動きもあいまって、キッチンカーをホームとして展開していくことを主軸に据えた。そして、キッチンカーのスタイルにもこだわりをたくさん詰め込むこととなる。
キッチンカーの制作は、同じ熊本の企業キッチンカー九州Labが行った。「既製品の車に最低限の手を加えただけの味気のないキッチンカーは、私の思い描くものではなかったので、こうしたいというものを全て伝えて叶えてもらいました」と冨永は言う。フロントグリルもどこかレトロなフランス車のように造作を加え、ブルーグリーンのテーマカラーにペイントされた、パッと目を惹く個性的でかわいらしいキッチンカーがやっと出来上がった。
自らの会社でもフードを提供するキッチンカーを運営するキッチンカー九州Labには、キッチンカービジネスにおいての先輩として、色々と教えてもらうことも多かったと冨永は振り返る。
「ヘルシーファストフード」という新しい価値観の美味しい食べ物を提供したい
いまでこそ多くのキッチンカーが見られるようになったが、少し前までは、キッチンカーで食べられるものは、たこ焼き、クレープ、焼きそば、などといったものが多く、どこかジャンクフードやファストフードといった捉えられかたをしていたのではないだろうか。
2000年代の前半から、主に都市部ではあるものの本格料理を提供するキッチンカーも登場し始めるが、やはりテイクアウトのお弁当やスナック程度のものといったイメージもまだ健在だった。

La popoteはそんなイメージを塗り替えたい、という思いでメニュー開発を行っている。提供しているキーマカレーをはじめとするフードは、HOSHIKOの乾燥野菜を軸に原材料に基本は熊本産のものを使っている。地域の食材の魅力を多くの人に知ってもらいたい、という思いからだ。熊本産とならない場合でもほとんどのものに国産の安心・安全な素材を選択している。
さらに、サスティナブルでエコという視点も大切にしている。「KUMAMOTO TOMATO-logy PROJECT」と同様に、乾燥野菜やフルーツソース・スプレッドも、なるべく規格外や市場に出回らず廃棄されそうなものを買い取って原料に使用する。熊本は農業が盛んで農業立国ならぬ農業立県といわれるほどの土地であるが、生産量が多ければ、諸条件によって規格外や廃棄となる作物も多く出てくるのも事実である。

廃棄となればその価値はほぼゼロとなるが、乾燥野菜やスプレッドなどの原料としてなら不揃いな形も関係ないため有効活用できる。味が良い産品は加工しても良い味を出す。La popoteはそうやって作られたHOSHIKOの製品を基にしている。計画的な仕入れで野菜の廃棄を減らすのもサスティナブルな社会への貢献、おいしいものを「持続可能な」形で提供することも大きなテーマなのだ。
メインとなるキーマカレーは、熊本産の乾燥野菜と国産の豚肉を使ったトマトキーマ。この乾燥野菜は当然HOSHIKOのものだ。トマトも熊本は八代のはちべえトマトを使用しており、ほどよい酸味と野菜の滋味が伝わってくる味わいである。本格的な香り漂うカレーでありながら、キッチンカーで手軽に食べられ、しっかりと野菜も摂れる。野菜不足を解消して健康なカラダを目指せるメニュー。
これが冨永の目指す「ヘルシーファストフード」のひとつの形である。オーダーして数分もかからずに出されるお弁当だけれどジャンクなものではなく、栄養面もしっかり考慮された「ヘルシー」な「ファストフード」なのである。
La popoteの味をおうちでも〜IT企業としてECビジネスを担当
そんなLa popoteのフードは、現在レトルトとしてECサイトで販売もされている。

キッチンカーで提供するメインメニューとなる、「はちべえトマトのキーマカレー」と、同様にHOSHIKOの乾燥野菜を原料にしている、「ハヤシソース」と「ミートソース」が現在La popoteのECサイトのメイン商品となっている。パッケージもかわいらしく、野菜がたっぷりというのが前面に押し出されたデザインは、なるほど「ヘルシーファストフード」を名乗るのもわかる、といった感じである。
このECサイトはLa popoteの紹介も兼ねるWebとして運用されているが、この部分をサンシードが引き受けている。やっとここで本業を活かす場面が出てきたといえる。しかし、サンシードは企業のシステム運用などのビジネスには長けているが、小さなECサイトをゼロからどのように作って運用したら良いのかは実は手探りだったそうだ。

しかし、餅は餅屋、さまざまなトライアルの後にグループ会社のリソースを活用しつつ、イメージカラーのブルーグリーンを全面的に使ったシンプルなECサイトが生まれた。今後は、提供メニューで使用しているフルーツの各種ソースやスプレッドや、ロゴのウサギをあしらったオリジナルグッズなどの商品も追加されていく予定だ。特にソースやスプレッドは、飲食業向けの業務用商品としての開発や販売にも力を入れたいとのことで、「ヘルシーファストフード」の拡大に寄与していくことになりそうだ。
地方のよいものを発信することでみんなの幸せを実現する
東京のIT企業が「周りのみんなと何か楽しいことができれば」と考えたところから始まったこのLa popote事業は、ITと食という全くかけ離れたそれぞれの得意分野を担当し、お互いの動きをサポートしながらドライブをかけることで実現した。
現在では、キッチンカーは熊本市を中心にしながらも、九州随一の都市福岡市の主催するエコロジーイベントに呼ばれるなど認知を高めており、その活動の幅を広げ始めている。さらに、ECサイトオープン時のレセプションに招かれた客から、味は当然のことながらコンセプトに共感し、東京に拠点を置く外資系企業のパーティでのケータリングを受注するなど、キッチンカーを飛び出したビジネス展開も期待される。

計画から実現(実際にキッチンカーを運用して営業する)までには、知ることのない細かい苦労がそれぞれにあったことだろう。しかし、根底にはお互い「地方(地域)の良いものを使いビジネスを組み立て、それを発信していくこと」を使命としていることが大きい。そしてこのLa popoteの事業は、関わるみんなの幸せを実現するべく、これからも新しいチャレンジを続けていくのだろうと思われた。
「ヘルシーファストフード」、今年はこの言葉がキッチンカー界隈で多く聞かれるようになるかもしれない。
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もっと知りたいあなたへ
La popote:https://lapopote.jp/
HOSHIKO Links:https://hoshiko.co.jp/